再訪アクアマ陵
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儀式の扉の前に戻ってくると、そこは混乱した民衆達がごった返していて、祭りの渦中と変わらない喧騒で混沌としていた。
学友達は隅の方で固まっていて、すぐ見つけることができた。
「大丈夫だった?」
ラックが心配そうに尋ねた。
「ああ、もう怪我は治ったから」
「ひぇ……戦ったんだね?」
「取り逃したけどなー」
「みんな悪魔が来たって怯えて逃げてきたんだ」
「正面玄関の清掃が終わり次第、そのうち解放されるだろ」
近くを慌てた従者がドタバタと走り去り、ヴァイは見つからないようそっと学友達の陰に隠れた。
「こんな緊急事態だし、儀式なんてやってる場合じゃあないよな」
やたらと嬉しそうに言うヴァイに、ロアはため息をつき、ラックは悩ましそうに眉を寄せた。
「ヴァイは本当に儀式には興味がないみたいだね」
「だってそうだろ?
革命軍が王宮に宣戦布告しに来たんだぜ、呑気に儀式なんてやってる場合じゃないって」
「いやいや。何があっても儀式は遂行しないと。
この儀式を行うことによって、王は王権を更新する。
王が王権を授からなければ災いが起こると、昔から伝わってるからね」
ロアは神妙な顔で同意する。
「うんうん。ほんと大変なことになっちゃうんだからね!
川の流れが逆流したり、木々が全部枯れ果てたり、湖が干上がったり!」
「ただの伝承じゃないの!?」
「私でもよく覚えてるもん」
魔法がある世界ならそういうこともあるのか、とヒカルは思う。
そして、ふと気付いた。
「そういえばシトリさんと王様は?」
「予行の時、扉の向こうに行って……帰ってきてたっけ?」
「いいや、扉が開かれたのはシトリと王が入った1度きりである」
カラレスが答えた。手元には入り口の扉のスケッチがある。
「吾輩は暇故にずっと扉の紋様を書き写していて、扉に注意を払っていたのである。
この事実に間違いはないのである」
「祭壇は奥の方だから騒ぎが伝わってないのかな……」
ヒカルは言う。
「今祭壇で2人を暗殺したら、誰もわからないね」
「!」
「それはないんじゃないかな」
と、ラック。
「祭壇への入り口は2つ。大扉から繋がる廊下と、祭壇の天井に当たる火口の縁だ。
大扉はこのように衆人環視の中で、侵入は不可能だ」
「この王宮は正に独特な建造物であり、標高の低い火山を覆うように王宮が建設されている。
王宮に忍び込めるのであれば、どこかから抜け出して火口から侵入することは可能なのではあるまいか?」
「山肌は隠れるものがなくて、警備にすぐ気付かれる。現実的ではないよ」
「いや、俺たちはもう1つ道を知っている。そう言いたいんだろ、ヒカル」
ヒカルはヴァイの言葉に頷いた。
「アクアマ陵の地下だ、あそこには祭壇に通じる抜け道がある」
「カギ付きの扉で守られてなかったっけ?」
「強行突破には容易いだろう。あの義足なら蹴破れてもおかしくはない」
ヒカルとヴァイの意思は1つだった。
「俺たちはアクアマ陵に行く。みんなはどうする?」
「私もついていくよ」
ロアはすぐに参加を表明した。
「僕はここで待っているよ」
「わ、吾輩は参加を希望するである……しかし、戦闘力皆無な吾輩が参加しても平気であるか?」
「構わないよ。でも、どうしてそこまでして?」
「わかった、“義足”の技術が知りたいんだ。
でもアレは異世界の技術っぽくはなかったぞ」
ヴァイはカラレスの考えを読んで言う。
「そ、それも理由の1つではあるが……シトリは学友である。危機を見過ごしたくはないのである」
「なるほどな。
……イチゴは?」
ずっと一行についてくるだけだったイチゴに、ヴァイは選択を求めた。
「私はどちらでも構いません。
カラレスさんの手助けをするため、同行しましょうか」
「感謝である」
「よし、そんじゃ行くぞ」
そっと群衆から離れた所に移動すると、ヴァイは壁の一部分を押した。すると、人1人通れるかギリギリの通路が現れる。
「な、なんと」
「内部構造なら俺に任せろ」
ヴァイを先頭にし、5人はこっそりと隠し通路を進む。
「けど、どうするんだ?
港は玄関ホールの先にある。今は現場検証とかで兵がたくさんいるだろうし、たとえ先に行けたとしても閉鎖されてるだろうから船頭もいないだろう」
「問題ない」
ヴァイが特定の扉を開けるとその扉は隠し港に通じていた。
「さっすが」
手際良く船を浮かべるヴァイに、ヒカルは準備のよさの理由を察する。
「元々こうやって逃げ出す算段だったんだな?」
「……」
ヴァイはすっと目を逸らした。
ロアは咎めるように叫ぶ。
「あー!こら!」
「僕はそういう所いいと思うよ」
ヴァイは少し得意げにニヤリと笑った。
アクアマ陵に近づくと、人の姿がまばらになる。祭の最中だというのに客も店主も屋台を放り出してどこかに行ってしまっている。
何らかの異常事態が起きているのは間違いなかった。
「ヒカル、ヴァイ!あの店に注目である!」
カラレスが指差した先には、柱ごとひしゃげた屋台があった。まるで巨大な怪物に踏み潰されたかのようだ。
「さっきのあいつ……プレスとかいう奴の仕業だ!」
「間違いなくアクアマ陵に向かってる」
一行は急いでアクアマ陵に向かう。
道中、カラレスが尋ねた。
「義足というのはそんなに巨大なものであったのか?」
「いや、大きさは普通だった。金属製に見えたけど、溶けていて形がすぐ変わるんだ」
「……?その義足、歩けるのであるか?」
「たぶん。自由に伸縮できるみたいで、石の床を割るぐらい簡単にできていた」
「最先端の魔術でも、そのような代物は作成不能である。
図書室の技術雑誌は一通り目を通した故、間違いないのである」
「なら、義足は幻術で、視線を逸らしている間に何らかの魔法を使って攻撃している……?
いや、それができる技術を持っているなら他にやりようがあるはずだ」
アクアマ陵の入り口は更に酷い被害を受けていた。あちこちの壁や柱に義足で踏み抜いた足跡があり、瓦礫が積み上がっている。
スタッフが倒れた人々を介抱するため右往左往し騒然としている。
「すいません!俺たち中に入りたいんですけど」
「やめておきなさい!さっき変な仮面を被ったヤツらが中に入っていったんだ。子供が敵う相手じゃないよ」
ヒカルは確信する。敵はあの扉から侵入するつもりなのだ。
「すまない!緊急事態なんだ!」
「わっ!?」
ヴァイは案内人を押し退け、迷宮に無理矢理侵入した。




