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“転生秘法”

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 ヤマは深くため息をついた。


「やっぱり、その話か」

「その議題であるなら吾輩も参加させて頂きたい」


 カラレスもメモ片手に参戦した。


「吾輩は図書館にて調査を行った。

その調査結果の確認をさせてほしい。

まず1つ。“転生秘法”とは、古来より“転生者”のみが1人につき1種のみ使用できる魔法である。

2つ。“転生秘法”は“魔法”や“世界魔法”の無効化が可能である。

3つ。これまで公式に確認されている“転生秘法”は、『空:キャヴティ』『苦:ペイン』『握:グリップ』の3種である。

以上に間違いは無いだろうか」


 ヤマはあいまいに頷いた。

 ヒカルはヤマが逃げ出しそうな雰囲気を感じ、より睨みを効かせた。


「そうだね。間違いはないと思うよ」

「で、あるならば……吾輩から尋ねたいことは4つ。

1つ。“魔法”とは、術者の魔力を術者の想像したものに従って具現化したものである。であるならば、“転生秘法”とは“何”を想像したものなのか。

2つ。何故術者は“転生者”に限られ、1人につき1種しか扱えないのか。

3つ。ヒカルは“転生秘法”を使うと他の魔法が急激に使えなくなると言うが、それはヤマ教授でも同じか。

4つ。ファイヤ国建国時の英雄“グリップ”とは、ヤマ教授のことであるのか」

「色々、確信を突く質問だね」


 ヤマは困った様子で頭を掻いた。


「僕からも質問を加えさせてください。

何故、ヤマ先生はずっと自身が“転生者”であり、“転生秘法”を使えることを隠していたのか。

だいぶ“転生秘法”を使いこなしているようだけれど、そのコツは何なのか」


 ヤマは気が向かない様子だったが、少し間を置いて口を開いた。


「まずはヒカル君の問いから答えよう。

何故“転生者”であることを隠していたかという話だけど……僕には隠しているつもりはなかったんだ。

ヒカル君はこの世界に来たばかりで覚えることが多いだろう。だから、あまり重要ではない僕のプロフィールについては伏せていたんだ。

結果的に隠すようなものになってしまったのは申し訳なく思っている。すまなかった」


 ヤマはヒカルに頭を下げる。しかし、ヒカルの中にある不信感を払拭するには至らなかった。


「次に、何故使いこなしているか、だが……

これは単に年の功というものだ」

「つまり、通常の魔法と同じく、経験、使った回数によって熟練するもの……という認識であるか?」

「“転生秘法”を極めることはお勧めしない」


 カラレスの言葉には答えず、ヤマは忠告した。


「“転生秘法”を極めずとも、ヒカル君は強くなれる。“転生秘法”を知らずとも、カラレス君は魔法理論を理解できる」

「然れど……例外も知らねば理解を深めたことにはないのではなかろうか?」

「統計で“外れ値”というものがあるだろう?

考えるだけ無駄な、特大級の例外。

そんな感じのものと捉えばいい」


 ヒカルは、ヤマが“転生秘法”を極めさせたがっていないことを悟った。


「訊かれたからには知ってる所までは答えるけどもね……さて、次はカラレス君の問いの番か」

「1つ、“転生秘法”とは“何”を具現化しているのか」

「これは僕の想像になるが構わないかな?」

「構わない」


 ヤマは紙を取り出すと、杖を持った人と、杖先から火が出ている様子を描いた。


「これが通常の魔法を使っている様子としよう。

周りを白いキャンパスだとして、そこに自由に“魔法”という絵を描き加えているイメージだ」

「一般的な魔法使用の要素である」

「“転生秘法”とは、これに上書きを加えられる魔法……なのではないか、と僕は考えている」


 ヤマは小さな紙きれにバツ印を描き、炎の絵の上に貼り付けた。


「確かにそれは規格外である」

「この上書きの方法は“転生秘法”によって異なる。僕の場合なら……そうだな」


 ヤマは紙に描かれた炎の絵を切り取り、手のひらの中でクシャっと握り潰した。


「なるほど、“上書き”の仕方にも、『グリップ』ならではのものがあるということか。

つまり、想像しているものは“上書き”……?」


 カラレスは首を傾げる。


「その程度であれば、異世界人に限らずとも、誰かが想像していてもおかしくはないはずであるが……」

「確か、次の質問は『何故転生者1人につき1種に限られるか』というものだったかな。

『何故転生秘法は異世界人にしか使えないのか』これについては、僕から回答できることは何もないんだ……申し訳ない」

「むぅ……その辺りは研究の余地があるということか。

比較研究でなければ把握しづらい問題も存在する。ヤマの責任ではないであろう。

次の質問に移ろう」


 次の質問はヒカルも気になっていた“何故他の魔法が使いづらくなるのか”という問いで、ヒカルはより注意深く聞く。


「それについては、恐らく“上書き”の性質に問題があると考えられる」

「“上書き”の性質の影響とは」

「通常の魔法とは在り方からして違うから、理由は様々に考えられる。

僕が言えるのは、通常の魔法と“転生秘法”は相性が悪く、両刀するのはものすごく難しい、ということだ」


 また“転生秘法”を使うな、という話になりそうだ、とヒカルは予知した。


「ヤマ先生は両方使えますよね」

「そんなことはないさ。この間イチゴ君に使ってから、何日も通常の魔法は使えないままさ。

できることなら使わない方が1番良い魔法だよ」


 やっぱり、予想した通りの答えだ。

 ヤマは“大人”で、教師だ。“子供”に言うことを聞かせるためなら簡単に嘘もつくだろう。

 話半分で聞いていればいいや。


 ヒカルはそう考える。


「それでは、最後の問いに答えて頂けるであろうか。

ファイア国建国時の英雄“グリップ”とは、ヤマであるのか」

「それは……まあ……はいかいいえか、と訊かれれは、はい、と答えるしかないな」

(しん)であるか!?」


 カラレスの目が驚愕で大きく見開く。

 ヤマはあからさまに謙遜を始めた。


「そんな大した事じゃないよ。

当時まだ“子供”だった僕はファイア君と仲が良くて、何度か一緒に冒険したことがあるってだけで……

後世では話にめっちゃ尾鰭がついちゃって。伝承に言われるような者じゃないんだ」

「然れど、絵本などになっている“グリップ”の英雄譚の元はヤマ教授の話かもしれないのであるな?」

「だいたいが創作か民話を改変したものだよ……

あんまり公言しないでくれよ?期待されると力が出せない気質なんだ」


 ヤマは本当に気恥ずかしそうにしている。

 その時、ヒカルでもカラレスでもない声が割って入った。


「私からも1つ、よろしいでしょうか」

「何かな、イチゴ君」


 イチゴは立ち上がり、深々と礼をした。


「先日は助けていただき、ありがとうございました。また、無礼な物言いをしてしまい、申し訳ありません」

「僕には無礼講で構わないけど、学園外の“大人”に無礼講にするのは控えようね」

「はい。完全に、私は未熟でした。

私は未熟であったにも関わらず、ヤマ先生は“転生秘法”を使い、秘密が暴露されても、私を救うことを決断しました。

それは何故でしょうか」

「何故……と言われても」

「祖国でも、ファイア国でも、“羽化”を迎えていない“子供”は“人間未満の物”に過ぎません。

未熟である物、不良品は、捨てるのが道理ではなかったのですか?」


 ヤマは少し悲しそうな顔をした。


「この世界の倫理観についてはよくわかっているつもりだ。

けれど、僕は“転生者”だ。

君という個を見捨てたくはなかった」

「“私”という個……」


 イチゴは考え込む。


「よくわからない概念です」

「なら、だんだんわかっていけばいいさ」

「そうですね。異論ありません。

私からの質問は以上です」


 イチゴは着席した。


「さて、他に質問はあるかな」


 ヒカルはもう少し“転生秘法”について知りたかったが、秘匿主義のヤマでは肝心な所は教えてくれないと悟りきっていた。

 カラレスも、手持ちのメモを確認して満足げな様子だ。


「うむ。現段階でヤマから知りたい情報はあらかた聞き終えたのである。

この結果を踏まえた再調査後、再度聞き取り願いたい。

今のところは、協力感謝!である!」


 2人の用が済んだ所を見計らって、ロアは2人に近付いた。


「話終わった?

なら、そろそろ王都に行こうよ!ヴァイも待ってるし」

「祭りであるか……吾輩、実際に行くのは初めてである!」


 カラレスは乗り気のようだ。


「僕は、魔法の練習がしたかったけど……まあいいか」


 誰もいないのに自主練習していてもつまらないだろう、とヒカルは思った。


「よし、じゃあ、イチゴも行こうよ!」

「私もですか?」

「あ、誰かと一緒に行く予定あった?」

「そういう訳ではありませんが。

今から図書室に行って、『自我』についての本を探そうかと」

「心意気は良し。だけども、『自我』は図書室で探すだけでは見つからないのだ」


 やけに自信満々にロアは言う。


「本を読む、外に遊びに行く、戦う、学ぶ、そういうさまざまなことから出会うものだよ!

6千歳の私が言うんだ、間違いないね!」

「なるほど」

「そして今日は数十年に1度の祭りの日!行かずにチャンスを逃すのはもったいない!」

「そう仰るなら、同行しましょう」

「やったあ!」


 ロアは我先にと廊下を駆け出す。それにカラレスが続き、ヒカルとイチゴも後に続いた。

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