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“炎の大祭”

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 寮で朝食を食べ終わると、ヴァイは突然話をきりだし。


「なあ、今日は授業サボって街に行かねーか?」

「何で?」


 突拍子もない話に、ヒカルは驚いて聞き返した。


「いやさ、今日から王都でお祭りがあるんだ。

出店とかもあるし、何より見てて楽しいんだ」

「へえ……それって、いつだか前に話してた“炎の大祭”ってやつかな?」

「そう、それそれ」

「……どうしようかなあ……」


 ヒカルは本気で考え込んだ。


「今日はヤマ先生の授業だから、転生秘法について聞きたかったんだよな……」

「そっか……」

「授業終わってからじゃ間に合わないかな?」

「それについては全然大丈夫。なんせ今日は前日祭だからな。むしろ盛り上がるのは午後からだ」

「なら、ヴァイも授業受けてからでもいいんじゃないか?」

「どうせ今日行っても、祭の意味とか時代背景とかまとめた特別版の授業しかないだろうからな」


 ヴァイは嫌いそうな授業テーマだ、とヒカルは思う。


「ヴァイが1番受けるべきだと思うんだけどなあ……」


 ロアが呆れた口調で言ったが、ヴァイは聞きもせず船着場に向かってしまった。


「じゃ、私達は教室行こっか」


 Z組の教室には、イチゴとカラレス、ロアが揃っていた。

 ヴァイの姿は当然として、シトリとラックの姿はない。


「2人は講師できるぐらいには知ってるから、わざわざ受ける必要ないんだ」

「なるほど……」


 文化系に強い2人が十分な知識を持っていることはヒカルにも簡単に想像できた。

 しかし、長年学園に在籍するロアも何度も授業を受けているはずでは?ともヒカルは思う。


「ロアは受けるんだ?」

「私?ああ、まあ……どうしても忘れるんだよね。特にこういう最近(・・)の行事はさ」

「なんか生々しい理由だな」

「生きる信条は“浅く広く”って感じだからね。まあ忘れることも多いでしょ」


 ロアはあっけらかんと言った。忘れたことに対する後悔などはない。

 ちょうどその時、ヤマが教室に入ってきた。


「よーし、いるのはイチゴ君、カラレス君、ロア君にヒカル君か。

シトリ君の家業で欠席は毎回のこととして、ラック君は自主欠席かな。

ヴァイ君は今回も欠席か……

うーん……ま、いいか」


 ヤマは一瞬悩ましそうにしたが、すぐに元の調子に戻った。


「それじゃ、授業を始めます。

今日の授業は、“炎の大祭”特別編。

“炎の大祭”にまつわる知識を知って、祭をもっと楽しもう!」


 最初に、ヤマは一式の紙芝居を取り出した。


「まずは、この祭にまつわる神話について、紙芝居で学ぼう」


 紙芝居の1枚目をめくると、巨大な鍋をかき混ぜる人影の絵が出てくる。


「ファイア国で信じられている神話では、世界は神の鍋の中にある。

原初の世界にはなにもなく、水と土と空しかなかったが、神がヘラでかき混ぜることで、大地と海が形作られた」


 2枚目3枚目には、かき混ぜられた世界に大地が現れ、木々が生い茂る様子が描かれている。

 4枚目は鍋をくべる炎が鍋を包み込んでいる絵だった。


「ある時、神の鍋を温める炎が猛り、その火花が鍋の内側へと散った。

中でも特に大きかった火花は山を作った。

人々は火花が作った山を、神から贈られた力の山、サピロスと名付けた」


 5枚目の紙芝居には繁栄する街が描かれている。


「神の力を宿すサピロス山は、数十年に一度、爆発的な力を放出し、人々に恵みと災いを与えるようになったーーー

以上が、神話におけるサピロス山だ」


 ヒカルは聞いても特に何とも思わなかったが、カラレスは興味深げに軽くメモを取っていた。


「さて、ここまで何か質問はあるかな?」

「吾輩から、質問をしても宜しいであるか」

「なんだろう、カラレス君。僕に答えられる話だと良いんだけど」

「サピロス山の“サピロス”とは、“地球”の言語で宝石の名前を意味する言葉であると聞いた。

その“炎”と異世界“地球”との関連は如何なものであろうか」


 サピロスって宝石の名前だったんだ、とヒカルは意外に思った。


「面白い考えだね。だけど、うーん……どうだろうなぁ。

関係はないと思うよ。

恵みの源の“炎”を称える時、異世界の言葉がいい感じに高貴そうだったんじゃないかなぁ」

「なるほど……」

「多分、そういう話なら僕よりラック君の方が詳しいから、ラック君に聞くといい」

「解したのである」


 カラレスは納得した様子だ。


「他に質問はあるだろうか」


 ヤマは一通り見回したが、次なる質問者はいなかった。


「……うん、無いみたいだね。それじゃあ次に行きます」


 次にヤマが取り出したのは本だった。しおりを挟んだページを開くと、大きな扉と扉の前に佇む王の絵が出る。


「ファイア国の王にはサピロス山と対話する役割がある。

その役割の最も代表的なものは、サピロス山の動きが活発になる時期に王宮の奥に存在する祭儀場で儀式を行うことだね」


 ヤマは本の絵の扉を指さす。


「この扉の先にあるのが祭儀場だ。祭儀場の様子は、王と次期王しか知らない。シトリ君なら知っているだろうね」


 ヒカルには思い当たる場所があった。

 “迷宮”を探索している中で見つけた抜け道の先にあった場所で、ロアがやたらと帰ろうと言っていた場所。


 そんなにヤバい大事な場所だったんだ。


 ヒカルは気まずくなった。


「王と次期王は、ここで儀式を執り行って、王になるに相応しい力を得る。とされている。

サピロス山から王に力が贈られたことを祝う祭、それが“炎の大祭”の本質なんだ」


 単にお祭り騒ぎがあるという訳でもないのか、とヒカルは学ぶ。


「元々は、宗教的・政治的な側面が強い祭だった、ということはわかったかな?」


 ヤマは生徒一同の理解度を確かめた。

 つまずく様子のある生徒は見られなかったので、ヤマは授業を続けた。


「今回は深掘りしないけど、王都周辺に“迷宮”が多いのはサピロス山の影響である、なんて説もあるんだ」


 サピロス山の活動が活発になるにつれて“迷宮”の内部構造の変化が多くなるが最も顕著な相関点だね、とヤマは軽く説明する。


「まあ、その話は迷宮学でやるから今はいいとしよう。

さて、始めは宗教的なイベントだった“炎の大祭”だけど、次第に商業的にも大きな価値を持つようになったーーー」


 その後ヤマは“炎の大祭”がいかに国を挙げた一大イベントになったかを解説した。

 ヒカルは長丁場の座学になることを覚悟したが、意外にも通常授業の半分の時間でヤマは授業を切り上げた。


「所詮は前説。ある程度事前知識を確認したのなら、あとは実際のお祭りを楽しむ方が良い」

「さっすが〜!ヤマは子供ゴコロをよくわかってる大人だね!」


 既に座学に飽きていたロアは大喜びだ。


「じゃ、早速遊びに出かけようよ!」

「ちょっと待ってほしい。僕は、ヤマ先生に訊きたいことがある」


 今にも教室を飛び出しそうなロアを、ヒカルは止めた。


「訊きたいこと……?

何だろうか」


 ヤマは浮かない表情でヒカルと向き合った。

 逃げ出しそうなヤマの様子にヒカルはめざとく気付き、強い態度で迫った。


「“転生秘法”について、教えてもらえますね」


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