表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/44

グリップ

9/10

 死闘は長時間にわたって続いた。ヴァイとシュウは致命打を与えないよう気をつけて戦わねばならず、少しずつ消耗が大きくなっている。


「……やはり、疑問点が残る」


 長いこと考えていたカラレスが口を開く。


「何故魔力限界規模より小さい肉塊が存在できたのか。それを解明しないことには、イチゴの無力化は不可能」

「質問なんだけど」

「うむ」

「魔力限界規模って何のこと」

「魔力が宿ることができる大きさの限界を意味する学術用語である。

魔物にも魔獣にも、魔力を宿せる最小の大きさ、というものが存在する」


 これぐらいだ、とカラレスは手振りで説明する。ラックが捕捉して説明した。


「“ニホン”の単位に直すと、直径12センチメートルの球と言われている」


 言われてようやくヒカルは先程のネズミの異常を把握した。半分になったネズミの肉塊は直径5センチ程度しかなかった。


「この大きさはおおよその基準であるため、例外も存在する。

しかし、そんな例外も倒すのがこの魔封じの短剣である」


 カラレスはヒカルの持つ短剣を示した。


「この短剣は接触した点より、魔力限界規模の3倍、つまりは直径“36せんちめーとる”の魔法を無効化する」

「そんな仕組みになっていたのか」


 ヒカルは短剣の半透明の刃を見る。


「普通の物に刺したらどうなる?」

「魔力が宿ってない物に対して、ってことかな?

その時は普通の短剣として切れるよ。少し切れ味が悪いぐらいの」


 ヒカルの素朴な疑問にラックが答えた。


「これはただの思いつきなんだけど……」

「仮説か、聞こう」

「この短剣で刺せば魔物は消せる。

けど、ネズミは消えなかった。

なら、ネズミは元々魔物ではなかったんじゃないかって」


 カラレスは電流が走ったような顔をした。


「ならば……

ヴァイ、微生魔獣の一部でいい、捕獲できないか!」

「捕獲って、どうやって」

「これ使って!」


 ラックがガラスのボトルを放り投げる。材料を探す時に発掘した物のようで、汚れていたが傷は無い。

 ヴァイは乱戦で千切れ落ちた微生魔獣の破片を魔法で宙に浮かせ、ボトルの中に押し込む。

 投げ返されたボトルをカラレスは観察する。


「これは……正確には微生魔獣ではない!

微生魔獣の器官の一部である!」

「わかるのかい!?」

「前に“あんてな”の開発時に読んだことがある!

微生魔獣の中には自身の器官を通じて遠隔で行動を指示するものがいると!

指示に魔法は使うものの、存在自体に魔力は使わない!」

「つまり、イチゴは助けられる?」

「それは……現時点ではまだ手法は見えない」

「でもカラクリはわかった!

つまりこの表面の奴は本体じゃない!」


 ヴァイは声に希望を滲ませる。


「それなら本体はどこに……」

「遠くでない事は確かである!」


 カラレスは答える。


「指示を魔法で出しているということ、即ち魔法が届く場所に本体が無ければ不可能」


 ヒカルはこれまでの戦闘を必死に思い出す。

 イチゴはネズミを炎の竜巻で巻き上げて燃やした。ヒカルは重力を逆転させ、天井に張り付いたネズミを燃やして倒した。


 ……天井?


「そういえば、天井に張り付いた時、ネズミは動かなくなった……」


 思えばおかしな話だ。微生魔獣はイチゴの身体がどうなろうと動き続けた。それが、果たして重力が逆転した程度で動きをやめさせるだろうか?


「床下じゃないか!?」


 ヒカルが気付き、叫ぶ。すると、即座に旋風が廊下を通り抜け、床の木板を切り裂いた。

 それはロアの魔法だった。


「ヒカル、もう一回転生秘法は使える?」

「やってみせる!

転生秘法ーー(グラビティ)!」


 廊下の重力が逆転し、ヒカル達は天井に叩きつけられる。

 ヒカルは天井の上で体勢を整える。すると、バラバラになった廊下の木片の山の奥に、真っ白な塊があった。バランスボール大の大きさだ。


「ファイヤー・ボール!」


 思う前に口が動いていた。

 ヒカルが魔法を唱えると、一面に炎が広がった。初めて魔法を使ったような照準の定まらなさだったが、それでも勢いのまま燃やし尽くす。

 微生魔獣が叫び声を上げることはなかったが、トドメを刺したことはイチゴの倒れる音でわかった。


「イチゴさん!」


 シュウはイチゴの側に駆け寄った。

 身体にまとわりついていた微生魔獣の器官は剥がれ落ちているが、傷は全く癒えていない。


「ヴァイ!」


 ヒカルは助けを求めてヴァイを呼んだ。ヴァイは手を当て流血を止める。しかし、ヴァイは険しい顔をする。


「……クソッ、マズいなこれ」

「治せないのか?」

「ああ、そうみたいだ」


 ヴァイはあくまで冷静に患部を調べる。


「意識が戻ってきていないし、多分俺の技量じゃ治せない」

「じゃあ、どうすれば……」

「動転するなヒカル。ちゃんと覚えろって言ったじゃんか。

怪我をしたら?」

「……保健室?」

「正解」


 ヴァイは手早く怪我を治し、イチゴを抱えてヒカルを見る。ヒカルは心当たりがわからず立ちすくんだ。


「えっ、何」

「重力逆転、戻してくれよ」

「あっ、ごめん」


 あまりにも自然に魔法が発動していたため、ヒカルは重力が逆転になっていることを忘れていた。


 一行が保健室に到着すると、ヒカルの見知らぬフードつきの白いローブを纏った人影が椅子に座っていた。


「ルマリ先生!」

「またお前達か……」


 ルマリはヒカル達を一瞥すると、呆れた口調で言う。フードを被っているため、表情は全く窺えない。

 ソファに寝かされたイチゴの様子を見、ルマリは言う。


「……魂の汚染が進んでいるな。回復魔法が効かないのは悪い傾向だ……

おい、ロア。いるんだろう」

「はい、何でしょうか」

「ヤマを呼んでこい。さっき職員室で見かけた。

これはあいつでないと助けられない」

「ヤマ……?わかった!」


 ロアは保健室を飛び出して行った。

 ヒカルはヴァイに尋ねた。


「どうして、ヤマ先生が?たしか、あの人は回復魔法は使えないって」


 ヴァイも理由はわからないようだった。応急処置をしながらルマリが答える。


「この傷は魂……平行完全体(エーテイデア)の破損が原因だ。回復魔法は平行完全体(エーテイデア)の情報を引き出し再現することで修復が可能となる。“ニホン”の話に例えるなら、DNAを参照して肉体を復元するのが回復魔法だ、といったところか。現在の15935番はDNAの一部が破損している。

重要なのは、必要なのは回復魔法ではなく、ある種の奇跡の力ということだ」


 ヒカルはぼんやりと重大な怪我を負ったのだろう、ということは理解した。


平行完全体(エーテイデア)……?

なんだそれ、解剖学ではそんなこと教わらなかったぞ」


 ヴァイはルマリに疑問を投げかけた。


「数千年前の学説で扱われた概念だ。

近代では否定されているが、こちらの方が理屈が通っている」 


 答える間に、ルマリはテキパキと準備を整える。

 準備が終わると同時に保健室の扉が開き、ロアとヤマが飛び込んできた。


「イチゴ君が大変なんだって!?」

「ああ。平行完全体(エーテイデア)の約40%の破損を確認した」

「!」


 ヤマは一瞬、申し訳なさそうにヒカルを見た。


「お前の出番だ、覚悟を決めろ(・・・・・・)

「……わかった」


 ヤマは跪き、ソファに横になったままのイチゴの腕に、右手を置く。


「夢、ネクタイ、蜘蛛糸、(はり)


 それは、ヒカルの知る魔法の詠唱とはまるで違っていた。


情念(じょうねん)自棄(じき)諦観(ていかん)(あい)


 意味がありそうで関係の見えない単語の羅列をヤマは(そら)んじる。

 言葉を続ける内、ヤマは苦しそうに顔を歪める。


「真綿の(まゆ)からの解放は(つい)え、(のこ)るは終わりなき(つぐない)


 声はまるで絞り出すかのように不安定だった。ヤマは空いている左手を首元に当て、掻きむしるように喉元を爪で引っ掻いた。


転生秘法(ゲット・オーバー・ザ・デス):(グリップ)!」


 ヒカルは息を飲んだ。

 転生秘法グリップ、それは前にカラレス達から聞いた過去に存在した転生秘法だ。

 しかしヒカルが問い詰める前に、転生秘法が効果を発揮する。みるみるうちにイチゴの怪我が治っていったのだ。

 傷が塞がると同時に、イチゴはぱちりと目を覚ます。


「……。

おはようございます」

「おはよう。自分の名前、所属は言えるか?」

「私の正式名称は15935・9901・672・タイト。現在は“学園”の“Z組”に所属しています」


 数秒前まで致命傷を負って寝込んでいたとは思えない滑らかな口上は、人型ロボットのようだった。


「うん。記憶の混濁も混乱もなく、平常のようだね」

「いえ、混乱はしています。

私の肉体は微生魔獣に寄生されました。魔力源を主に吸収され、致死量は既に過ぎていると自己判断したのですが、現在も生存中です」

「転生秘法がお前を救ったんだよ」


 ヴァイが言った。


「う、ゲホッ!ゲホッ!」


 ヤマは真っ赤な顔で咳き込み、流し台に向かう。その様子をイチゴは神妙な顔で見ていた。


「ありがとう……ございます」

「な、なんのなんの。教え子の、ピンチだもん……ゲホッ!」


 ヤマは無様に流しに顔を向ける。吐きはしていないが、ものすごく苦しそうだ。

 カラレスはしげしげと様子を見守って言った。


「ヤマは転生秘法を取得している人間……それも『グリップ』を扱えるのであるか!」

「すごいなぁ、ヤマ先生が転生者だったことは知ってたけど、まさか転生秘法を使えるなんて!

付き合い長いけど気づかなかったや」


 ラックも純粋に驚いている。


「……本当、気が付きませんでした」


 ヒカルの声は、本人が思った以上に冷ややかだった。


「どうして黙っていたんですか?

自分が転生者だって」

「ゲホ、ゲホ……

だって、ヒカル君いま覚えること沢山あるじゃない。

僕のことは、もうちょっと後からでもいいかなって……」

「ふーん、そうですか」


 前々から信用ならない男だったが、いっそう怪しい大人だ、とヒカルは思う。


「信用を裏切ってしまったなら謝る」

「構いませんよ。“大人”には色々な事情があるんでしょう」


 ヒカルはそう言いつつヤマの出方を見た。ヤマは寂しそうに笑って、それ以上何も言ってこなかった。


「さて、15935番の回復に安堵すると共に、“羽化”を果たした者に祝福と称賛を与えようじゃないか」


 ルマリは突然そんなことを言い出した。


「“羽化”……!?誰が!?」

「私!?ついに私にも“羽化”が!?」

「ロアのはずないじゃんか」


 わちゃわちゃするヴァイとロアを横目に、ルマリはシュウに向き合う。


「シュウカ・イトラン君。“大人”への仲間入り、おめでとう」

転生秘法(ゲット・オーバー・ザ・デス):(グリップ)

ヤマの扱う転生秘法。

水や雲、空気など、形のないものを掴むことができる基本能力を持つ。範囲は視界に入る全て。

転生秘法を使いこなしているヤマには奥義があり、相手の魂を掴むことができる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ