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少年の夢

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 実習棟から渡り廊下を通った先は、大きな体育館がいくつも繋がった建物になっていた。


「ここが実技棟。体育館だとかがたくさんある」

「室内では魔法よりも武道を練習する事が多い。

どうだ、一戦だけ練習試合やってみるか!」

「えっ、いいんですか!」


 ヴァイに試合を提案されたシュウはすぐに承知した。

 隅にある物置から木造の剣が持ち出され、ヴァイとシュウは早速対峙する。


「はじめ!」


 ロアが掛け声を言うと、ヴァイは途端に間合いを詰め、突きを放つ。迫る剣先をシュウは冷静に跳ね上げ、剣の(つか)で勢いを殺す。

 魔法を使わない戦闘であっても、ヴァイは強いようだった。


「言うだけあって、なかなか食いついてくるじゃねぇか」


 ヴァイはとても楽しそうだ。シュウも釣られて口元を緩める。

 シュウは剣を弾き上げ、距離を取り、ヴァイの動向を伺う。再度迫るヴァイの動きを見極め、腹に突きを穿つ。

 突きの剣筋を見たヴァイは僅かに身体を倒してかわし、横薙ぎの剣線でシュウの首を狙う。

 間一髪、シュウは木の剣をかざしてヴァイの剣を受け止める。

 剣撃の威力で欠けた木片が体育館に転がる。

 ヴァイは床を蹴り距離を取ろうとする。その時、シュウの構えが僅かに解け、一瞬の隙を見つけると、距離を取ろうとしていた動作をやめ、不意打ちの攻撃に転じた。


「でも、まだまだだな!」


 隙を突いた一撃にシュウは対応しきれず、ヴァイの剣撃がスコンと音を立ててシュウの頭に炸裂した。


「いってえ……負けたか……」

「でも、お前よく独学でそこまで洗練できたな。良い才能を持っている」

「えへへ、本当ですか」


 ヒカルは、今の自分はシュウのように動くことはできないだろうなと痛感する。


「ああ、本当だ。魔法無しの戦闘なら、王国の騎士にも劣らない」

「王国騎士!」


 シュウは今日1番嬉しそうな顔を見せる。


「ずっと憧れてたんです。あんな風になれたならって」

「剣術試験ぐらいなら突破できる実力はある。

チビの頃から城の騎士に喧嘩ふっかけてた俺が言うんだ、間違いない」

「王国騎士ってどんなものなんだ?」


 ヒカルが尋ねると、ヴァイが答えた。


「王族……特に王と次期王を守護するのが役割の、腕が立つ剣士だ。

前提として強い事と忠誠心が求められる」


 ようはSPみたいなものか、とヒカルは理解する。


「あれに憧れてんのか……言っちゃ何だけど、意外と地味だぜ?」

「そうなんですか?」

「重い甲冑着たままなっがい式典の間ずっと立ち続けたりとかしょっちゅうだし。気温高いと蒸し焼きになってすごいしんどいって」


 側で見てきたヴァイの話す騎士の勤務実態は生々しい。


「大魔獣討伐の凱旋の時見ました。

でも、かっこいいなぁって」

「そっか。

気持ちはわからなくもねぇな」


 ヴァイも“賢者”という職に憧れていることをヒカルは思い出した。


「案外、真面目に目指すのもアリかもしれないぜ?

騎士の試験は魔法の技術もある程度求めるらしいし……どうせ勉強して鍛えるなら、好きなもん目指した方が楽しいだろ」

「そうですね!」


 楽しそうに夢について談笑するヴァイとシュウを見て、ヒカルはどこか羨ましさを感じる。

 思い返してみれば、ヒカル自身には『“羽化”を迎えて大人になる』というヤマに与えられた目標以外何もなかった。そんなヒカルには、自分で決めた夢に向かおうとする2人が羨ましく思えたのだった。


「ラックは何か夢とかあるの……ラック?」


 側にいたはずのラックはいつの間にかいなくなっていた。ロアとカラレス、イチゴは楽しげに談笑をしている。

 キョロキョロと辺りを見回すと、渡り廊下の途中で中庭を見下ろして何かしているラックの姿があった。


「こんな所で何してんの?」

「ああ、ヒカルか。何って、スケッチだよ」


 ラックは渡り廊下から中庭を見下ろし、光景を紙に描いている。


「ドンパチやるのは性分じゃないんだ」


 ラックは体育館を振り返って言う。

 体育館では、ヴァイとシュウが2戦目を始めた所だった。


「何かを描いたり作ったりする方が楽しいと思うから」


 手慣れた動きで描き写された中庭の絵は、渡り廊下から見える中庭と寸分の狂いもない、まるで写真をイラスト風に加工したかのようだった。


「すごい上手だ」

「300年ずっとやってれば多少は上手になるものだよ」

「300年も同じことを続けられるなんてすごい」

「そうかなぁ」


 ラックは謙遜した後、中庭を眺めて言った。


「長いこといろんなもの描いてきたけど、自分が本当に描きたいものはまだわからないままだよ」

「そうなんだ?」

「僕の知らない遠い世界に、描きたいものがあるかもしれない。そういうこともあって、遠くのことを想像したり、想像を描いたりするのが好きなんだ」

「ふーん……」


 ヒカルにはよくわからない感覚の話だった。


「どれ、そろそろヴァイ達の試合が終わった頃だろう。みんなに合流したほうがいい」


 ラックは体育館の様子を見て、絵描きに使っていた道具をてきぱきと片付ける。

 ヴァイは少し不服そうにしていた。


「おおい、ヒカル!見てなかったのかよ、俺のカッコいい剣撃」

「ごめんごめん、ちょっと場を離れてて」

「まぁいいけどさ。あんまり離れ過ぎるなよ?

迷子になられちゃ困るからな」

「……でも、言うほど複雑な構造かな」


 段々慣れが生じてきたヒカルには、学園の構造はそこそこ把握できたという自負があった。


「じゃあ、さっき歩いてきた渡り廊下はどれ?」

「そんなの簡単だよ、さっきの渡り廊下は……あれ?」


 ヒカルが渡り廊下の方を振り返ると、渡り廊下は3本あった。どれが正解なのか、途端に自信が持てなくなる。


「正解は1番左側の廊下。真ん中の渡り廊下は先が下っているでしょう?これは隣の実習棟の地下と繋がっているの。

1番右は別棟に渡る廊下だよ」

「来る時は見えなかった……」

「これがあるから怖いんだよ」

「なんでこんなむちゃくちゃな構造になってるんだ……」

「そりゃ……5千年使ってるからねこの建物……

倒壊したのを建て直したり、既にあった建物の上に増築したりしたんだ」

「“迷宮”よりも迷宮してる」


 ヒカルは、ガネット隧道のほうが先に道をおぼえられそうだと思った。


「さ、次の棟に行こう!」


 ロアはまた次の棟に続く渡り廊下へと先導した。

王国騎士

国王や次期王の護衛を任務とする兵士。

主な職務は日常的な王の護衛、式典の警備など。

国軍に属する中で最もタフな人員が配置される。

優れた基礎体力や忍耐力の他、学も必要とされる難関職業の1つ。

シトリにも専属の王国騎士がいるが、学園には来ていない。

ヴァイは王位継承権が2番目のため専属の王国騎士がいない。実家に帰った時は国軍の兵がシフトを組んで護衛をする。

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