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植物学基礎

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改稿の結果、ここまでの本文が多少変わっています

展開や重要な設定に大幅な変化はありません


 各生徒の前に鉢植えと豆が配られ、生徒達は一斉に豆を鉢植えの中に植えた。

 植物学の教師は生徒に向かって言う。


「魔力を注ぎ込む事で、発芽を促すことができます。さあやってみて!」


 ヴァイがパチンと指を鳴らすと、勢いよく土を突き破ってツタが伸び、天井の照明に絡み付いた。

 ラックが指先で弧を描くと、しなやかなツタが生え、脇の枝がカゴを編んだ。

 ロアがパンと両手を叩くと、小さな双葉が土から顔を出し、数本のツタへと成長を遂げる。ツタ同士が絡み合って丈夫な1本のツタを作り、1メートルほど伸びて自立した。

 ヒカルが杖を握り「伸びろ」と唱えると、土の中から膨れ上がった豆が現れる。グニャグニャと形を変えながら、豆は拳ほどの大きさに変わるが、空気が抜けた風船のようにしぼんでしまった。


「ダメか……」


 ヒカルは焼け焦げた繊維になった豆を摘み上げる。


「ヴァイみたいにはいかないや」

「ツタ伸ばしはちょっとしたコツが必要だから、しょうがないって」


 ロアが気楽に慰める。


「無闇に魔力を流し込もうとしてないか?

他の魔法ならドカ入れしても良いだろうけど、植物は自分とは別の魔獣だからな。調整することが大事なんだ」


 ヴァイが軽い口調で、それでいてヒカルのことを気遣いつつ助言を言う。


「ヒカルは無理に魔法を使おうとして無駄に魔力を使いすぎる傾向がある。

暖を取るのに家を燃やそうとしているようなもんだ。

これを機に、より上手く使えるようになるといい」


 最後に新しい豆を渡して、ヴァイは助言を締めた。

 ヒカルが習得を試みて悪戦苦闘する横で、うんともすんとも言わない鉢植えを見つめる少女がいる。カラレスだ。


「ぐぬぬぬ」


 カラレスは、結晶をゴテゴテになるまで全面に付けた杖を振り回し、憤怒の形相で鉢植えを見つめる。しかし、鉢植えの中の豆はガンとして動こうとしなかった。


「ヴァイ、カラレスにも何か助言が必要なんじゃないかな」

「うーん……」


 答えに困るヴァイに、カラレスは言う。


「仕方がないのである。吾輩の魔力というのは微々たるものしか存在しない。ヴァイの例えに倣うならば、暖を取る燃えさしすら無い状態というところであろうか」


 カラレスが肩を落とした時、丁度教師が側を通った。


「あ、先生」

「はい、何でしょう」

「ヒカルとカラレスにアドバイスをお願いできませんか?」

「そうですね……」


 教師はカラレスの鉢植えから豆を取り出す。豆は埋める前と全く違いがない。

 教師はカラレスが真面目にやった結果であることを鑑みて言う。


「カラレス君。はっきり言って、君にこの魔法は向いていない。

もう10年程経って魔力量が増えたと感じる事があれば再受講するといい」


 淡々と言う教師に、カラレスもまた冷静に反応する。


「うむ。吾輩では魔法発動に必要な魔力量が足りていないようである」

「残念だけど、出席点はあげられませんね」

「やむなしである。図書館から拝借した本を読んでいても問題はないであろうか?」

「構わないよ」


 本を取り出したカラレスの隣で、ヒカルが持て余していた豆がポップコーンのように爆発した。


「ヒカル君は……まずは種子の構造から学習した方が良いでしょう。教科書を開いて」

「は、はい」


 ヒカルは植物学基礎の教科書を開く。すると、教師は杖でイラストを示した。魔法を使うのかと思われたが、ただの指差し棒として使っているだけだった。


「この種の豆の中で、芽として成長する部分は2割だけです。この辺り」


 教師はイラストを軽く叩く。


「残りの8割は発芽に必要な養分なので、魔力を通しても意味はありません。

有り余った力が内部で爆発するのです」


 教師は予備の豆を1つ摘み上げると、指先で爆発させた。その失敗の仕方はヒカルの失敗と全く同じだ。


「なるほど…」

「芽として成長できる部分に意識を集中させなさい」


 ヒカルはなんだかわかったような気がして、杖をぐっと握り、机の上の豆を見つめる。


「伸びろ!」


 すると、まるでビデオの早送りかのように豆から双葉が生えた。


「よし!」


 そして、枯れた。

 ヒカルは干からびてしなしなになった新芽を摘み上げる。


「そんなぁ」

「いいえ、種子の成長としては上出来です。

先程言ったように種子には成長のための蓄えというのがありますが、芽が生えてから先は別の栄養源が必要です。

ここから先は魔力で代用を行います。

勿論、種子の状態から同じように流し込めば、先ほどのように爆発してしまいます。次は、その魔力の切り替えの仕方を学習しましょう」


 ヒカルは杖を構え豆と相対する。しかし、タイミングがとてもシビアで、何度やっても上手くいかなかった。

 ツタを無駄に成長させて遊ぶヴァイを横目に、ヒカルはため息をついた。


「いいなぁ、ヴァイは」

「まぁ、年季が違うからな。俺だって何度豆を犠牲にしたかわからない」

「そんなものかな……」


 ヒカルはなんだか辟易した気分になった。


「今日は芽を生やせるようになった、ってだけで十分だろ。頑張ったんだし」


 終業時間間際、教師はカゴと成績表を持って生徒席を回り、生徒のツタや芽を回収した。

 ヒカルが数本の枯れた芽を提出し、教師はその芽を注意深く眺めた。


「ちゃんと技術を扱えるようになってなりよりです。

本日の授業は満点です」

「ほらな」


 ヴァイは自分のことのように喜んでいる。


「ヴァイ君とラック君も満点、ではあるけど……ちょっと遊び過ぎてはいませんか?運べないのでこの場で燃やしますね」

「はぁーい」


 教師がツタを掴むと、ツタは途端に枯れ果てる。教師が手を叩いたのを合図に水分の抜けたツタを炎が覆った。


「そんなに上手なのに、何で初級に来たの」


 ヴァイは指折り数えて理由を並べた。


「今やってる取ってない授業は魔法理論でつまんないし。なんかヒマだったし。こういう基礎は反復させても損はないし。

あと、お前とカラレスが出るから面白えんじゃないかなって」

「面白かった?」

「そりゃもちろん」

「吾輩は元々の魔力量的にダメ元であったのであるが、存外興味深い話を聞けた故有益な時間であった」


 終業の鐘が鳴り、カラレスは読んでいた本を閉じた。


「それに、同郷の様子を把握する必要性があると常々考えていたのもある」


 カラレスの視線の先には高等部の少年の姿があった。先日、ヒカル達が孤児院から助け出してきた少年だ。


「おうい、シュウ!」

「……!

カラレス姉さん」


 少年は教室を去ろうとしていたが、名前を呼んだカラレスに反応して振り返った。


「授業の所感は如何であるか?」

「えっと……授業どうだったか?ってこと?

楽しかったよ」

「友人関係の構築について尋ねたい」

「友達作ったかって?

まあまあってとこかな」


 カラレスは満足げに頷いた。

 少年と会話を続けるカラレスを他所に、ヴァイは素朴な思いを口にする。


「前から思ってはいたけどさ、カラレスの語彙ってなんか独特だよな」

「論文形式って感じあるよね」

「なるほど、既視感はそれかぁ。一人称『吾輩』とか昔の論文ぐらいでしか見ないよな」

「ヴァイって論文なんか読むの?」

「ロアは俺を脳筋だと思ってんだろうけど、意外と俺は知性派だよ」

「そうなんだ、何の論文?」

「炎系魔術の効率化についてだったかな」

「脳筋ってより……知性派の戦闘狂?」

「狂、ってつくほどじゃないだろ」


 他愛無い会話を続けていると、カラレスが振り向いた。


「シュウより提案である。

今より、食堂で昼食を取るべきであるとのこと」

「皆さんと一緒にお昼食べたいなって」

「お、良いな。みんなそれでいいか?」


 ヒカルも特に反対する理由なく、流れについていくことにした。

植物学

探索で命綱やネットなど、幅広く使うツタの作り方を学ぶ授業。

ツタという1つの魔獣の成長を操作する魔法の関係上、意外と難易度が高い。

ツタを生やす基礎さえできてしまえば後はツタでの編み方を学ぶだけで簡単、とヴァイは言うが、伸びるスピードと同じ速さでツタの編み上げをしなければならないため、こちらもそれはそれで難しい。

一通りの習得に20年はかかると言われている。

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