新入生
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「今日は新入生を紹介する。
彼女が、この“Z組”の新しいクラスメイトだ」
ヤマに促され、白髪の少女は無邪気にはつらつと名前を名乗る。
「吾輩はカラレス!
以後、カラレスという名称で統一すると良いのである。よろしく頼むのである!」
カラレスは、ヒカルの左隣に用意された席に座った。
ホームルームが終わり、自由時間になると、カラレスはすぐにヒカルに話しかけてきた。
「この前の、迷宮から助けてくれた件について、非常に感謝している。改めて、礼を」
「そう……なのかな。あんな酷い怪我を負う前に助けられなくて……」
「それは適切な認識ではないと判断する。
ヴァイの魔法で、吾輩の怪我は全て治癒が完了している。命を落としていれば、損傷は回復不可能であった」
カラレスは元気さを見せるかのように、治った腕をブンブン振ってみせた。
やり取りを隣で聞いていたラックが、不思議そうにカラレスに話しかける。
「ねえねえ、カラレス。
君が怪我をしたことはヒカル君たちから聞いて知っているけど、どうしてこの学園に入ることになったの?」
「吾輩にも、理由は現在もなお不明のままである。
怪我を治したあと目が覚めると、この学園の医務室にいたのである。そして、あのヤマという者が、吾輩の学園への転入が決まったのだと伝えたのである」
「へぇー、すごいね。スカウトってことになるのかな?」
「ヤマは理由を語らなかった。恐らくスカウトとは違うのではなかろうか」
ヒカルとヴァイ、ロアの3人が、カラレスの転入もできないかとヤマに懇願した結果、稼いだ金貨の余り全てと引き換えに、カラレスは“Z組”に配属されることになった。
怪我をした少年は一般学生として配属されたので、ヒカルは疑問を抱いたが、ヤマは疑問に答えてはくれなかった。
「ともかく、“Z組”にようこそ。ここならめいいっぱい好きなことができるから、きっとカラレスも楽しめると思うよ」
「うんうん、そうなのである。吾輩、“カデン”の開発も嫌いではないのだが、魔法学や異世界学も一度学んでみたいと志していたのである。
……そうだ!ヒカル。
ヒカルがいたという“ニホン”という異世界について聞きたいのである」
そう言って、カラレスは巻き物を取り出した。広げると、みっちりと細かい字が書き込まれている。
「“ニホン”について聞きたいことリストである。
まずは……“ニホン”の景色について聞いてみたい!
“ニホン”の建物は“こんくりいと”で作られているという話であったが、本当であるか?」
「ああ。僕は“ニホン”の都内近郊で育ったんだけど、屋上から見ると地の果てまでコンクリート造りの住宅が続いていて……」
ヒカルは走馬灯で見た景色を想起する途中、ふと違和感を覚えて口籠る。
「……?
ヒカル、何か思い当たる事例でもあるのか?」
「いいや、そうじゃないけど……なんだろう」
ヒカルが思い出そうとすればするほど、輪郭が崩れていくような感覚がした。まるで、夢の細部を思い出そうとする時のようなもどかしさがあった。
「なーにしてんの、ヒカル君!」
その時、ロアがヒカルの肩をぽんと叩いた。
軽い衝撃と頭の中をチリチリとしたものが流れていくような感覚をヒカルは覚える。
「ロアさん……?
今カラレスと一緒に話をしていて」
頭の中のチリチリが無くなると、ヒカルは自分が何に引っかかっていたのか思い出せなくなっていた。
「……なんでもないや。
あと、“ニホン”の住宅街には電柱ってものがあってね。それも街の景観の1つに挙げられるんじゃないかなあ」
「なるほどなるほど……」
「話ぶった切って悪いんだけどさ、この後ファイア国学の基礎があるんだけど、ヒカル君一緒に行かない?
この前、文字を読めるようになりたいって言ってたし」
「その授業、今日だったのか」
街の中に繰り出すようになってから、ヒカルは何事を判断するにもまず知識が必要であることを痛感する事が多くなっていた。
「そういうことなら仕方ないである。
知識欲の主張の強さは吾輩も共感できる。
何、吾輩も“Z組”になれたのである。急ぐ必要もあるまい」
「あ、それじゃあ、ヒカル君の授業が終わるまで、図書館で調べ物でもする?オススメの異世界学の本を教えるよ」
「僥倖である!」
カラレスとラックは図書館に向かうのを見送った後、ヒカルはロアに連れられてファイア国学の教室に向かった。
ヒカルは、思えば自分から学問を志すなんて、初めてだったなと気付く。
『学問を志す』という言葉にいい子ぶった嫌な響きを聞きつつも、どこか悪い気持ちはしない、不思議な感覚をヒカルは抱いた。
性格の悪い男達の探索者チームのその後
様々な迷宮の入退場記録に名前が残っているが、これといって何か明確な手柄を打ち立てたという記録は残っていない。各々ごく普通の探索者として生涯を終えたと思われる。
モウセゴ財団のその後
蒼炎歴2720年頃までブランドを保ち続けていたが、2710年頃現れた新規精鋭の“家電屋”に完全に開発力を上回られ、次第に事業が衰退する。
後世では有能な技術者がヘッドハンティングされたため衰退したのではないかと推察されるが真偽は不明。
孤児院:竜の尾のその後
蒼炎歴2714年、モウセゴ財団の経営難に応じて事業を縮小。そのまま閉鎖の一途を辿るかと思われたが、ライバルの“家電屋”が孤児院を丸ごと買収。名称を孤児院:竜の息と変更し事業を継続。一般的な孤児院より良心的な扱いであること、優秀な探索者を多く排出することなどから一時期子供大人共に注目が集まるが、その人件費や設備費などのコストの膨大さから、追従する孤児院は少数に留まった。
蒼炎歴3691年、孤児院:竜の息は親団体の経営難と施設の老朽化により事業継続が困難となり、院を閉じることとなる。その場には多くの卒院生が集まったという。




