重
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「探すのは本当に十三王子陵で大丈夫なのか?」
「他に考えられない……と言うより、他を当たっている時間や人の余裕が無い」
ヴァイは松明を持ち先導しながら自分の推論を語って聞かせた。
「状況見るに討伐は泊まり込みで行っていたはずだから、拠点を移動させてはいないはずだ。土塊の増殖を狩るという目的にも合理的だ。
十三王子陵にいる……はず!」
第十三王子陵の巨大な竪穴までたどり着くと、ヴァイは淵から底を見る。
既に土塊の増殖は収まっているようで、“賢者”達も撤収している様子だ。底は真っ暗で様子を伺うことはできなかった。
「一昨日来た時は必要ないから言わなかったが、外壁に入り口がいくつかあって、その先も洞窟になってる。要するに第十三王子陵だけで、学園近くの迷宮、ガネット隧道並みのデカさがある」
ヴァイがそう言った直後、パラパラと頭上から土埃が落ちてきた。
「伏せろ!」
ヴァイとロアに庇われるようにヒカルがしゃがみ込むと、大きな地響きと共に揺れが襲ってきた。
しばらく揺れが続いたが、特に何も起こらず静まった。
「今のは……地震?」
ヒカルは凶暴な魔獣が来るのかと備え、周囲の暗闇を見回した。
「いや、違う……“炎の大祭”が近いからか、“迷宮”内部の構造が変わりつつあるらしい」
「確か、道が増えたりするんだっけ?」
「それだけで済んでればいいけど……壁が膨らんで道が途絶えたりすることもある。
……急ごう。カラレスの安否が心配だ」
一昨日カラレスを見かけた螺旋階段の近くには踊り場があった。竪穴外側の壁に人1人通れる大きさの狭い道が繋がっている。
螺旋階段を下るべきかどうか、ヒカルは判断を求めてヴァイを見た。ヴァイは足元の石畳についた土汚れを観察している。
「ここで二手に別れよう。俺は脇道を潰す。ヒカルとロアは螺旋階段を降りてくれ」
「了解」
「緊急連絡があったら、この癇癪玉を割ってくれ。すぐに駆けつける」
ヴァイは松明と一緒に、数個の癇癪玉を手渡した。薬品の臭いがするが、包みの端から植物のものと見られる双葉が覗いていた。
ヒカルは癇癪玉を懐にしまい、ロアと共に螺旋階段を更に降りて行った。しかし、いつまで経っても底につかないどころか、次の踊り場も見つからず、延々と暗闇が続いている。
「これ、どれだけ深いの……?」
「竪穴の直径が100メートルぐらいで、深さはその4〜5倍だったかな……とにかくとても深い事だけは確か」
「500メートル……!?」
ヒカルは改めてぞくっとする。東京タワーが丸々入ってしまう高さだ。
「だいたい10層に分かれてて、さっきヴァイが行ったのが第一層、300年代の迷宮に繋がる道だよ」
「あんなのがまだ9つもあるのなら、また分かれて探す必要があるんじゃないか?」
「うん……次の分岐点では私が別れる。
ヒカル君はそのまま1番下を目指して欲しい」
「僕が…?」
「深いだけで、迷う心配は無いし、危険になったら私達もすぐ飛び出していけるからね。
……ただ、その分より危険な魔物と合うかもしれない」
「この前の、オオトカゲのような」
年層ごとに強大な“固有種”が横行しているというのはヒカルの記憶にも新しかった。
「なら、もっと急がないと」
そんなところにカラレスがいるかもしれないと思うと、ヒカルはいてもたってもいられなかった。
「よし、その意気だ!」
丁度、次の踊り場が松明の明かりで見える距離まで近づいてきていた。
「ざっと見たらすぐに追いつくから、無茶はしないでね」
「わかった」
ヒカルはロアの言葉に頷くと、階段を降り始めた。
話し相手もいなくなり、暗い竪穴にヒカルの足音だけが響く。
そういえば1人で時間を過ごすのは久しぶりだな、とヒカルは気がついた。
学園生活では、常に誰かがヒカルの側にいた。大概はヴァイとロアで、時々ラックだった。ヴァイとラックの組み合わせは寮でも一緒で、1人になるのは寝る時ぐらいだ。
それだけ頼り切ってたってことなんだな、とヒカルは思い、気を引き締めた。
「……あれ?」
ヒカルは、階段の石畳ではないものを踏んだ感触を覚える。松明で照らしてみると、それは羊皮紙の束のようだたた。
「この羊皮紙……カラレスさんの?」
見覚えはあるが、確証は無かった。
ヒカルはより注意して、松明の明かりで壁や階段の床を照らした。
すると、僅かに黒く濡れている部分が見つかった。指で拭い松明の明かりで見ると、それは赤黒い血だった。
「カラレスさん!ここにいるんですか!」
ヒカルは叫んだが、返事は無い。
急足で階段を駆け降りると、3つ目の踊り場が見えた。
松明で照らすと、血の跡が踊り場の迷宮に繋がる道へと続いているのがわかる。
「カラレスさん…?」
ヒカルはそっと、道奥の暗がりに向かってよびかけた。
道は入り口こそ狭かったが、奥に行くにつれて広くなっていた。
手頃な岩場があり、その辺りに血痕が比較的多く付着していて、傷ついた誰かが休んだかのように見える。そして、周辺の地面には羊皮紙が散乱していた。
より奥を見ようとヒカルが松明をかざした瞬間、暗闇から石が飛んできた。石、と言うよりは拳大の岩に近いそれはヒカルの頭に当たる。
「痛ッ!?」
緊急事態に、ヒカルは咄嗟の判断で杖を前に向ける。
「ファイヤー・ボール!」
炎の玉は相手から離れた位置に飛んだが、飛翔する光が敵の姿を照らし出した。
甲冑を着た武者のような姿だが、よく見るとグロテスクな見た目をしている。右と左が逆についている脚。脚の補助として体重を支えているように見える左腕。右腕は2本あり、そのうち1本の先に兜がある。
「……!?」
どう見ても化け物の見た目に圧倒されヒカルが立ちすくんでいると、その隙を見逃さず甲冑は右腕を振り下ろした。
思わずヒカルが飛び退くと、ヒカルが立っていた地面に大剣が突き刺さっていた。バランスの悪い立ち姿から繰り出されたとは思えない威力で床を突き破っている。
「ファイヤー・ボール!」
暗闇の中で狙いを定めてヒカルは魔法を放つ。炎の玉は甲冑の装甲に当たって弾け飛んだ。ダメージを与えられたようには思えなかった。
しかし、その一瞬の中ヒカルは見た。甲冑の持つ大剣には、真新しい血が滴っていた。ヒカルはこの大剣で怪我はしていない。
つまり、こいつがカラレスさんを斬った。
ヒカルは確信する。
「アイス・フロア!」
とりあえず床を凍らせ、動きを止めようと試みる。けれど、甲冑は咄嗟に天井に張り付いて攻撃を躱す。
暗闇の中でヒュッ、と風を切る音がする。ヒカルが氷の刃を掴んで持っていた松明と交差させ、受け身を取ると、間一髪のタイミングで大剣が振り下ろされた。
交差で大剣の刃を受け止めると、その重さがより伝わってくる。とても、常人が片手で振り回せるものではない。
こいつは人間じゃない。でも、人間でないとするなら何だ。
ヒカルの疑問に答えるかのように、松明の灯が兜を照らした。兜の向こう側には土が見えた。不自然な手足の繋ぎ目からは泥がはみ出ていた。その土の色に、ヒカルは心当たりがあった。
土塊が甲冑を被っているのか!
ヒカルは甲冑の胴を突き飛ばし、よろめいた所を兜の内側へ氷の刃をねじ込んだ。
「アイス・アロー!」
ねじ込まれた氷の刃の先から、まるでウニやいがぐりのように新たな氷の刃を生成する。兜は内側から爆発し、ひしゃげた金属のカケラが辺りに散らばった。
よろめいた所を、ヒカルは更に追撃する。兜との結合部分で今は土塊が覗いている場所に、トドメ用の短剣をめり込ませる。首として使われていた右腕はダラリと垂れ下がり、チェインメイルの袖口からドボドボと泥と土を滴り落とさせた。
至近距離に迫ったヒカルを斬るには不都合と判断したのか甲冑は大剣を投げ捨て、代わりに拳をヒカルの腹にめり込ませた。
「ゴフッ!」
鈍い音がして、ヒカルは殴り飛ばされた。
衝撃で松明が取り落とされ、床の魔法の氷に光が反射して薄ぼんやりと甲冑の姿を映し出した。
甲冑は、兜が無くなった割には大きなダメージを受けた様子はない。
小さく切り刻まなければ、無力化は出来ないか。
ヒカルは次の行動に移る。
「アイス・アロー!」
耐久の弱そうな手足の付け根を狙い、氷の矢を複数放つ。しかし、甲冑が大剣を振り、氷の矢の多くを叩き落としてしまう。また、暗闇で動く標的に氷の矢を当てるのは困難だった。
ヒカルは大剣を受け流し、次の攻め手を探そうと甲冑を観察する。
全力で氷の刃を振り回せれば、腕の一本ぐらいは切れないかな?
何度も大剣を受けながら観察したが、それ以上の発想は出なかった。
一方で、甲冑側は別の手を用意していた。
「ッ!?」
ヒカルが何気なしに大剣を受けると、急に肩に激痛が走った。見ると、甲冑の首があった部分に新たな土が盛られ、獣の顎の形が生成されていた。石でできた歯の刃が、ヒカルの肩を齧り取っていたのだ。
咄嗟に短剣で掻っ切り距離を取る。興奮して痛みを深く感じなかったが、傷口に手を当てるとべっとりと血が付着する感覚があった。
早く決着をつけないとまずい。
ヒカルは足元の氷の刃を拾い、甲冑に肉薄した。
大剣と氷の刃がぶつかり合い、ヒカルは大剣の重みに耐える。
もっと魔法が熟練していれば、こんな苦労はいらなかっただろうに。
ヒカルは、自身の未熟さを痛感した。
「アイス・フロア!」
ヒカルは至近距離で足元を凍らせようと呪文を唱える。
大剣で肉薄していた甲冑は距離を取ろうと飛びのいた。
「そう来ると思ってたよ!
アイス・アロー!」
ヒカルは迷いなく手に持っていた氷の刃を投げつける。魔法で再度強化された氷の刃は一直線に飛んでいく。
そして、体重を支えていた歪な左腕を切断した。
これには甲冑も堪えた様子で、酔っ払いのように大剣を振り回しバランスを取ろうとよろめく。
振り回される大剣をくぐり抜け、ヒカルは甲冑に肉薄し、その胴体を思いっきり蹴飛ばした。
甲冑は勢いよく洞窟の外に蹴り出され、竪穴の底へと落ちていった。何秒かしてから、竪穴の底からアルミ缶が落ちたような音が響き渡った。
「……よし」
ヒカルは松明を拾い上げ、甲冑以外の敵がいないことを確認する。
「カラレスさん!」
松明で洞窟のあちこちを照らし出したが、洞窟は袋小路になっていてカラレスの姿はどこにもなかった。
おかしい。血の跡は確かに洞窟の方へと続いていた。血のついた大剣を持った甲冑がいたことから、カラレスさんが洞窟に逃げ込み、甲冑がその後を追いかけたと考えるのが筋だ。けれど、死体すらないのは変だ。
ヒカルは洞窟の物陰を念入りに照らし出した。すると、道が不自然に途切れた跡を発見した。規則正しい石畳の模様が、壁際の一部でぷっつりと切れているのだ。
コンコンと叩くと、向こう側から弱々しく叩き返す音が聞こえた。
「カラレスさん、ここにいますか!?」
声の返答はなかったが、向こう側から壁を叩き返す音が聞こえた。
「出来るだけ壁から離れてください!突破します!」
ヒカルは助走をつけ壁に体当たりした。何度かぶつかると壁がめり込み、土埃と共に崩れ落ちた。
「カラレスさん!」
ヒカルが呼びかけると、カラレスは壁の残骸の下で声を上げた。
「ひ、ヒカルさん、であるか……?」
「はい。助けに来ました」
「そうか……そう、か……助けに……」
カラレスは衰弱していたが、ヒカルの言葉を聞くと涙を滲ませた。
「どうして壁の中なんかに」
「“迷宮”の地盤変化と推定される……吾輩も、実際見たのは初めてである……」
「ヴァイが言っていたやつか……
立てる?」
「不可能である」
カラレスは手ひどく痛めつけられており、服の上からでもわかる出血をしていた。
ヒカルは肩を貸すため手を差し伸べた。
カラレスは立ちあがろうと虚空を手でかく。すると、不意に近くにあった柱に手が当たった。
カチリ、と何かの音がする。
カラレスがきょとんと振り向くと、2つの赤い目と視線が合った。
「シールド!」
間一髪でヒカルが割って入る。次に2人に見えた光景は、光の防壁が大剣を防ぐ姿だった。
「なんで……さっきの土塊の甲冑は倒したはず……」
暗闇からヌゥと現れた大剣を持つ甲冑は、正しく人間の武人と同じ姿をしていた。両手両足が1本ずつある。
ヒカルの後ろでカラレスが息を呑んだ。
「迷宮兵……!?こんな浅い階層に……!?」
カラレスの言うことはわからないが、ヒカルの目から見て土塊の入っていない甲冑は、入っている甲冑より動きが洗練されていて隙が無いように感じられた。
真甲冑が一度剣を引っ込めたタイミングを見て、ヒカルはカラレスの首根っこを掴んで背後に放り投げる。
「走れ!」
カラレスは足を引きずりながら、どうにか竪穴の踊り場まで出る。ヒカルは真甲冑と対峙しながらジリジリと後退する。
真甲冑の大剣が妖しく光り、再び振り下ろされる。ヒカルは先程と同じように、防壁の魔法を張る。
「シールド!!ーーーがぁっ!?」
だが、今度の斬撃は、まるで紙でも斬るかのようにヒカルの防壁を切り裂いた。止めきれなかった斬撃がヒカルの腕の肉を切り落とす。
「ヒ、ヒカル!」
ヒカルは痛みで頭の中がチリチリとした。痛みで混乱する中、この真甲冑は自分の手には負えない事だけは認識し、懐に入れていた爆竹をカラレスの方に放り投げた。
爆竹はけたたましい音を立てた後、燃え跡からツタが生え伸びる。
「カラレスさんは逃げろ!」
「で、でも、階段の上から他の甲冑が」
真甲冑の攻撃を掻い潜りカラレスと同じ踊り場に出ると、螺旋階段の上からも下からも真甲冑と同じ格好の甲冑達が集まってきていた。
「アイス・フロア!」
ヒカルは慌てて床を凍らせ、範囲を広げて甲冑達の動きを止めようとした。前2〜3列の甲冑の足を止めることは成功したが、足が止まった甲冑は身を屈め、背後から続々と現れる軍団の足場になった。
「これは……よくない傾向であるな」
その時、踊り場の端に追い詰められた2人の背後に、ヴァイが降りてきた。竪穴の天井にツタのロープの根を張らせてあり、そのロープを伝い降りることで降りてきた様子だ。
「よりによって厄介な奴を引いたな!」
「ヴァイ、これ何なの!?」
「“墓守”だ!古代人が作った警備用の罠!」
「止めるにはどうしたら!?」
「罠を起動させた奴が、“迷宮”から脱出する以外にない!」
ヴァイは甲冑を竪穴の底に蹴り落として言う。
罠というのは、カラレスが不意に触れてしまった仕掛けに間違いなかった。
少し甲冑の軍勢が減った所で、ヴァイは素早くカラレスの応急処置をする。それから、降りてきたロープを上手く結びつけて、足掛かりとなるわっかを作り上げた。
輪っかが出来たのを見計らったかのように、ロープが何度か上下に動く。
「ロアが引っ張り上げる準備が出来たらしい。お前らはこれで上に逃げろ」
「でも、ヴァイが」
「俺はここで敵を引きつける。大丈夫だ、いざとなったら飛んで逃げられるから」
半分無理矢理にヒカル達をロープに押しやり、杖を上に向けて青い花火を打ち上げた。それがロアへの合図だったようで、ロープはものすごいスピードで上がっていく。
ロープの上方に滑車が仕掛けられていて、エレベーターのような仕組みであるとヒカルは登っていくうちに気が付いた。
これで安心だ。
隣の螺旋階段をいくつもの影が駆け上っていくのが見えたが、それよりもロープのエレベーターが登るスピードが早かった。
それ故に、ヒカルは少し油断してしまった。
「ヒカル、あれを!」
カラレスの叫びにヒカルが振り返ると、竪穴の壁面を猛スピードで這いずり上がる影が1つあった。人間の部品のようなシルエットがあるが、どう見ても動きは獣のようだった。
先程蹴落とした土塊の甲冑だということに気づいたのは、姿を視認してから数秒後だった。
そして、その数秒が命取りになった。
土塊は、身体を捻ると、大剣を射出した。
ヒカルは必死に避けようとしたが、すぐにそれが自分たちの身体を狙っていない事に気がついた。気がつけたが、判断を下すには遅すぎた。
投げられた大剣の刃によって、ヒカル達の頭上のロープがブツリと切断された。
「……ッ!」
ヒカルはまるで永遠かのような無重力感を感じた。
風が耳元を流れ、目の前で光景が物凄い勢いで過ぎ去る。
宙でもがいても、何も掴むことは出来なかった。
もう終わりだ。
1秒以上の落下に、本能がそう告げる。
脳が過去を遡ろうとし、異世界に来てから見たいくつもの景色が浮かんでは消える。
孤児院の光景、魔法術演習の授業、カラレスと出会った場面から、オオトカゲを倒した迷宮の中、授業を受けた教室。
そして、初めて教室に足を踏み入れた所を映してーーープツリと途切れる。
まるで、誰かがTVを慌てて消したかのように。
ノイズが走る景色の中、ヒカルはある光景を見た。
見渡す限り、コンクリートでできた家の屋根が広がる眼下。
ヒカル自身はそれを眺めている。
「……重」
ヒカルは目を見開くと、一言呪文を呟いた。
すると、唐突に自由落下が止まり、ヒカルとカラレスは宙に停止する。
下を見れば、僅か数十センチ下を、巨大な土塊が甲冑を飲み込みながら這いずり回っていた。土塊達の母体である。
母体は新たな落下物が頭上で止まったことを察知し、鎌首をもたげた。
「カラレスさん!」
「は……はい!」
ヒカルはカラレスの伸ばした腕を掴んだ。
まだおぼつかなかったが、転生秘法のコツは既に掴んでいた。
「グランド!」
竪穴の天辺を指差し、ヒカルはそう叫んだ。
ヒカルが掴んだ転生秘法のコツ、それは落ちていく“地面”を明確に想像することだった。
途端、重力が逆転し、ヒカルとカラレスは天辺に向かって落ちて行った。
竪穴の底面もグラビティの影響下にあり、ヒカルとカラレスが落ちるのに続き、無数のガラクタや甲冑、そして土塊の母体の身体も重力に引っ張られ、落下する。
「……まずい、このままだとぶつかる……!」
感覚的に、ヒカルは現状の自分では『グラビティ』を自由に操れないことがわかっていた。このまま落ち続ければ、天井に墜落することは間違いなかった。
「ヒカル!」
その時、1人の声がした。
見れば、ヴァイがヒカル達に合わせて自由落下の中に飛び込んできていた。その腰にはツタのロープが繋がれており、ロープの端はロアが持っていた。
「飛行魔法で着地の衝撃を和らげる!」
ヴァイはそう言って、問答無用でヒカルとカラレスの身体を鷲掴み、抱えた。
天井の岩に墜落する瞬間、ヴァイはくるりと宙で逆さ向きになって両足で岩を蹴り、地面のある方へ跳んだ。
ヴァイが離れた瞬間、後続の甲冑の一団と土塊の母体が天井に突き刺さる。しかし、すぐに再び奈落の底へと落ちて行った。
ヒカルの意識しない所で、魔法が解けた様子だった。
ヴァイは竪穴の上辺の淵にヒカルとカラレスを下ろすと、力無くへたりこんだ。
「ああ……もう……心臓止まるかと思った……」
「わ、悪い……」
「いや、ヒカルのせいじゃないのはわかってる……
早く安全な場所戻ろうぜ、“墓守”がやってくる」
「ああ、そうだな……カラレスさんは大丈夫?」
ヒカルは言ってから、カラレスはかなりの重傷を負っているのに、大丈夫なはずはないだろうと思った。
しかし、カラレスは、顔色こそ血の気が失せていたが、目だけはキラキラと輝いていた。
「今のが……今のがグラビティなのであるか!!」
ヒカルはそんなカラレスを見て、どこかホッとした。自分はちゃんと助けられたのだ、という実感が湧いたのだった。
迷宮兵
迷宮の中に存在する古代の技術の結晶であり、迷宮が作られてから墓を暴く者を仕留める墓守。一度罠が発動すると迷宮の壁のあちこちから迷宮兵が出現する。
所持する大剣に魔法阻害の魔法を付与することができ、知らない者に大打撃を与える。
迷宮が出来てから2000年以上が経過する中粗方のトラップは発動し尽くしているが、時折新規のポイントを踏み抜く者がいて大騒ぎを引き起こす。
魔法の発動者が存在しないのに動くのは正しく古代のオーパーツと言われていたが、近年、迷宮兵の魔力の源は迷宮の場の魔力を利用しているのではないか、という研究結果がまとまりつつある。
作中で土塊が纏っていた甲冑は、動かなくなった迷宮兵の装備を横取りしたもの。




