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魔法術演習

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 翌日。ヒカルは寮の自室のドアが叩かれる音で目を覚ました。


「ヒカル!『魔法術演習』の時間だぜ!」

「まほうじゅつ……何?」

「『魔法術演習』!

昨日言ったろ、魔法の授業だって」

「授業……」


 ヒカルは寝ぼけて頭が回らなかったが、とりあえずヴァイについていくことにした。

 ヴァイが向かったのは、初日に魔術の訓練をしたあの中庭だった。

 既に10人前後の生徒が集まっている。Z組のメンバーはヒカルとヴァイしかおらず、ヒカルはなんとなく肩身が狭いように感じた。


「よぉし、だいたいメンバーは揃ったな」


 1人の女性が生徒達の前に歩み出た。

 教師の制服の特徴である、青いマントを着けている。


「『魔法術演習』教師のシディ・カルサだ。

魔法による戦闘術を指導する」


 カルサは生徒達に、木の杖を手渡した。1メートル程度の棒に水晶が1つだけはまった、素朴な造形の杖だ。


「いつものように、前半は対人戦闘、後半は状況に合わせた魔法を指導する」


 カルサは生徒達の中で、ヒカルに視線を定める。


「そこの新顔。前に出て来い。対人戦闘のやり方の手本を示す」

「えっ…僕?」

「呼ばれたぞ、行ってこい」


 ヒカルはヴァイに小突かれ、生徒達の前に出る。


「何か仕掛けてみろ。私から攻撃はしない。どんな魔法でも防いでみせよう」

「どんな魔法でもって…」

「遠慮はするな。怪我の元になる」


 カルサはヒカルと同じ木の杖を持ち、自然体のまま立っている。

 ヒカルが杖を握り直し、魔法を使おうとすると、ふと昨日の不完全燃焼がヒカルの脳裏に蘇った。


 あの時と同じようにやろう。


 ヒカルは自然とそう考え、昨日の感覚を再現する。

 すると、宙に無数の炎の玉が現れた。

 ヒカルが合図すると、炎の玉は一斉にカルサを襲う。炎の玉はカルサを掠めると、至近距離で爆発を起こした。

 だが、カルサはみじろぎもしない。

 ヒカルは次の行動に移る。氷の槍を地面から生やした。


「……マジック・エンド!」


 カルサは杖を振り、迫る氷の槍を消す。

 しかし、ヒカルはそれを読んでいた。カルサの頭上から、無数の氷のつぶてが降り注ぐ。


「……紅蓮の壁!」


 カルサが杖を振り上げると、カルサの頭上に灼熱のプレートが発生し、氷のつぶてを飲み込んだ。

 ヒカルは攻撃を続ける内、昨日中断させられた煮えたぎらない感情が再度沸くのを感じる。

 口輪を被せられた犬のような、やり場を失った感情の咆哮は、同じ“大人”であるカルサに対してムキになるのには十分だった。

 ヒカルは地面から生えた槍のうちの1つを掴んで折り、カルサに迫った。

 カルサは上体を逸らすだけで攻撃を避ける。

 ヒカルは、現状の魔法では傷一つ付けられない事を悟った。

 それでもヒカルは諦めない。一度火がついた闘志は、留まる事を知らなかった。


「ファイヤーボール!」


 ヒカルは再び炎の玉を放った。

 カルサの周囲で爆ぜる炎の玉は、多くの爆煙を生み出した。

 ヒカルはその爆煙の中に氷の槍を投げ込んだ。

 爆煙の中から不意打ちで迫った氷の槍は、カルサを貫く前に杖で叩き落とされる。

 カルサの注意が氷の槍に向いた、その一瞬。ヒカルは漂う煙を突き抜け、カルサに肉薄した。そのまま無防備だったカルサに、ヒカルは拳を突き出した。


「……ッ!」


 カルサの鼻から、鮮血が滴り落ちる。

 周りで見ていた生徒達は、唖然とした様子でカルサとヒカルを見つめていた。

 ヒカルは、拳の痛みにハッとする。戦うのに夢中で、手段を選ばず攻撃していたことに、終わってから気がついたのだ。

 どう弁明しようか、それとも謝ろうかと、ヒカルはカルサの顔色を伺った。


「戦闘はここまで」


 カルサは言いながら鼻血を拭い、軽く鼻頭と顔の汚れをこする。すると、あっという間に怪我は治り、血の汚れも綺麗さっぱりなくなった。

 それから、カルサはヒカルを見た。


「素晴らしい」


 カルサは手を叩き、称賛の拍手をヒカルに与える。周囲の生徒達の目に羨望の色が混じる。


「これまで実践で私に怪我を与えた者は数えるほどしかいない。

君には戦闘術のセンスがある」


 カルサは生徒達に向き合って言った。


「今の彼の戦い方の何が良かったのか、私に怪我を与えた勝因は何か、わかるか」


 ヴァイが手を上げた。


「魔法に拘らなかった所」

「正解だ」


 ヒカルは驚いた。直接殴ったことが正解だとは、到底思っていなかった。もしかすると懲罰も有り得るものだと思っていた。


「戦闘において、一瞬の隙が命取りになる局面は少なくない。

隙を見たら、攻撃を入れる。それは拳でもいいし、魔法でもいい。杖の先端を足に突き刺す、腹を殴る、頭を蹴飛ばす、何でもいい。

とにかく一撃を入れる事。

あわよくば、敵の思考を乱すことができる」


 カルサは練習用の木人を使って、ゆっくりと格闘術を行う。


「思考を乱す事ができれば、妨害魔法を使う事なく敵の魔術師を無力化できる。

このように、攻撃に武術を混ぜる事は非常に効果的だ。

故に、魔法術による戦闘において基本となるのは武術だ、とも言えるだろう。

しかしーー」


 カルサは生徒に向き合って言う。


「だからと言って、思考を乱される程度で魔法が使えなくなっては、決定打に欠ける泥仕合となる。

故に、練習を重ね、思考せずとも魔法を使えるよう体得する。これが魔法術演習の本筋である」


 カルサは説明を終え、生徒達にペアを組ませ始めた。これから、生徒達の間で実戦演習をするとのことだった。

 ヒカルの周りには、多くの生徒が集まってきていた。皆、先程の戦闘でヒカルに興味を持ったのだ。

 カルサはそれぞれに一言ずつアドバイスを与え、ヒカルに向き合わせる。


「えっと……僕はどうすれば」

「気構えなくていい。やりたいように、本気で、目の前の相手を叩きのめせ。

助言を与えようにも、君の戦闘の仕方はまだ把握していないからな」

「よろしくお願いします!」


 生徒の1人がヒカルの正面に立った。


「戦闘、始め!」


 カルサの合図で、ヒカルは戦闘態勢に入った。

 1人目の生徒は、魔法を放ちつつ杖で殴りかかった。ヒカルはそれをかわした後、隙を突いて鳩尾を殴りつけた。

 2人目の生徒は、杖の先に光る刃をつける魔法を使い、斬りかかった。刃は豆腐を崩すかのようにヒカルの肩をえぐったが、ヒカルは怯むことなく、相手の足元を凍らせ、動きが止まったところを杖で殴り飛ばした。

 3人目の生徒は、地面に落ちていた小石を突風で飛ばして攻撃した。弾丸のような小石がヒカルの頭に当たると額から血が流れた。ヒカルは、氷の弾丸を作る要領で、氷の壁を作り、小石を防ぐ。そして、オオトカゲの腹を抉った氷柱を、氷の壁から作り出した。

 4人、5人、6人と、ヒカルは多くの生徒を相手にした。ヒカルもそれなりに怪我をしたが、カルサが止める最後まで立っていたのはいつもヒカルの方だった。


「やはりツメが甘い。攻撃が迫ったら防ぐか避けるか、瞬時に判断しなければならない。そうだろう」

「でも、あの転入生“Z組”なんでしょう?それなら、だいぶ健闘したほうだとは思いませんか?」

「たとえ健闘しようとも、相手の魔力が無尽蔵だろうと、氷柱に貫かれれば死ぬ。それが実戦だ」

「ちぇー」


 カルサは、生徒の目の前に迫った氷柱を手折って言った。

 生徒達は個人で魔法の演習を始める。ヒカルとの戦闘で知った、カルサのアドバイスを試している様子だ。


「何人も付き合ってもらってすまないな。

無尽蔵の魔力で暴れられる者など、“Z組”の生徒ぐらいだ。その中でも戦いを好む者なんてごくわずか。

授業内で、多くのタイプの魔術師との戦闘経験を育みたいものだが……なかなか気楽に戦える相手じゃないんだ」

「そうなんですか」

「……そういえば、無限の魔力と言えども、消費すれば疲れが出るはずだ。倦怠感は無いか?」

「いえ、別に」


 戦闘で負った怪我は、一戦終わる毎に回復してもらっていた。ヒカルには怪我ひとつ無く、強いて言うなら“ニホン”での体育の運動後のような疲労感がある程度だった。


「そうか……なら、なにより」

「つまり、まだ戦えるってことか?」

「えっ?」


 ヒカルが振り向くと、ヴァイが目をキラキラと光らせていた。

 カルサはため息をつく。


「彼は“Z組”でも特に戦闘が好きなタイプでね……

周りがうんざりしても、戦いに誘うんだ」

「ヒカルとは一度全力で戦ってみたいと思っていたんだ」


 ヴァイは既に杖を構えてヒカルを見据えていて、その姿はまるで棒切れを投げられるのを待つ子犬のようだった。

 特に断る理由も無かったヒカルは、杖を構えた。

 カルサはこれまでにない真剣な目で2人を見据える。超常的な力を持つ2人の激突で、怪我人が出ないか、めいいっぱいの注意を払っている。

 戦闘の模擬演習をしていた生徒達もヒカル達の周りに集まって見学を始める。


「よし……始めるか!」


 ヴァイは、杖を目の前に翳した。一言二言念じると、杖の先から緋色の色の光の刃が飛び出した。先日“迷宮”での戦闘でも使った魔術だ。

 刀のように杖を構えるヴァイを見て、ヒカルは同じ魔法を使いたいなと思った。


 2、3度、ヴァイは杖を振り回し遊んでから、ヒカルの方へ跳んだ。

魔法術演習

月1にある授業。講師のカルサが遠征に行っている時は年1になったりする。

授業目標は『実戦においての勝利を掴む力の育成』。

授業の様子はさながら魔法を使った総合格闘技。反則は存在せず、どんな手を使ってでも無力化まで持ち込めれば評価される。

基本的な戦闘力とセンスが無ければついていくことすら難しいが、戦闘での確実な自信やここぞという場面での逆転の力が身につくと、幅広い層から根強い人気がある。

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