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王都への道

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 ヒカルが正門に着くと、既にヴァイが待っていた。


「ここからどうやって街に行くの?」


 ヒカルは尋ねた。学園は山の中にあり、正門の外は鬱蒼とした森が続いていて、獣道直前の荒れ道しかない。先日近所の“迷宮”に行った時も、交通の足となるようなものは見かけなかった。

 先程のヴァイの様子を思い出して、ヒカルは尋ねる。


「あ、飛んで行くとか?」

「いいや、もっと簡単な手段がある」


 ヴァイは明確には答えず、森の中の道を歩き始めた。途中で“迷宮”への道から分かれた下り坂の道に進む。

 道は狭い感覚でヘアピンカーブを繰り返している。途中、小さな荷車を引いた一行とすれ違った所から、この道が資材搬入に使われているのだと知ることができる。

 しばらく道を進むと、水のせせらぎが木々の向こうから聞こえきた。木々の分け目が見えるが早いか、ヴァイは走り出す。


「おーい、船頭さーん」


 道の先は船着場になっていて、一艘(いっそう)の舟が停まっている。木造の小舟に長い棒を持った人が座っている様子は、ヒカルが“ニホン”の教科書で見た渡し舟とそっくりだ。


「王都まで川が繋がっているから、舟で行くことが出来るんだ」

「そうなんだ。でも、手漕ぎ舟で山の上までさかのぼるのは難しいんじゃ?」

「船頭には水の魔法が使える人がなるんだ」


 近くで見ると、教科書の渡し舟の人とは違い、船頭の持っている棒は長い杖だった。

 ヒカルの持っている杖とは異なり、木製で梶の形をしていて、船尾に固定されている。

 ヴァイとラック、ヒカルとロアが乗り込んだのを見計らい、船頭は舟を出す。

 船頭が杖で水を掻くと、舟の周りの水流が変化する。舟を持ち上げるように水が動き、川の中を進む。


「すごい……」


 波などの揺れもなく、舟はスムーズに川を逆流していく。

 数分で川は大きな流れに合流する。周囲を覆っていた森が開け、前方の川の上流には山脈が連なっているのが見えた。

 山脈はまるで巨大な壁のようだった。高さはともかく、幅なら富士山よりも大きいのではないかとヒカルは思う。中腹にかかっている雲が小さく見える事も、その大きさを際立たせていた。


「あの山脈の内側に王都があるんだ」

「内側に!?麓とかじゃなくて?」

「ああ。川の源流は王都の湖だから、山ん中でも意外と交通悪くないんだぜ」

「へぇ……

あの山どれぐらい高いの?」


 ヴァイは困った顔をしてラックと顔を見合わせた。


「えっと……“ニホン”の高さの単位って何だっけ……」

「ちょっと前に尺からメートルに変わったらしいって聞いたよ。確か、1メートルは……」


 少しラックとやりとりをした後、ヴァイはヒカルに向き直った。


「“ニホン”で言うと、3000メートルとかあるらしい」

「そんなに!?」


 殆ど富士山と同じぐらいの高さの山が連なっている事実に、ヒカルは驚きを隠せなかった。


「ここから見ると、そこまでは高そうには見えないけど……」

「学園辺りの海抜がだいぶ高いんだ。

あそこも山脈の一部で……900メートル?1000メートル?ぐらいあるらしい」


 ヴァイは指折り数えてメートル基準を計算して答えた。


「高山病とかならないの?」

「なる奴もいるけど、少ない。

山の中っつっても盆地だからそう影響もないんだろう。

詳しくないからそれ以上は知らん」

「そうなんだ……なんだか面白いね」

「そうかぁ?」


 ヴァイは不思議がったが、ヒカルは満更でも無い感覚だった。

 川をさかのぼるうちに、山が少し近づく。

 ヒカルは、山の頂上の隙間から、大きな飛行船が出入りするのを見た。


「飛行船……!?」

「ああ、最近開発された空飛ぶ舟、だったっけ?」


 物珍しいものを見た様子でロアが答えた。


「ロア……最近って、もう100年ぐらい前の事だろ?少なくとも俺が生まれた頃にはあった」

「あれ、そんなに昔だったっけ」


 6000年に比べれば誤差みたいなもんだし、とロアは誤魔化す。


「あんな大きなものを飛ばす便利な魔法があるのに、人の移動は舟なの?」

「浮遊魔術は特別難しくて、力が要る魔法だ。

個人で飛ぶぐらいならそこまで難しくないけど、物資を運ぶような馬力は複数人じゃないと出来ない。

一隻動かすのに、訓練された魔術師が沢山と、優秀な天気占い師、あと大量のガスが必要なんだ。

短い距離の運用には向いてない。

あれは遠方からの物資や来訪者を乗せた舟だろうな」

「“ニホン”で言う飛行機みたいなものなのかな」


 何気なくヒカルが言うと、ラックは目をキラキラさせてヒカルを見ている。いつも持ち歩いている羊皮紙の束を手に持つ姿は、サインを待つファンのようだった。


「何?」

「その、“ヒコーキ”っていうもの、描いてみてほしいなぁ、って」

「…別にいいよ」

「やったぁ!」


 ラックは幼い子供のように喜んだ。


「ラックは本当異世界(それ)ばっかりだよなぁ」


 そう言うヴァイも、興味深そうにヒカルの手元を覗き込んでいる。


「だって、異世界だよ?

離れても決して消えない、誰もが使える“デンキ”の秘術。ひとりでに考える“ゼロイチ”のハコ。

ユメのある遠くの場所……憧れると思わない?」


 ヒカルは描いたものを眺める。簡単に描いたつもりだが、細かい記憶が抜け落ちていて何かが違う気がする。けれど、記憶が曖昧なので、何が違うのかはさっぱりわからない。


「これが“ヒコーキ”ってものか……うんうん。

図書館で見た図にそっくりだ」

「相変わらず変な見た目してるな……」

「ガスの浮力で浮かぶ飛行船とは違って、これは風を滑空する乗り物だって本に書いてあった。

なんでも、揚力という力のを活用しようとするとこういう形になるそうだよ」

「意外と詳しいんだ」


 “ニホン”出身のヒカル自身でさえよく知らない飛行機の情報が出てくる。


「“転生者”への聞き取りから研究が進められていてね。

僕はそういう話を調べるのが大好きなんだ」

「だったらもっと詳しく思い出した方が良かったんじゃ…?」

「それは思い出せた時、また描いてくれればいいよ。

無理矢理思い出そうとしても、出来ない時は出来ないものだし。

僕もそれなりにスケッチを嗜んでるからわかるよ」

「わかった。忘れないうちに書き留めておくね」

「ありがと。

それはそれとして、“ニホン”の文字というのを書いてみてほしいんだが……」


 ラックの質問攻めは、舟が川の上流に登り切り景色が一変するまで続いた。

 山の中にトンネルがあり、川の水はその内側を通って流れ出している。トンネルはレンガ造りで、明らかに人工物だった。あちこちに補強が為されていたり、レンガの表面に風化の跡が見られたりと、長い年月を感じさせる。


「昔戦争があって、この辺には敵の侵入を阻んだり水を堰き止めたりする為の砦があるんだ」


 ロアの言葉が薄暗い水路に響く。

 6000年生きたというロアでさえ昔と言うのだから、相当な昔に違いないとヒカルは思った。

 トンネルを抜けると、両側を重厚な石壁が並び、真正面には中央に島のある大きな湖がある。


「ようこそ、王都サピロスへ」


 目を見開いてあちこちを見るヒカルを、ヴァイは満更では無さそうに笑った。


「今俺たちがいるのは(まち)の南側。用があるのは、西側で、繁華街とかになってる区域がそこだ」

「あの中央に見える島は何?」

「あれは…王宮だよ」

「王宮?」

「つまりはヴァイの実家だね」

「実家言うなよ」


 ヴァイは眉をひそめて言った。この王子が実家があまり好きではないことは、そろそろヒカルにもわかり始めていた。


「実家はともかくとして……あの島全部が、王城?

城にしては大きすぎない?」


 島は真ん中が小さな山として盛り上がっており、それを王城が囲っているため、余計大きく見える。

 ヒカルが“ニホン”の修学旅行で訪れた国会議事堂よりも巨大であることは間違いなかった。


「王城と、議会と、あと神殿と王墓が一体になってるからあんなに馬鹿でかいらしい」

「王政墓一体構造って言ってね、権力の象徴なんだ」

「……王墓?」


 ヒカルのいた世界では、墓は一般的に住居からは離されて建造される。王墓となれば、ピラミッドや古墳など、広い土地に巨大なものを建てるものだと思っていた。


「ほら、“迷宮”行ったでしょ?

あそこは、ずっと昔はお墓だったって言わなかったっけ」

「言われた…気がする」


 正直、ヒカルはいまいち覚えていなかったが、そんな気がしたので曖昧に答えた。


「放置された墓は“迷宮”になる。その仕組みに真っ先に気付いて、なら定期的に人が行き来すればいいんじゃね、って思った人がいてね。

試みは大成功。

当時の王は、人を巡回させる富と、“迷宮”化を制御する最先端の技術を誇る為に、王墓付きの王宮を建てたんだ」

「ふーん…」


 独特な文化だなぁ、と思いながら、ヒカルは王宮を見る。すると、王宮中央の山の頂上から、薄く煙が立ち昇っているのが目に入った。


「あれは……煙?」

「ああ。王宮は火山を覆う感じで作ってある。

なんでも、神殿?での儀式?で、火口に行く必要があるんだとさ」

「王子なのに知らないの?」

「王位継承権の無いヤツは神殿に足を踏み入れる事が許されてないのさ」

「シトリなら知ってるかもだけど……きっと国家秘密なんでしょうね」

「神話だと、あの火山の中に神様のカケラが入っているんだって」


 ヴァイは、昔の人の冗談だろ、と茶化した。

 けれど、ラックは言い返す。


「今度ある“炎の大祭”は、神様のカケラに王族が豊穣の感謝をすることを記念するお祭りなんだよ?

流石にそれぐらい知っとこうよ…」

「はいはい、俺は不真面目なドラ王子ですよ」


 ヴァイは肩をすくめた。


 舟は湖を横切り終わり、繁華街のある場所に近づいていた。

 舟が行き交う数も多くなり、水辺では多くの人々が物資の積み下ろしを行なっている。湖の中から見える範囲だけでも、道に人がごった返し、品を持った商売人が右往左往しているのがわかる。

 舟は、湖の西にある1つの砦の元に横付けする。西側にも川があるようで、川と水が接する所に砦が建てられていた。

 ヴァイ達は船頭に礼を言い、順に舟から降りた。

王都サピロス

中央に湖があり、湖を囲うように平地が、平地の周りに山脈がある。

湖の半径は5キロ、平地の半径は15キロ程度。

推定成人人口は20万人。

西側の平地が繁華街として最も栄えている。

南側は貴族街や成金の住宅地として有名。

北側は庶民街で、東側は畑が広がる他ファイア国最大級の“迷宮”であるアクアマ陵が存在する。

何万年も前に噴火した火山が陥没して作られた盆地と言われている。

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