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確認テスト

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「それじゃあ、今日は確認テストをしよう!」

「確認テスト……?」


 教室に着いたヒカルに、担任はテストをもちかけた。

 ヒカルは反射的に怪訝な顔をする。

 抜き打ちテスト、確認テスト、中間テスト、期末テスト……ありとあらゆるテストに追いかけ回されるのが学生の常だ。故に、大概の学生にとってテストと名の付くものに対する印象は良くない。当然ヒカルも例外ではなかった。


「なぁに、緊張することはないさ。

ここ数日でヒカル君は色々なことを覚えてきただろう?

それがどれだけ定着しているのかの確認だよ」


 まあまあ、とヒカルをなだめ、担任のヤマは図鑑を取り出した。前に、ヒカルが“魔獣”について教わった図鑑と同じものだ。


「第一問!」


 丸メガネをキラつかせる担任に、ヒカルはこのテストが回避不可であることを悟った。


「この世界の生き物と、君のいた“地球”の生き物には、大きな違いが存在します。

その特徴を、『魔法』と『寿命』の2点を中心に説明してください」

「ええっと……」


 型式立った問で聞かれ、ヒカルは答えがわからなくなった。

 『魔法』と『寿命』というキーワードから、それっぽい関連事項を引っ張り出す。


「この世界の生き物には、寿命がない」


 ヒカルの言葉には自信がなかったが、ヤマはわかりやすく頷いた。ヒカルは答えの方向性を悟り言葉を続ける。


「あと、この世界の生き物は、魔法を使うことができる」

「正解。ちゃんと人の話を聞いていた上に覚えているなんて流石だね!」


 簡単に正解したことに、ヒカルは拍子抜けする。


「じゃあ、第二問。

この世界の生き物……正確には動いているものか。動いているものは、“魔獣”と“魔物”に分けることがらできます。その2つのうち、“魔物”の特徴とはなんでしょうか」

「既に死んでいること」

「大正解!

しっかり知識として身についているのがすごいね」


 褒めちぎるヤマを見て、ヒカルは、教育テレビにいそうな男だなと思った。


「第三問。

それじゃあ、“魔獣”の方の特徴はなんでしょう」

「“羽化”ってものがあること」


 この世界で1番ややこしいところだ、とヒカルは思う。


「その通り。

幼体と成体がキッパリ別れていてて、“羽化”が訪れるまで幼体以上に歳を取ることがないんだ。

大事なところは全部覚えているなんて、素晴らしい記憶力だね」

「……はあ」


 ヒカルの気分は、褒められて気恥ずかしい気分半分とヤマへの不信感半分になっていた。


「テストは全問正解だ。おめでとう。

そんな優秀な君にはこれをあげよう」


 ヤマは1つの杖を取り出した。

 見た目は装飾のないレイピアの柄に近い。金属でできた15センチばかりの棒で、両端に宝石がついている。


「ヒカル君専用の杖だよ」

「僕専用の?」


 ヒカルは想像していたのとは違う形状の杖に目新しさを感じた。ヒカルが“ニホン”で読んでいたファンタジー小説に登場するものよりだいぶ短い。杖と言われなければ金属製のペンだと思うだろう。

 ペンで言うクリップのような、自転車で言うブレーキレバーのようなものも付いていて、握るとカチカチと音が鳴る。


「色々と説明を省くと、その杖は銃型というものでね。魔法を使う時、念じながらトリガーを引く……その杖の場合はレバーを握ることで、安定して魔法が使えるようになるんだ」

「……ファイヤー・ボール!」


 呪文を唱え、レバーを握る。すると、電球が点いたようにポンと炎の球が杖先に現れた。

 レバーから手を離すと、炎の球は消えてなくなる。


「あまり、使いやすくなったようには思わないのですが」


 ヒカルには、発動が楽になったようにも、魔法の威力が上がったようにも感じられなかった。


「今は分からなくても大丈夫。最初は誰しもそんなものだよ」


 そんなものだろうか、とヒカルは思った。それはそれとして、貰えるものは貰っておくことにした。


「さて、話をテストに戻そう。

“魔獣”には“羽化”がある、ということは話した。そして、人間もまた“魔獣”であるために、“羽化”の宿命からは逃れられない。

ここまではわかっているね?」

「ええ。この“Z組”が、“羽化”出来なかった子どもを集めてできているということまで」


 ヒカルの答えに、ヤマはメガネの奥で目を丸くした。


「おや、もうそこまで知っているのか。ヴァイ君やロア君に聞いたんだね。

話が早くて助かるよ」


 ヤマは一呼吸置いて言った。


「ヒカル君に目指してほしい最終目標は《“羽化”を起こす事》だ。

明日でも良いし、来年でも良い。十年かかっても、千年かかっても構わない。

達成するまでの衣食住は学園が保証する。けど、達成するまでこの学園から卒業することはできない」

「……それって、学園側にメリットあるんですか」


 あまりにも良い条件を訝しまず飲み込むほど、ヒカルは純粋ではなかった。


「メリット……メリットねぇ」


 ヤマは考え込んだ。


「学園は“羽化”を研究することが目的の機関だから、メリットって話ならヒカル君が在籍してくれることが益かなぁ」


 そんなものだろうか?


 ヒカルは更に訝しむ。


 起こるかわからない“羽化”とやらの研究のために、何十年、何百年、何千年と人を養うほど、この世界は豊かなのだろうか。


 ヒカルの疑念をよそに、ヤマはおちゃらけた様子で言う。


「担任としては、卒業生が出ると卒業手当が出るから、それがメリットになるかなぁ。

今日あたりサクッと“羽化”起こしちゃって、手当で美味しいご飯を食べに行くとかでもいいんだよ。

冗談だけどね」


 担任からはこれ以上情報は聞き出せなさそうだとヒカルは判断した。


「……その“羽化”を起こすために、アレコレ授業を受けたりするんですか」

「いいや。特に何かを強制したりはしていない。

強いて言えば、世の中の常識を知らない人間は必須のレクチャーがあるけど。

それももう終わったしね」


 さっきのテストはそれだったか、とヒカルは思う。


「あとは、受けたい授業を気ままに受けて、そのほかの時間は青春を謳歌するだけでいいんだ」

「だからーーーー教室にいるのはロアだけなんですか」


 ヒカルは教室内を見回して言った。

 教室には、ヤマとヒカルの他にはロアしかいない。目があったロアはふざけて手を振った。


「今日の“Z組”のカリキュラムは自習だからね。

シトリ君は現代経済学、ヴァイ君は格闘術演習、ラック君はコランダ王朝美術研究に行っているんじゃなかったかな」

「ロアは何をしているの?」

「お小遣いの帳簿つけたり、内職したり、色々」


 ロアはノートや毛糸のコサージュをヒカルに見せた。


「学園は衣食住は保証してくれるけどお小遣いはくれないから」

「授業中の“内職”で本当に内職してる人初めて見た」

「まあ、そんな感じでみんな自由気ままに過ごしているよ」

「……本当に、何の強制もせず何千年も待ってるんですか」


 ヒカルは念押しした。


「勿論だとも」

「6000年学生やってる私が言うんだから間違いないよ」


 ロアは内職の片手間に言う。


「じゃあ、もし僕が『大人になりたくない』って言ったら、どうなるんですか?」

「どうもならないよ。“羽化”は当人の意志で左右されるものでもないからね。だから余計大変なんだ」


 ヤマはなんでもない様子で言い、持ち歩いているカゴから分厚い本を取り出した。厚みと重さは並の辞書に匹敵する。その本は、異世界語と日本語両方の言葉で書かれていた。


「山頂を決めたらあとは足元を見るだけ。

喫緊(きっきん)の問題は、どうやって君が楽しく学園生活できるのか……つまりは、授業選択にある」

「わ、辞典じゃん。久しぶりに見た」

「この本には、学園で行われているあらゆる授業が書かれている」

「その本全部が、ですか?」

「最初の20ページまでは週一で行われている授業で、その後は月一、季節に一度、年一、十年に一度、みたいに間隔が空く」


 ヒカルが試しに最後から1/5ぐらいを開くと、百年に一度の祭りや狩猟遠征について書かれたページが出る。百年に一度、という記述も目を引いたが、よく見ると【受講期間:2年】といったものもある。

 内職から完全に注意が外れたロアが、狩猟遠征の記述を見て言う。


「その狩猟遠征行ったなー。鹿の魔物の群れを追いながら狩るんだ。意外とシトリが安定して戦える子だってわかったりとか、面白かった」


 ロアの語り口はまるで去年の修学旅行の思い出を話すかのようだった。

 寿命の概念がない為、時間感覚のスケールが余りにも違うのだ、ということをヒカルは痛感する。


「受けるとしたら、【ファイア国学基礎】とかいいんじゃない?

“転生者”は話したり聞いたりはできても読み書きはできないし」


 【ファイア国学基礎】は週一の科目だった。

 ヒカルは、外国語を覚えるのは面倒だと思い、答えを渋る。

 その時、窓の外から鐘の音がした。

 学園の大校舎には尖塔があり、授業開始時の朝と終了時の昼、夜の学園寮の門限の、1日3回鳴らされる。今鳴った鐘の音は、授業終了時の鐘の音だ。


「おや、もう時間か。

それじゃあ、この授業もお開きにするよ。

お疲れ様ー」

「おつかれさまでーす」


 ヤマはカゴを持って教室を去った。

 ヒカルは気乗りしないまま授業のページを流し見する。

 ヒカルがぼーっとしていると、コンコンと、窓のガラスが叩かれる音がした。

 何事かと窓を見ると、窓の外にヴァイがいた。ふわふわと浮かんでいて、窓のサッシの鍵を指差している。

 ヒカルが鍵を開け、ヴァイは教室の中に降り立った。


「ちゃんと廊下を歩いて来なよ」

「だって面倒なんだからしょうがないだろ。あんな迷路みたいな道、真面目に歩くのは馬鹿らしい」


 ヒカルは便利な魔法があるのだなと感心した。


「さて!些細な事は鳥に食わせて、どっか遊びに行こうぜ、ヒカル!

今日は何する?

また“迷宮”に行って魔法の鍛錬でもしようか。それとも、学園の中探索するのも面白いぜ。大校舎だけで3週間は彷徨える」

「僕としては、王都サピロスに外出するのもアリだと思うけど」


 教室に戻ってきていたラックが乗じて提案する。


「王都か……悪くはないんじゃないか」

「サピロスって何?」

学園(ここ)から1番近い所にある街で、ファイア国の王城がある都。繁華街で買い食いとかできて楽しいよ」

「へぇ……面白そう」

「ヴァイの実家も見れるだろうし、楽しいお出かけになりそう」


 そういえばヴァイはファイア国の王子だったな、とヒカルは思い出す。


「決まり、今日はみんなで街に行こう」


 ラックは楽しそうに宣言する。


「わーい、お出かけだー!

ラックも参加するとして……シトリは?」


 ロアはこの場にいないシトリを気にかける。声もかけずに出掛けるのはどうかと思った為だ。

 しかし、ヴァイは乗り気ではない。


「勉強バカはほっとこうぜ。どうせ乗ってこない」

「……そうかなぁ」

「授業終わっても教室に帰ってきてないだろ?」


 ヴァイは教室に残るシトリの学用カバンを示した。

 登下校の際は持ち歩かなければならない、という校則がある。シトリは律儀に校則を守るタイプの人間であるため、特に用が無ければカバンを取りに戻るはずだ。


「そんなの、授業中に気になった事調べに図書室行ってるに決まってる。つまり今日の午後もお勉強で忙しいのさ」

「先に学食でお昼を食べてるかも、ってのは?」

「ないない。なんだかんだ50年付き合いがあるんだ。アレの真面目さは充分よく知ってる」


 ヒカルは、なるほどそんなものかと納得した。

 ヴァイは窓を開けて言う。


「さ、そうと決まれば早速行こうぜ。

今なら昼の船に間に合うだろうし」

「僕たちのお昼はどうするんだい」

「買い食いするんだから要らないだろ。

正門の所集合な、俺は寮寄って軍資金持ってくる!」


 柵を飛び越えるように窓枠を抜け、ヴァイの姿は建物下に落ちていく。

 ヒカルは危ない!と思ったが、ヴァイは着地の一瞬減速し、更に受け身を取って地面に降りた。だいぶ手慣れている印象を受ける。


「ヒカルはまだ真似しないように」

「わかってるよ」


 ロアに釘を刺されたヒカルは、廊下を歩いて正門に向かった。

浮遊魔術

高度な技術と膨大な魔力が必要な魔術。

物を浮かしたり飛ばしたりする“浮遊魔法”を連続発動させている。

何分も飛び続けられる者は魔法使いの中でも上級者に限られる。

高くジャンプする“飛翔魔術”とはまた別口の魔術。

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