ホームルーム
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担任の男は、少年を教卓前に立たせた。
黒髪で小柄な体格、幼げな印象の残る顔立ちの少年は、緊張した面持ちで4人の生徒達を見回した。
担任は殊更優しそうな声で言う。
「彼が、今日からこの“Z組”の新しいクラスメイトだ」
担任に促され、少年は自分の名前を言う。
「……浅野ひかるといいます」
名前を聞いた途端、生徒達は驚いて顔を見合わせた。
「アサノ、ヒカル……?ってことは」
「ああ。ヒカル君は異世界“地球”の“ニホン”という所から来た、いわゆる“転生者”だ。
わからないことも人一倍多い。困ったときは助け合ってほしい」
担任の説明に、生徒達はやっぱり、と納得する。
そして、物珍しそうな目で転入生のヒカルを見た。
「ヒカル君の席は一番端に用意してある」
「私の隣だね!」
教室には5つの机が扇状に並んでいて、廊下に面した席が空席になっていた。
隣席の少女がよりわかりやすいように示す。
ヒカルが席につくと、担任はきちんと生徒全員が見えるかどうか確認した。
「前はちゃんと見えるかな」
担任の言葉に、ヒカルは頷いた。
「さて……ヒカル君は“転生者”だ。既に軽く説明はされていると思うけど、まだ実感は無いだろう。
だから、まずは魔法についてから話そう」
担任はそう言い、片手を前に伸ばした。軽く指を鳴らすと、音を合図に手のひらの上に小さな火の玉が現れる。
生徒達は見慣れた様子で眺めているが、ヒカルは目を見開いて炎の燃える様を見つめる。
「“地球”とは違って、この世界には“魔法”が存在する。
一部例外を除いて、想像する物は全て形にできるんだ」
炎の玉は担任の腕の周囲をくるくる回り、瞬く間に7つの色とりどりの炎の玉に分離した。炎の玉は部屋中を跳ね回り、ヒカルの横を掠めた。
ヒカルの興味を掴んだ所で、担任は教室の中央を指さす。すると、7つの炎の玉は1つに集まり、火の粉を散らして弾けた。
「勿論、これは手品じゃない。
ヒカル君もすぐに使えるようになるだろう」
ヒカルは訝しげに部屋の中を見たが、トリックのタネに思えるものは1つもない。おまけに、炎が跳ねたはずの壁や床に焼け焦げの跡は1つもなかった。
「そして、この世界にはもう1つ、異世界から来た人間にとっては摩訶不思議な現象がある。
それは、この世界に生きる物全てが“不老”である、ということ。
これを理解してもらうには、自己紹介してもらった方が早いかな。
ロア君、よろしく頼めるかい?」
「やっぱり私かぁ」
そう言って、ヒカルの隣の席の少女は立ち上がった。紫色の髪と瞳を持つ、はつらつとした印象の少女だ。
「私はロア。特に特技とかはないけど、6000年は生きてるからそれなりに色々と経験してるよ。
よろしくね!」
「ごせん……!?」
ヒカルはかつて受けた歴史の授業から、どれぐらい前なのかを考える。6000年というと、日本では石器時代辺りだったはずだということは辛うじて思い出した。
ロアの見た目は派手好きなJKと形容するのが正しく、6000年前の原始人とは対極にある存在と言って良い。
「昔過ぎて資料も記憶も曖昧だから、少なくともそれ以上って感じ。
あ、でも、同じクラスメイトだから、歳の差があってもフラットにロアって呼んでね!」
語り口の余りの軽さに、何かの冗談を言っているのかとヒカルは思ったが、担任も同級生も至極真面目な顔をしている。
ヒカルは、目の前で魔法の存在を見せつけられたばかりな以上、そのような不思議なこともあるのだろう、と考え納得することにする。
「次は……生年順にラック君かな」
ロアと入れ違いに、白髪に黒い瞳を持つ、色白の少年が立ち上がった。
「ラックといいます。
ロアの後だと霞んじゃうけど……そろそろ300過ぎになるかな。
“ニホン”の文化、特に芸術に興味があるから、時間がある時に教えてくれると嬉しいな」
髪こそ真っ白だが、その外見はとても老人には見えない。せいぜい中学生か高校生かぐらいだ、とヒカルは思う。
「次は私の番ですね」
ラックが自己紹介を終えると、今度は長い金髪の少女が立ち上がった。
「私はシトリという名です。
次の夏で生誕253年を迎えます。
これから、よろしくお願いします」
そう言ってシトリは深々と頭を下げる。
その動作は洗練されて気品に満ちており、金髪碧目の少女の中に老婦人が入っているかのようにヒカルには見えた。
整い過ぎていて、ヒカルは少し近寄り難い雰囲気を感じる。
「最後はヴァイ、あなたではなくて?」
「……言われなくたってわかってるよ、姉上サマ」
シトリに指名された、4人目の同級生が立ち上がった。ボサボサの長い青髪を無造作に束ねた少年だ。
話からするにシトリの弟のようだが、髪色は姉の金髪とは異なるのだなと、ヒカルは少しだけ引っかかった。
「俺はヴァイ。
今年で50歳になる」
ヒカルは一瞬若いなと思ったが、よくよく考えると他の比較対象がおかしいだけだったことを思い出した。
「彼ら4人が、今日から君のクラスメイトだ。
このように、この世界には寿命というものがない。故に、とてもとても長い付き合いになるだろうから、仲良くするのがおすすめだ。
僕も君の学園生活が楽しいものになるよう精一杯手伝うから、気軽に相談してくれると嬉しい」
「ヤマ先生は自己紹介しなくていいの?」
「おっと、忘れる所だった」
ロアのツッコミで、担任ははっとした。
「僕はヤマ。この“Z組”の担任だ。
困った時の便利屋さんとでも思ってくれていいよ」
便利屋、と言うには信頼が出来ないな、とヒカルは思う。
「さて、突然で悪いんだけど、これから魔法の基礎講座があります!
みんな急いで中庭に集合してね!
僕は下準備があるから……
ロア君、道案内頼めるかな」
「りょーかいです」
ロアは間の抜けた返事をした。
バタバタと慌ただしく担任のヤマは去って行き、残された生徒たちもそれぞれ移動の準備を始めた。
ロアは、親しげな様子でヒカルに話しかけた。
「それじゃ、一緒に行こう。ついてきて!」
パタパタと足音を立て、ロアは階段を駆け下り、廊下を移動し、また階段を降りた。
学園の構造は複雑で、いくつもの建物が組み合わされたようになっていた。
何千年も使われ増築を繰り返すうちにこういうわけのわからない構造になったのだ、と歩きながらロアが説明した。
ヒカルは道をなんとか覚えようとしたが、5回目の階段が途中で右折した所で不可能だと理解した。
しばらく走った先で視界が開け、ヒカルとロアは壁紙に囲まれた空が見える空き地に出た。
「ここが中庭だよ」
「到着が早くてなによりだ。
迷子になってたら大変だからね」
中庭の真ん中にいた男は、ヒカルの姿を見て安堵の言葉を漏らした。担任のヤマだ。
「だったら自分で案内すればいいじゃない」
「場所の使用願いとか道具の整備とか、先生は先生で大変なんだよ」
ヤマは、大きな箱に入った棒状の何かを弄っている。何本かの棒きれを束ね、無色の結晶を先で挟む作業を行なっていた。
ヒカルがじっと見ているのに気付いたヤマは、作っていた棒の束の1つを取って、ヒカルに見せた。
「これは魔法訓練の時に使う、魔法の杖の模造品だ。
魔法を使いやすくする効果があるんだよ」
棒きれが6本束ねられたのと時を同じくして、“Z組”の生徒達全員は中庭に集まった。
「では、授業を開始する。
これが今回の課題。大丈夫だとは思うけど、みんな注意して扱うんだよ。
あと、ちゃんとこの杖を使ってね」
ヤマは、ヒカル以外の生徒達にそれぞれ1個ずつ箱と杖を渡した。
生徒達は箱の中から小さな球根を取り出し、離れたところに放り投げる。すると、球根は宙を舞う中で勢いよく芽を出し、根と枝を張り、等身大の木の塊に成長した。
「!?」
「ああ、驚かなくていい。アレは訓練用の的だから」
ヒカルは目を見張り、攻撃を繰り出す樹を見ていた。だが、生徒達は慣れた動作でツタの鞭を弾き、杖から出る炎で焼き払っている。
「さて、こちらも魔法訓練を始めようか。
これが今日の君の杖だよ」
「は…はい」
ヤマはヒカルに、大きめの結晶が2つ挟まった、50センチぐらいの棒切れの束を手渡した。
「これを、挟んでる棒がくっつくぐらいまで強く握るといい。そうすると炎が出るから」
ヒカルは隣で戦う同級生達を見て言った。
「さっきの先生とか……あんな感じに?」
「そうそう、あんな感じに」
最も近くで戦っているロアは、振り下ろされた太い枝に炎を放って大きな焼け焦げを作り出した。生の木が焼ける青臭い臭いがする。
「…僕も、あんな風に動けるでしょうか?」
「最初は炎が出せるだけでいい。
今日の君の課題は、この紙を燃やす事だよ」
そう言ってヤマが取り出したのは、とても薄い紙だった。少し油の臭いもする。
ロウソクの炎がかすっただけでも燃え落ちてしまうだろう。
「先生に向けて撃って、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。魔法にも色々あってね、炎を浴びても火傷しない魔法とか、火傷を一瞬で治す魔法とかあるから」
そこまで言うのなら大丈夫だろうと思い、ヒカルは杖をヤマが持つ紙に向けた。
ぐ、と力を入れ、僅かに杖をしならせる。
途端、杖の2つの結晶は怪しい赤い輝きを放ち、先端から業火がヤマを襲った。
「えっ……?」
ヒカルは状況を理解できないまま、呆気にとられて業火を眺めていた。
すると、一度放たれた炎は止まらず、ヤマを飲み込んだ勢いのまま、近くにあったロアの課題の樹に直撃した。瞬く間に樹全体が消炭になり、その先にいたロアへと向かっていく。
「ヤッベ」
ロアは小さく呟くと、杖を投げ捨て両手を前にかざす。
光の障壁が現れ、炎は障壁の上で広がり爆ぜた。
慌てたヒカルが杖を取り落とすと、杖は中庭の石畳に当たって砕けた。それを契機に魔法が解け、中庭の半分を覆い始めていた炎も消える。
5人の生徒達は無傷だったが、ヒカルと相対していたヤマは全身が真っ黒になっている。
「ヤ…ヤマ先生!?
す、すいません!」
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ…!」
ヒカルはヤマの元へ駆け寄った。ヤマは激しく咳き込んだ。1回咳き込むごとに、真っ黒な息が噴き出る。
「ご、ごめんなさい!僕、魔法の使い方とか、わからなくて、その、えっと」
動揺するヒカルに、ヤマは笑って言った。
「いやー、いや、流石だね!ゴホッ!
素晴らしい、ゲホゲホ、才能を感じ、ゲホッ!るよ!」
「ったく、これぐらい受け身ちゃんと取れよな……褒めてんのに格好ついてねーよ」
ヴァイは、バン!とヤマの背を叩いた。全身から黒いススがモワモワと立ち昇る。
「あ、ありがとヴァイ君」
ヴァイは手を引っ込めて手についた灰を払う。
「回復はこれで十分だろ」
「うん、ありがとう」
ヤマは身体のすすを払い落とした。
「さて。
すごいじゃないかヒカル君。まさかこんなに魔法が使えるとは!」
ヒカルはどう答えて良いのかわからず、硬直している。
「ん?
ああ、僕の事なら心配いらない。なにしろ僕も魔法使いだからね。多少燃えたぐらいじゃ怪我もしない。
心配してくれてありがとう」
「ど……うも」
「課題も……うん、完璧だね!」
気が付けば、ヤマは持っていた紙を失っていた。一瞬で燃え尽きたのだろうが、炎が強過ぎて灰すら残っていなかった。
「君の方は気分はどう?疲労感があるんじゃないかな」
ヤマに聞かれ、ヒカルは初めて自分の身に目を向ける。
ヤマが言うような疲労感は無かったが、杖を持っていた手に酷いやけどができていて、皮膚が焼けただれていた。
“ニホン”の医者に見せたらⅡ度熱傷と言われるぐらいかもしれない、とヒカルは思った。
ヒカルの怪我を見て、ヤマは顔を顰める。
「おっと、これは酷い…」
「俺がなんとかします」
さっきもヤマを治していたヴァイが名乗り出て、ヒカルの手の上に手をかざした。
ヒカルは手に何も感じなかったが、数秒後ヴァイが手を離すと、やけどは跡形なく綺麗に治っていた。
「すごい…
ありがとうございます」
「別にこれぐらい大したことない」
そうヴァイは言ったが、口に似合わず表情は自慢げだった。
ヤマはヒカルの様子を見て言う。
「他に何か辛い所とかあるかな。
すごく疲れててもおかしくないんだけど…」
「いいえ、特には」
「そっか。
課題終わっちゃったから、この後は特にやる事無いんだけど…見学でもしてく?それとも、教室に戻って寝てる?」
「……いや。俺とアレ倒すのってどう」
ヴァイは、彼の課題の“樹”を示して言った。
「ぇえ…あれかい?
流石に、まだ誰かと連携しながら戦うなんて厳しいんじゃないかなぁ」
「そうですよ、ヴァイ。初めて魔法を使ったばかりなのに、練習用とはいえ魔物を相手取るのは危険です。
もしかして、課題を楽に済ませよう、なんて思っていませんか?」
シトリは、嘆かわしいとばかりに首を横に振った。
「大丈夫だって。力がこれだけあるなら倒す事もできるって。攻撃は当たんないように捌くし」
「じゃ、私も参加していいかな?
ヒカル君に“樹”燃やされちゃって暇だし」
ロアが参加を表明し、ヤマはぐぬぬと唸る。
「ヒカル君はやりたい?」
ヒカルはじっと“樹”を見つめ、強くうなずいた。
若く無謀な好奇心は、生徒達がやっていた戦闘の様子に強く惹かれた。また、自分の力を試してみたいと思った。
「なら、怪我しないように注意するんだよ。
訓練用とはいえ動くし、ぶつかると痛い」
ヤマはまた箱の中の棒切れと結晶を組み合わせる。今度は、白く濁った結晶が3つ挟まった杖がヒカルに手渡された。
早速“樹”に対面しようとしたヒカルを、ヤマが呼び止める。
「ちょっとだけ、試しに炎を出してみて」
「こんな感じ…かな」
ヒカルがそっと杖を握ると、結晶の先からひと筋の炎が出た。炎は火の玉のようになって安定する。手に火傷が起こるなどのことも無い。
「早速使いこなせるようになってるなんて、すごいじゃないか」
ヒカルは、褒めちぎるヤマの言葉をお世辞だと認識した。先程は失敗したけれど、特に難しいことをしたとは思えなかった為だ。
ヒカルが炎を扱えるの見て、ヴァイは頷いた。
「早速やろうぜ!
オレが枝を弾くから、合図したら全力で焼いてくれ」
ヴァイはそう言うと、すぐさま駆け出して行った。
訓練用の“樹”は身体のツタをぶんぶんと振り回し、接近するヴァイを牽制する。ツタは一度宙で静止した後、猛烈な勢いで振り下ろされた。
ヴァイは杖から出る炎でツタを焼いて追い詰める。
「ヒカル君、右側!」
少女の声にはっとして、ヒカルは右側に杖を向ける。業火がツタを焼き、湿気を孕んだ草木が燃える臭いが辺り一面に漂う。
「ぼうっとしてるとはじき飛ばされるよ!」
紫髪の少女、ロアは、焼け焦げたツタの塊を切り落とす。
「周囲は援護するから、貴方は前に走って!」
「り…了解!」
ヒカルは頷き、ヴァイを追って走りだした。ツタや木の葉がヒカルを襲おうとしたが、
ヴァイが戦う最前線は、足元から無数の根が突き出し、枝が振り回される、一瞬の油断も出来ない場だった。
「よっ、ここまでお疲れ!」
ヴァイはそう言いながら、足元から伸びた根を焼き払った。
「さっきの炎、今頼めるか」
「はい!」
「良い返事だ!
全体的に頼む!」
飛んできた枝をヴァイが焼き払い、炭になった枝がずどんと床に落ちる。太い枝という攻撃手段を失った“樹”は、大きな隙を見せた。
「今だ、行けぇ!」
ヴァイはヒカルの背を叩き、最前線を交代した。
ヒカルは“樹”の幹に杖を向け、持ち手の棒を握りしめる。
「燃え尽きろ!」
途端、杖から炎が溢れ出し、枝やツタ、根を飲み込んだ。ゴウゴウと呻るような音を立て、炎は“樹”の幹へと向かう。
ツタや木の葉はたちまち燃え尽き、風を赤と灰色に染めた。根が土の中で燃焼し、地はあちこちで赤い炎を吹き出した。
ヒカルは試し撃ちした時よりも炎コントロールが効く事に気付いた。炎の方向を若干意図したほうに決める事ができる。
ヒカルは、まだ攻撃が余り届いていなかった幹に意識を向ける。
すると、枝葉や根を這うように伸びていた炎が一線に集まり、無数の炎の矢になって、幹を貫いた。
「よくやった!」
ヴァイは嬉しそうに言った。
そして、ヴァイは燃え盛る炎の中に飛び込んで行った。
「!?」
ヒカルはヴァイの行動に驚き、杖を握る手を離した。
杖から放たれた炎の魔法は止まり、掻き消えた。しかし、“樹”に引火した炎は消えることなく燃え盛った。
「ヴァイさん!?」
ヒカルは焦った。ヴァイが何の考えも無しに火の海に飛び込んだはずはないが、それでも自らの創った炎で燃えてしまったらどうしようかと心配になった。
「……このぐらい、平気だっての」
炎と煙が裂け、その切れ目からヴァイが戻ってくる。手には何かの塊を持っている。
「流石じゃん。
おかげで課題が楽に終わった」
ヴァイは煤だらけになった身体をはたいた。
「…よかった。役に立てたみたいで……
ところでそれは何?」
「これ?これは種子。
さっきの“樹”のバケモノの元になってるやつで、これを取らないと止まらないんだ」
“樹”と戦い始める前、担任のヤマから皆が“課題”として受け取っていた球根だと、ヒカルは思い出した。
「それにしても、初めて魔法使ったとは思えないな。前の世界でも魔法が使えてたとか?」
キョトンとするヒカルを、ヴァイは笑った。
「悪い悪い、冗談だって」
「あ……ああ、そういうことか」
魔法を目の前にしてまだ1時間も経っていないヒカルには、何が冗談で何が本当のことかわかっていなかった。
「僕からしたら、ヴァイさんだって凄い魔法使いだと思いますけど」
「そんな……事は無い。無いよ、全然。
だって、俺は何かっていうと……このクラスだと落ちこぼれの方だぜ?」
ヴァイは冗談めかして言ったが、ヒカルはさっきの冗談には無い“何かのニュアンス”を感じ取った。
ヒカルは言った。
「そうかな……僕はまだなにもわからないけど、ヴァイさんが戦ってる所はかっこよかった」
「そ……っか。
へへっ」
ヴァイは照れ臭そうに笑った。
「あっ、そうだ。
俺の事はヴァイって呼んでくれよ。堅苦しくされるのは好きじゃないんだ」
「……わかった」
“樹”を倒すという課題を終えたヴァイとヒカル、ロアは、それぞれのちょっとした怪我を回復し、それぞれ担任のヤマに褒めちぎられた。
「ヒカル君は、魔法を使えるようになった学習力も底知れないけど、“樹”と戦おうとした挑戦が何より素晴らしい。
どうだい、楽しかったかな?」
「…はい、楽しかったです」
「それはよかった」
ヤマはうんうんと頷いた。
その後は解散となり、生徒達はそれぞれ帰りだす。
戦いからの一連の流れを外野で見ていたラックが、ヒカルに話しかけた。
「あんな大魔法、初めてて扱えるなんてすっごいじゃん」
「そうかなぁ。そんな頑張った感じは無いんだけど……」
「じゃあ、まだ本気出してないってこと?
やばいね、この学園始まって以来の秀才なんじゃないかな?」
ヒカルはそれを聞いて、悪い気はしなかった。得意げな気持ちが、無意識のうちに口元を緩めさせていた。
学園
少なくとも6000年以上前から存在する青少年教育研究機関。
余りにも昔から存在するため名称が“学園”で固有名詞化している。
山間部を主とする領地はどの国にも属さず、完全中立の立場を維持している。
敷地内には学舎である大校舎などの教育に必要な設備のほか、学生寮や教員寮、畑や家畜小屋なども存在する。
2/22追記
活動報告にちょっとした挿絵を載せました
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