恋愛相談は嵐のようです
翌日の放課後。
さてさて、マーガレットさんとの約束の時間だ。
あー、よく考えたらお茶会なんていつぶりだろうか。
入学してすぐの時はそこそこ開いてたけど今は使ってる人はだいぶ減った。
サロンの使用には暗黙のルールがある。
まず、中の話は外に漏らさない。
当然だが、知られたくない話は誰にでもある。
ゆえに、ここで話したことは秘密できるだけ触れないのは貴族の嗜みと言える。
安全性確保のため誘われた人以外は基本的には来ない。
今回のように二人きりでも先生も学生であろうとも近寄ることはない。
サロンを使うには、許可が必要だ。誰が使ったか記録ができる。
粗相があった場合疑われるの自然。ゆえに大馬鹿以外は気にされない。
………まぁ、若い男女である。今回の件で要注意の人物になったのは確かかな。
俺は無害の存在として無難に空気になっていたから浮ついた話はない。
そこは王子に感謝している。マジ助かってた。
ただ、二人でサロンを”使った”のはすぐ広まる。
考えなしの行動じゃないけどマーガレットさんに協力してもらうとしよう。
っと、考え込んでるうちにサロンに着いた。
ノックをしてみる。返事はない。
まぁ、当たり前か。とりあえず、歓迎の準備でもしようか。
ノックを音が聞こえた。まだ少し早いのだが大体約束の時間になっていた。
「どうぞ」というと、二人の足音。
って、おいおい、流石にそれは勘弁してほしい。
相手を確認するとリーガルさん(シスコン)だった。
「ごきげんよう、マ―ガレットさん。リーガルさん」
「ごきげんよう、ドラセナ様」
「ごきげんよう、ドラセナ。急にきてすまない」
ホントにな!お前、姉の事気にしすぎだろ。
いくらなんでも怖いわ!
「いえいえ、少しびっくりしただけです」
「あぁ、すまない、姉さんに無理を言って少しだけ話がしたかった」
「お伺いします」
「ドラセナには心配事はない。だが姉さんは今回の騒動色々思うことはあると思うのだ」
「なるほど、理解しました。それだけですか?でしたら申し訳ない。少しお家の事でも相談があるので席を外していただけないか」
「あぁ、わかった、すぐにここを離れる」
そういって、リーガルはさっと出ていった。
信用ないなー、まぁ、普通は男女二人のサロン利用は避けるよね。
………まぁ、王子はデイジーとしたとか言ってたけど。
「すいません、どうしてもとお願いされたので」
「はは、そうですね公爵の人間のお願いなら仕方ない。少し腰掛けて待っていてください。お茶を入れます」
「では失礼します。驚きですね、ドラセナ様はご自分で入れられるのですか?」
「ドラセナでいいです。しがない男爵の三男には専属メイドなどいませんから。婚約も優秀な人材であれば好きにしろと言われるくらい放任です。平民とそう大差ないです」
なるほど、っと彼女は言う。こうやって話してみるとやっぱり上の爵位の令嬢って気がする。
よし、お茶が入った。会心の出来だ
どうぞと差し出し自分も席に着く。
彼女は優雅にそれを呑む。まるで神話の絵画を見てるかのように目を奪われていた。
これが公爵令嬢の嗜みか。まさに心を奪う傾国兵器にも等しかった。
「まぁ、結構なお手前で。この茶をいただくだけも来た甲斐がありますわ」
「マーガレットさん、にそこまで言われると自信になります」
「………さて、恋愛相談でしたね。申し訳ありません。そこまで力になれないと思いますが」
どうしようか。
いっそのこと、核心に触れてみようか。
「あぁ、すいません。俺のじゃないです」
「では、誰の?」
「マーガレットさん、貴方のです」
「………私に言うべきことはないかと」
「王子の件と婚約破棄の騒動についてなんですが」
「まぁ、傷心の女性に対して随分なことをお聞きになるのですね」
「………どうして婚約破棄させた(・・・)のですか」
「いったい何のことでしょう」
「不自然だなと思ったんです、最近のマーガレットさんを見ていると。王子にあれだけ言っていたのに婚約破棄の後、まったく手をださない」
「それはロイエル殿下に近づくなと言われたからです」
「にしてもおかしい。あの王子の行動を読めないほど貴方は馬鹿じゃない」
「まぁ、不敬なことを。ふむ、………ドラセナさんはどう思ったか、教えていただきたい」
「すべて掌の上のこと、デイジーさんと王子の接触があった入学式の時から。おそらくは」
「中々に大胆な発想でらっしゃる。どこでそう思ったのですか」
「まず、嫉妬にしては引くのが早い。それに公爵から平民に落ちたにしては余裕がある。そして……勘違いかもしれないが、すこし楽しんでる風に見えた」
彼女は眼をぱちくりとしていた。
それは悪戯がばれて驚いている子供のようにも見えた。
こんな彼女の表情は誰も見たことがないだろう。
少し優越感を感じて油断していた。
「ふふ、良い瞳をお持ちなのですね。そこまで看破されてるのは想定外です」
「おや、案外あっさりと認めるんだな」
「まぁ、そこまでわかっている人に隠しても意味がないです。それに下手に嘘をついてごまかしても損するだけですから。それに………すこし、嬉しいのです」
「………」
「婚約破棄の件から私を見ていましたよね?元弟ですら気付かなかったことをここまで気付いてくれる人がいて、かつ、それを知ってなお紳士的に話をする人てくれる人がいると」
確かに、確信がなくてもこの話を使えば彼女をどうにかすることはたやすい。
「目的を聞いてもいいですか」
「えぇ、私、公爵家と婚約者というのが嫌いだったのです」
「なるほど、それでデイジーに王子を」
「その通りです。流石に彼女の本性があそこまで腐っていて、殿下の周り果ては弟までもその毒牙にかかるのは予想外でしたが」
「あぁ、あれにはびっくりした。正直俺はデイジーが苦手だ。あの目を見ているとむかむかしてくる」
「それには同意です。演技もありましたが、時々本気で言っていたこともあります。もちろん殿下にも」
「両方とも面倒な相手だ。マーガレットさんはさぞ心穏やかではなかったでしょう」
「ふふ、マリーと呼んでいただいていいですわ。正直、最初は殿下の事好きでしたの。でも、綺麗な女性がいればすぐに口説く。立場を全く理解しないその姿、次第にうんざりしていたのです」
「だろうな。この年であれなら将来は絶望的だ。ホントに王の座から外れていてくれて心底安心する」
「そこは陛下も配慮していましたし、私も手を打っておいたので」
「なるほどね、公爵家と王族に泥を塗ったにしては余裕があるのはそのためか」
「そうですね。私、殿下と婚約者になってから日記をつけていました。私が行ったこと、出会った出来事、私と周囲の言動は一字一句そのままに」
「!なるほど、それはかなり興味深い内容だ」
「えぇ、そうです。元公爵家令嬢、そして、元婚約者の最後の謁見。その時に陛下に献上しました。王子と会ってから書きだしたものだと」
やっばいーこの子。超危険な人物だわ。しかも、踏み込みすぎた。
これだけペラペラしゃべるということはそ(・)う(・)い(・)う(・)事だろう。
「ははは、これは手痛いことをしてしまった。まさか、王国の機密情報か、やられたよ」
「飲み込みが早い人は好きですよ。ドラセナとは良き友人になれそうですね」
「確かに。王子の側に着くより楽しい日々になりそうだ」
こうしてマリーとの密会は終わった。
この一件以来、俺の環境が目まぐるしく変わることに気付いたのは、
翌日の事だった。