帰るまでがお出かけです
カフェではマリーさんと軽く話しながら手早く済ませた。
王子との遭遇で時間を削られた分、一緒に本を探す時間を増やすためだ。
そして、今は王国図書館に来ている。
王国図書館は閲覧と予約ができるシステムになっている。
閲覧は広間と個人部屋があり広間では少なくない人が交流の為に使う。
予約はここでお気に入りの本を見つけては司書に頼む。
今は広間でマリーさんと会話中である。
「あぁ、平民になったことで一番つらいのは本が買えないことでしょう」
そう、マーガレットさんはつぶやいた。
婚約破棄された令嬢の言葉ではないと思ったが口には出さないでおこう。
「そうですね、お気に入りを見つけても購入が難しいでしょうね」
「えぇ、本当に。きっと図書館に住み着いてしまうのでしょうね」
ふふっ、と笑いながら冗談を言う。
「どうしてそこまで本を好きになったのですか」
「ふむ、どうして……………あぁ、そうでした。誕生日のプレゼントです。お父様から直接もらったのは後にも先のにもそれだけでした。『買いかぶり姫』です。…ドラセナ様はどうしてですか」
「僕の場合はこれが一番落ち着く時間だったのです。想像して考える楽しみはここからですかね」
貴族としては最低限の教育をしてもらってはいた。
しかし、膨大な時間えおつぶすのには本くらいしかなかったのだ。
優秀な兄たちとはちがい平凡だったのだ。
「楽しみ方まで一緒とは………、ふふ、まさか求めてやまないものはこんなに近くにあったのですね」
「けど、本来話すことのできない間柄でした。ここで話せているのは奇跡でもあると思ってます」
「………さて、本を探しましょう。すこし、長話になりましたので」
マリーさんにコクリと頭を軽く下げお互い本を探すことにした。
昼食の時間までは本を探す予定になっている。
そして僕は本の世界に没頭することにした。
ふち、時計を見る。午後一時。
―しまったな。お昼を少しすぎてしまった
司書さんに予約する本を手早く頼むと広間へ駆け足で向かう。
そこには本を開いたまま机に突っ伏しているマリーさんがいた。
こんなに無防備な姿のマリーさんは見たことがなく、
とてもかわいらしいなと思ってしまった。
「………マリーさん、お昼になりましたよ」
「……ん、………、?!……すいません、はしたない姿をお見せしました」
俯きながらそういうマリーさんは心なし顔が赤い気がした。
―こんなレディーよりデイジーさん(ビッチ)を選んだ王子は見る目がないな―
この数日で、マリーさんのいろんな顔を見ているとそんな風に思った。
「謝るのこちらの方です。すいません。寝顔まで見るつもりではなかったのです」
「ではお互いさまということで終わりにしましょう。いい本は見つかりましたか?」
「『アリスの国の不思議』と『一匹の羊と七匹の狼』中々に良かったです。もう司書さんに予約をしています」
「なるほど今度読んでみます」
そんな他愛無い話をしながら図書館を後にした。
しかし、まぁ、マリーさんはよく絡まれる。
本当に身に染みるとはこのことだ。
食事をとり寮へと帰る道で、
「おい、マーガレット。おまえ、貴族じゃなくなっただろ」
こいつはフリード・V・ロードレットというらしい。(マリーさんから聞いた)
婚約破棄騒動の時にビッチの近くにいた一人だ。
見た目だけは王子と(アホ)と同じくらい格好いいんだが………
「俺の妾にしてやる。喜べよ」
「いえ、大丈夫です。もう修道院に行くことが決まっているので気持ちだけで受け取ります」
「だから、修道院じゃなく養ってやるって言ってんだよ」
これである。
しかもにやにやしてマリーさんの体をなめるように見ている。
どうして、あのビッチの近くにいる奴はこうもおかしな奴ばっかりなのか。
「まぁ、いけませんわ。まだ結婚もしていないのに妾の話なんて。」
「あ?いいんだよ、別に。あいつは俺にべた惚れだからどうとでもなる」
「すいません、寮へと帰るのでそろそろ帰らせてくれないか」
「んだよ。邪魔すんなよ男爵風情が。お前にはもったいない美貌の女だよ」
「マリーさんが素敵な女性であるのは認めます。しかし、寮に帰らないといけないので失礼しますね」
そう言って、マリーさんの手を引っ張って、この場を後にした。
その時に何かをフリードはマリーさんに何か言ったように見えた。