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唐揚げにレモンをかけたらパーティーを追放された  作者: 黒茶色のねこ
唐揚げとレモン
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初めてのクエスト

 埃っぽくて窓の少ない室内に背の高い棚が並び、所狭しと武器が陳列されている。

 ここは職人街にある一番大きな武器屋だ。

 俺たちはスライム退治に適したケルシー用の武器を探しに来ていた。

 彼女曰く、アルケミストは戦闘向けのジョブではないので特別得意な武器は無い。

 その代り、だいたいなんでも装備することができるのだそうだ。


「これにします」


 ケルシーは長さ160cmほどの両手持ちのウォーハンマーを持ち上げていた。

 屈強な男が振るうのがイメージに合うその武器は、幼女が持つには誰が見たって無骨すぎると言うだろう。

 だが意外な事に足を肩幅に開いて立っている分にはそこそこ安定感があるようで、不釣り合いな金属の塊を持ってもふらついたりすることは無かった。

 結構力持ちと自負するだけのことはある。体格が小さいだけで膂力は俺よりあるかもしれない。

 訓練したら案外形になるのかもしれないが、率直な感想を言うのを堪えられなかった。


「…それはデカすぎないか?」


「ちゃんと振れます」


 自分の能力を疑われたと思ったのか、少しムッとした様子で答えるケルシー。

 彼女は先ほど「こだわりを持つことは大切だ」と言っていた。

 もしかしたらこのウォーハンマーに強い思い入れがあったのかもしれない。

 やはり少しデリカシーを欠いた物言いだっただろうか。


「ごめんごめん。

 そうだな参考までに、例えば刀は体の中心から腕の先までの長さが良いと言われているんだ。

 長すぎると自分の足を傷つけてしまうこともあるし、遠心力で体が振り回されたりするからな」


「なるほど。

 わたくしの武器を一緒に選んでくれるなら許してあげます」


 片付けるためにウォーハンマーを受け取ったがやっぱり重い。

 壁に掛けるために持ち上げたが、腰を入れないとバランスを崩してしまいそうだ。

 こんな獲物を好んで装備しようとするなんて、本当に侮りがたい幼女だ。


 ケルシーはきょろきょろと左右の棚を見回しながらどんどん店の奥に入っていく。

 しかし片手用ハンマーが並んでいる棚を通り過ぎてしまっている。

 彼女の背丈では死角になって棚の上が見えなかったのだろう。

 しっかり者の性格と行動のギャップが面白い。

 しばらく観察していたい気分だったが、これ以上機嫌を損ねたくなかったので彼女の体格に合った武器を手にとった。


「ケルシー、これなんてどうだ?」


 金槌のような形のハンマーだ。


 ある程度リーチがあって腕の短さをカバーできる。

 それに重心が極端に先端に寄っていないのが彼女には良いと思った。

 全体的に曲線で出来ているので、不注意な扱いで自分を傷付けることも少なそうだ。


「それにします」


 意外にも即決だった。


「いいのか?他のと見比べないで」


「ご主人様が選んでくださいましたので。

 それに片方がつるはしになっているのが気に入りました。

 鉱物の採集にも使えそうです」


 なるほどいかにも生産系ジョブらしい発想だ。

 俺には思い付かなかった。


「金とかも掘れるのか!」


「目を輝かせていらっしゃいますが、貴重な鉱物は表層大陸ではめったに見つからないそうです」


 露骨にがっかりした顔をしていたんだろうか、ケルシーに釘を差される。


「後でがっかりさせたくないので…。

 アルケミスト、錬金術師は金を作れるわけではございません」


「マジで!?」


「はい、科学や薬学など魔術とは別の方法で人に役立つ奇跡を起こす学問です。

 大昔には真面目に金や不老不死といった偉業に挑んでいたそうですが、現在は形骸化して名前しか残っていません」


 説明されてもいまいちピンとこなかったが、難しい言葉を使うケルシーは容姿と知的さのギャップがチャーミングだ。


「よく分からないけど学者ってことか?…どうりでケルシーは賢く見える訳だ」


「賢い…!?わたくし賢い…わたくし賢そうですか」


 内容に踏み込んだ話ができなかったので適当な感想を口にしたのだが、彼女はそれが嬉しかったらしい。

 言葉を反芻してとても満足げな表情だ。


「わたくし、お会計を済ませてきますね」

 

 ケルシーはスキップするような歩調でカウンターへ向かった。

 俺は先に店の外に出て待っていることにした。


 結局ほとんど俺のわがままで彼女は武器を新調することになってしまった。

 代金を割り勘できたら良かったんだが、財布の事情はお察しの通りだ。

 別に格好つける必要はないのだが、あまりにも締まらない。

 なにか別の埋め合わせを考えておこうと思った。

 

 壁に持たれてしばらく通りを歩く人を眺めていたが、ケルシーはなかなか店から出て来ない。

 会計だけにしてはやけに時間がかかりすぎだと思い、窓から様子を見る。

 店主が鞄の横に何か取り付けているのを、彼女はじっと待っている。

 まさか余計なものまで無理やり買わされたのかと憤り、俺は店に乗り込んでいこうとした。

 しかし、丁度のタイミングで彼女はぺこりと頭を下げて嬉しそうに店から出てきた。


「見てください。

 おまけしてくださいました」


 ケルシーは体だけ横を向けて鞄を見せてくる。

 そこには購入したメイスが綺麗に収まる革製のホルスターケースが装着されている。

 買えば銀貨10枚くらいしそうな、しっかりしたつくりのケースだ。

 彼女は鞄につけたメイスを自分で確認しようとして角度をいろいろ変えている。

 まるで自分の尻尾で遊ぼうとおしりを振っているリスのようだ。


 この店は何度か利用したことがあったが、おまけをつけてもらった経験なんてなかった。

 あの親父、客が可愛い女の子だからって贔屓しやがったな…。


「高級な革じゃないか、両手が空くのも便利そうだな」


「はい!これで手が繋げます」


 え?手をつなぎたいのか?

 手をつなぐだけなら片手で良い気もするが…。


「あ、いえっ…、例え…!例え話です!」


 彼女は顔を真赤にして突き出した手をぶんぶん振っている。

 相手が子供だとしても手を繋いで歩くのは恥ずかしかったので、俺はほっとした。


「と、とにかく行くか」


 動揺していたので声が上ずってしまったような気がする。


「ちょっとだけ待っていてもらってもいいでですか?」


 ケルシーは俺に断りを入れて通りの一角に駆けて行く。

 そこは建て替え中の工事現場で、なにやら責任者らしい大工と交渉している。

 話はすぐにまとまったようだ。

 銀貨を渡し、鞄から取り出した袋に土を分けて貰っていた。


「お待たせしました」


「何を買ってきたんだ?」


 開けて見せてくれた袋の中には白っぽい砂が入っている。


「念の為、分けてもらってきました。

 うふふ、わたくしは賢いので」


 賢いって言われたのがそんなに嬉しかったのか。

 スライムに目眩ましが聞くか分からないが、煙幕にでも使うようだ。

 あまり有効な作戦とは思えなかったが、備えるに越したことはない。


「他に準備がなければ、行くか」


「はい!」


 ケルシーは元気に返事をすると、その場でトントンと小さくジャンプするようにして鞄を背負い直した。





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