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もふもふな彼女と夏のひと皿

作者: 楠木千歳

「夏といったらト・マ・ト〜、トマトといったらパ・ス・タ〜」


 妙な節回しの歌を歌いながら、彼女は台所に立っている。

 鼻歌に合わせて、さらりと明るい茶色のショートヘアが揺れた。


「なにか手伝うことは?」

「ヒロくんは座ってて!」


 そうは言うが、手持ち無沙汰とは落ち着かないものだ。寂しい一人暮らし、普段はご飯を作ってもらうことなんてないわけで。


「二人でやったら早いよ? 切るのは俺が……」

「みゃっ」


 猫のような、はたまた犬のような悲鳴が彼女の口から転がり出た。

 狭い台所。まな板を取ろうとして、うっかり彼女の腕に触れてしまったせいだった。

 ぽむ。

 漫画のような間抜けな音がして、視界が煙に包まれる。


「だ、だから座っててって言ったの!」


 そこには涙目で頭上の『ケモミミ』とお尻の『しっぽ』を抑え込む、俺の幼馴染の姿があった。

 

 狐崎こざきみのりは、小学校の頃から家族ぐるみで付き合いのある、いわゆる幼馴染である。

 驚くと狐に変化する、という奇妙な彼女の秘密を知ってしまった俺は、一度距離を置かれたものの、つい最近大学で衝撃的な再会をしてしまい……今に至る。

 腐れ縁とは恐ろしいものだ。


「おお、久しぶりに見たソレ」

「見られないように努力してんの!」


 涙目で彼女はぱたぱたと頭を叩いた。だが髪の間からのぞくもふもふした耳は、そんなことで引っ込んだりしない。

 俺しかいないんだし気にするなよ、といったところで、頷く彼女ではないだろう。


「だいたい、私はこの間のお礼をするって事で料理を作りにきたの。ヒロくんが手伝ったら意味ないでしょ、はい座る!」


 強制的に席へ戻された。彼女の耳はまだピンと立ったままだ。


「分かったよ……それで、何作ってくれるの」

「トマトそうめん」


 パスタじゃないんかい。


 みのりの作る料理にハズレがない事はよく知っている。彼女は小さい時から料理が好きで、上手かった。だからこそ、「お礼になにか」と言われてつい手料理なんてものをリクエストしてしまったのだ。


 程なくして、ガラスの器へ涼しげに盛られたそうめんが目の前に現れた。

 見た目は白い麺の冷製パスタ、赤いスープはトマトの色だろう。オクラにズッキーニと見た目も鮮やかだ。


「いただきます」

「……どう?」


 見られながら食べるのは緊張する。スープをすくって、口へ運んだ。爽やかな酸味の中に濃厚なコクが広がっていく。


「美味いよ。とっても」


 ぱああ、と輝いたその瞳は、俺がよく知るあの頃のままだった。

狐は豊穣の神さまなので、みのりという名前はそこから。きっとその加護のお陰で料理が上手なんじゃないかな。

ヒロくんは私の知人の中で最もイケメンだと思っている人の名前です。

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