ギャルとオタク、空から落ちてくる女の子について話し合う
普段見ている何気ない景色も、視点を変えれば鮮やかに見えるものだ。
教室の自分の席から見える光景は、今しか見られない、とても特別なものだとオタクは感じていた。
夏の太陽の光は、青い空気の層を貫通して、カーテンによって柔らかな光に変わり、目の前の女性にそそがれる。
窓から吹いてくる風はとても涼しく感じるが、発汗作用を止める程ではない。
目の前の女性が身に着けるカッターシャツ、キャミソールを貫通して反射するブラジャーの光。それは目の網膜から、映像としてオタクの脳に映し出されていた。そう、下着が透けて見えているのだ。色は挑発的なピンク。いかにもギャルらしいチョイスだ。
――刻み込め、魂に。
オタクは神に感謝し、日本の幸福度ランキング上昇を肌で感じることが出来ていた。
「見すぎ、変態」
突然目の前のギャルに変態扱いされた。おかしい。オタクは抗議をあげる。
「証拠だ、証拠がないじゃないか!!」
ギャルは含み笑いを浮かべながら、
「いきなり、追い詰められたコナノの犯人みたいになっているのですが。もう認めたも同然ですね、変態」
「なぜ、俺が見ているとわかった?」
「これだよ」
ギャルの手の中には丸い手鏡が入っていた。スパイのごとく視線を向けずオタクの事を観察していたらしい。
オタクは頬に手を当ておかまのような振る舞いをして、
「でもね、お母さん思うの、そんなに透けてたらみんな見るから、隠した方がいいと思うの」
顔を少しだけ赤らめたギャルは、「いやー、透けるのはしょうがないよ」と恥ずかしそうに言った。
ギャルのその言葉でオタクも恥ずかしさが隠しきれなくなり、この話を終わらすための思考をめぐらしたが、特に思いつかない。二人の間に沈黙が流れる。
「……」
オタクは沈黙を破るため三日前に見たアニメの話題を提供することにした。
「ギャル君、アニメについて少し相談があるのだが、少しお時間よろしいだろうか?」
「私にわかる事なら相談に乗るけど、アニメの相談ってなんなわけ」
「俺が三日前に見たアニメ、まあ金曜ロードショウなのだが」
「あーっ、それなら私も見たよ、天空の城ラポタだよね、面白かったね」
「ふむ、名作であることは避けては通れない事実だが、今はそこではない」
「チーズとか、パンとか、目玉焼きとか、おいしそうだよね、普通の料理なのに……なんでなんだろう?」
「うむ、ジブロ作品の飯が美味そうなのは避けて通れない事実だが、今はそこではない」
「オタクがゴミのようだ」
「人間な……なんで俺に変えるのひどい!!」
「ごめんごめん、言いたかっただけ」
ケラケラと笑うギャルを見て満足しそうになったが、オタクが喋りたいことは喋れていないので、一種のむず痒さがあった。
しかしこの痒さすら心地よく感じてしまうのは、ギャルの事を好きだと脳が教えてくれているのかも知れない。
「話を戻すが、良いかなギャル君」
「おお、相談だったな、何だ?」
ギャルは、本格的に相談に乗る気になったようで、少し身を乗り出すように聞き耳を立ててくれている。
窓からカーテンを軽く揺らして入ってくる風が、ギャルの近くの空気を運んできたようで、少し人工的で甘く柔らかい匂いがした。
「序盤で、ゆっくり女の子が落ちてくるだろう」
「あのシーン素敵だよね、私好きだよ」
「俺も結構好きでね、最近のアニメにすごい多いの、空から落ちてくる女の子」
「へぇー、多いんだ」
「セキ◯イとか、エウ◯カとか、ト◯ブルとか」
「細かい事は、わかんないけどそれで?」
真剣な表情ピリピリした空気、オタクは言葉を紡ぐ。
「人間の想像出来る範囲の事は起こる可能性が必ずある」
「まあ、絶対なんて無いって言うからな」
「つまり、俺にも女の子が降ってくる可能性があるわけだ」
「まあ、否定すると、めんどくさそうだし、続きをどうぞ」
普通の女子は、変態とか、あり得ないとか言う場面だったろう。しかしギャルは、オタクの事を理解していて、話したい本質はまだ先にあるとわかっているから、続きを促してくれる。なんと気持ちよく喋らせてくれる女性なのだろうか。
オタクは感謝を込めて続きを話す。
「だから、女の子が落ちてきた場合を想定して練習したい」
「私に、空から落ちてきた女の子役をしろと?」
「おなしゃす!!」
「野球部みたいな、お願いすな」
「一生に一度のお願い」
「ここで使っていいの?」
「お願い×千」
「小学生か!」
「してくれるなら、お金あげちゃうよ~」
「悪いおじさんか、キモいからやめろ」
「君にとっても悪くない話だと思うけどねぇ~」
「おじさんの真似を続けんじゃねぇ!!」
「ダメですか?」
悲しげに言葉を、オタクは投げ掛けてみる。
ギャルは突っ込むのをやめて、「別にダメとは言ってないよ。降ってきた女の子役りょーかい」と快く了承してくれた。




