ギャルとオタク、ショッピングに行く 参
買い物を終えて、帰り道を二人で歩く。
辺りは少し暗くなり、体を撫でる風は蒸し暑く、
夏特有である、土の臭いがオタクの鼻孔をくすぐった。
「あんなクサいことやって、帰り道も同じっていと言う、気恥ずかしさってないね」
オタクは回想しながら話す。
ギャルはケラケラ笑いながら、
「オタクのせいでこうなってるんだろうが、責任とって何か面白いこと言えよ」
「出ましたよ、陽キャ特有の無茶振り、その、無茶振りに対応できる人間いねーよ」
「オタクなら出来ると思ってたのにな、君には失望したよ」
「期待が重すぎて辛いんだか」
「じゃあ、話題を何か出せよ」
「んー!!、疑問がある!! 質問しても良いだろうか」
「良いぞ」
「ちょっと変な話だけど、よろしいか?」
「オタクが変な話、しないときが無いけどな」
「では、質問させて頂きとうございます」
「喋り方考えなよ」
「女の子のパンツは何でブリーフばかりなんでしょうか?」
「んー、オタクは何でそこに着目したんだ?」
「男は基本的に、トランクスとボクサーパンツの二強なんだよね」
「まあ、そうだな」
「トランクスで、開放的なゆったりが好きか、ボクサーの締め付けが好きかで、別れているんだ」
「なるほどね」
「女の子だけブリーフタイプ多くない?」
「基本そうだな」
「何でなの? 男を興奮させるためなの?」
「別にそのような訳ではないだろうけど、お洒落じゃん」
「やはり、お洒落に行き着くんですか」
「そうだよ」
「三角のどこがお洒落なんだよ、誰が決めたんだよ」
「そりゃー、どこかのお洒落番長か、ファッション業界のトップだよ」
「二番目が現実的で嫌なんだが」
「世の中そんなもんだよ」
「偉いやつが市民の思考、あまつさえ着る服まで決めていると、君はそう言うのかね」
「ああ、そうさ、バレンタインとかも企業戦略、パンティーが三角のも企業戦略さ」
ギャルは夢のないことをつらつらと並べ立てる。
オタクは、無論オタクであるからして、ファンタジックな夢想家である部分が強く、リアリスト的なギャルの言葉は論理的だとわかっていても否定したい気持ちが強かった。
しかし非の打ち所がまるでないその論理に否定する部分など見つからず、悲しみの表情を浮かべた。
オタクを見つめるギャルは、あまりにも悲しそうな表情をするオタクを励ましたい気持ちにかられた。
パンツにそこまで何の情熱を持って熱弁しているのか意図は掴めないが、オタクが何をすれば喜ぶのか、それは自分の女の直感が告げていた。
「私が何のパンツはいてるか見たい?」
「はぁ、何いってんだよ、見たいに決まってんだろ」
このオタクは自分のやりたいこと、好きと言う気持ちを隠そうとしない。それはとっても純粋で童心的だとギャルは思う。
しかし、大人になるにつれて好きだと心から本心で言える人間は非常に少ない。
前に一度オタクに聞いたことがある。なぜ自分がオタクであることを隠さないのか?
オタクはこう答えた。
「自分が好きである事実を隠すことは好きなものに対する冒涜である。俺は叫び続ける。好きなものは好きだと叫び続ける」
その強い眼差しにギャルは吸い込まれるような、凄まじい吸引力を感じた。
今ここでオタクは、「パンツが見たいと」その吸引力を秘めた眼差しでギャルに言葉の弾丸を放つ。
内容は最低だが、吸い込まれそうになる事実を否定できない。
――何で私、こんなやつ好きなんだろ……
そう考えながら、親指で力を貯めた中指を、オタクの頭をめがけて弾いた。
「いつか、見してやるかもな」
そう早口で言って、帰り道を駆け出す。
オタクはギャルを追いかけながら、「どういう意味?」と連呼し続けていた。