混沌のワルツ⑩
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薪を運び大きな焚き火を起こした俺は、バヴェルとふたり、並んで上着を絞っていた。
じゃばーっと滴る水が、地面にどんどん吸い込まれていく。
ほんと、ウイングはこういうときに容赦ないんだよなぁ。
結果として、俺もバヴェルもすっかり頭が冷えたわけだけど。
横目でバヴェルを見ると目が合って、ばつが悪そうな顔をする。
俺はそこで、バヴェルにデューのことを話すことに決めた。
新しく研究員になるべく、来てくれたこと。
広報として活動してもらうはずだったこと。
街道の魔物を討伐したけれど……いま、大臣の命令で牢屋に入れられてしまったこと。
「確かに、ジェスタニア王国籍がないのなら問題だな」
バヴェルはそう言ったあとで、言いにくそうに小声で付け足した。
「けど……しっくりはこないな。どこの奴かは知らないけど……敵だったとして、そんなに簡単にバレるような侵入をするとも思えない」
俺はそれに苦笑して、頷いた。
「だと思う。なにかが変だ。デューはそれをはっきりさせるために、牢の中で待っててくれてる。……本当なら、ここの討伐が終わってからすぐに戻って会いたかったけど……いまはランドワールの誠意に応えるべきだと思った」
バヴェルはすぐには応えなかった。
少しの沈黙があって、彼はその茶色い目を俺に向ける。
「俺は隊長を守れなかったという意味で言ったが、お前は……その雷使いを守れなかったことを思ったんだな」
「……ん、まぁ……半分はな。バヴェルの言った意味もちゃんと理解はしてたんだけど……デューに会いたいと思ったのもあって」
口にすると、バヴェルはゴホンと咳払いをした。
「……こ、婚約者が、王都にいるんだ。……彼女は俺を待つと言ってくれるけど……本当は心配だし寂しいのだと泣かれたことがあって」
俺は突然の話にギョッとしたけど、なんとか頷くことに成功する。
なんだってそんな話を始めたのか、さっぱりわからなかった。
「……大切な人が不安な時間は、短いほうがいい。……隊長の怪我は俺の責任だ。だから……」
「――いや、デューのそばに研究員をひとり付けてあるから心配ない。バヴェルが気に病むことはなにひとつないよ」
気遣われたんだと理解して俺は首を振ったけど、バヴェルは引き下がらなかった。
「馬鹿を言うな。そんな呑気な考えでは、誰かに盗られるぞ」
「は、はあ!? と、盗られ……!?」
言葉がそれ以上なにひとつ出てこなかったので、俺は口籠もって考える。
いやいやいや。盗られるってなんだよ。
そもそもデューは、ええと……そう、大切だけど、そういうんじゃ……!
口をぱくぱくしていると、バヴェルは呆れた顔をした。
「無自覚だったのか。お前がどんな顔してその雷使いの話をしていたか、逐一説明してやろうか?」
「なっ……!?」
「ただの惚気にしか聞こえなかったぞ。仲間という以上に」
「――ッ」
待て待て待て。
俺は腕を組み、うーっと唸った。
ぐるぐると過ぎるデューの表情や、触れたときの温かさに……もっとそばにいたいと思って……いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。
混乱していると、バヴェルが……初めて笑った。
「……ただの人、か」
「ん、うん?」
「いや、変わらないんだな……魔法を使う奴らも」
「変わらないさ! だから、魔法の有無だけで差別的な扱いを受けている人たちを見過ごすことはできない。だから彼女を置いたままであっても、こうやって……」
俺は応えてから、尻つぼみになって言葉を切った。
デューのためでもあると……そんなことを言うつもりでいた自分に、驚いたのもある。
一生懸命に魔法を制御しようとしていた彼女のひたむきさは、確かに、俺に力を与えてくれた。
彼女が取り乱して泣いたときは、なんとかしたくて……抱き締めることで慰めになるならと……そう言ったけど。
あれは……俺がそうしたかったんだ。
「――バヴェル」
「なんだ」
「俺、デューの顔、見られないかもしれない……」
「ははっ、嫌でも見たくなるさ。三権者のくせに情けない奴だなお前」
……こんな気持ちになったことなんて……と思いながら、ふと……ティルファのことが頭を過ぎった。
こっそり投稿。
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