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仲間と監視者と新参者のコンツェルト②

******


「研究所の研究員は俺を含めて5人だ。メッシュは会ったからあと3人だな。所内の案内がてら紹介するよ」


「所長さん、あの、5人だけでこの敷地を使ってるんですか?」


 驚いて聞き返す。


 ここは王都から海を渡った孤島で、メッシュと空から見たところ、かなりの広さだった。


 この建物にしても5人では持て余すだろうし、さらには別に医務棟だってあったはずだ。


 そう、屋上が謎の森になっていた建物である。


「いや、他にも働いてもらってる人はいるよ。でも……そうだな。そんなに多くはないってのが本当のところ。……それだけ、魔法研究ってのは忌み嫌われて――ごほん。いまはやめとこうか! やだよな、こういう話って」


 所長さんが、戯けるように肩を竦めてみせる。話題に気を遣ってくれているのがわかった。


 そうだよね。魔法が使える人たちが差別されていることを、知らないわけがないけど……気持ちのいい話じゃないもの。


「所長さん、いい人ですね」

 私が笑って応えると、彼は驚いたように目をぱちぱちさせた。


「あー、えっとさ。その、所長さんってやめないか? 見たところ俺とそんなかわらないんじゃないかな、歳」


「えっ、ああ、ええと……私は22です、今年」

「ほらな! 俺と同い年。ってことで、ルークスでいいよ、デュー。敬語もいらない」

「……!」


 あ、ルークスって。うわあ、なんかちょっと仲良くなれた気がする!

 私はなんだか嬉しくなって、頷いた。


「えっと、それじゃあ……ルークス?」

「ぅえっ? あ、は、はい」

「ちょ、なんで驚くの? 私が困るんだけど……」


 いきなりそわそわする彼に思わず突っ込むと、ルークスは頬をかきながら視線を逸らした。


「いや、あれ……? 呼ばれ慣れてないわけじゃないんだけど……そういえば歳の近い女の子に呼ばれたことなくて。新鮮? っていうのかな……よ、よし。もう大丈夫!」


 さあこい! とでも言いたげな彼に、私は笑ってしまった。


「そういうものなんだ……じゃあ、ルークス」

「……は、はいっ」

「ちょっと! 2回目だけど!?」

「うわ、あれ? お、おかしいな……」


「……昼間から何をやっている」


「ひゃあ!?」


 突然の声は後ろからだった。


 私が変な声をあげて飛び退くと、後ろにいたその人は露骨に眉を寄せた。


 ルークスは私より頭ひとつ分くらい大きいけど、この人は目線にルークスの頭のてっぺんがくるほどの身長がある。


 体つきもルークスよりがっしりしていて、腰には長剣を提げていた。赤と白を基調とした服に白いマントは、間違いなく騎士の正装だ。


「……ルークス。どこで拾ってきた?」

「拾っ……?」


――じろり。


 言いかける私にその人の視線が突き刺さる。

 琥珀色の髪は短く整えられていて、同じ色の瞳は容赦なく私を観察していた。


 心臓が緊張でどきどきと鼓動を早め、かと言って目を反らすことを許されない雰囲気。

 私は、その騎士の視線を真っ向から受け止める。


「拾ってきたんじゃないよ、言い方を考えてくれるかアスト。彼女はデュー、今日から同じ研究員だ」


 その雰囲気を変えてくれたのは、ルークスだった。


「研究員? ……まさか、あのふざけた貼り紙で来たのか?」


 急に瞳から鋭さが薄れ、馬鹿にしたような、呆れたような声でアストと呼ばれた騎士が答え……あれ、同じ研究員?


「き、騎士様……も、研究員なのですか? というか、別に三食昼寝付きにつられたわけじゃないですが……」


 思わず声にすると、ルークスが笑った。


「ちょうど紹介しようとしてたんだ。アスト、自己紹介を頼む!」


 気さくな感じでルークスが言うと、アストは腕を組み、私を見下ろす形で頷いた。


「俺はアスト。王立騎士団から、表面上は派遣されてきている。……週に一度は騎士団本部へと戻る、簡単に言えば監視役だ」

「監視役……?」


 ためらいのない言葉。けれど、先程のとげとげしさはなく、むしろただ本当のことを述べただけ、という雰囲気。


 ……この人はこういう性格なんだろうな。


 勝手に納得しておくことにする。


「アスト……さんは、その、魔法は……?」

「俺は魔法は使えない」

「……」


 ええ、つ、使えないの?


 私が言葉を紡げないでいると、見守っていたルークスが、見かねたのか割って入った。


「ここは剣の国だからな。魔法だけで対処出来ないこともあるかもしれない。そんな時のアストってわけ。ちなみに……そうだな、監視役とは言ってるけど、名ばかりだから気にしなくていいよ」

「名ばかり?」


 首を傾げると、アストはふんと鼻先で笑った。


「騎士にも色々な道がある。興味があるなら聞きに来い。……俺は行くぞルークス」

「ああ。ありがとな!」


 すっと私の横を通り越してから、アストさんはふと立ち止まった。


「ここの所員である以上、俺とお前は対等だ。アストでいい。……お前の魔法は何だ?」


 突然の言葉に驚いて、私はうわずった声でたったひと言だけ答えた。


「雷……」


 ぴくり、とアストの右眉が跳ねる。

 彼は瞬時にもとの表情に戻ると、そうか、と言って今度こそ立ち去った。


 まるでルークスの時みたい。私は雷使いである自分に、一抹の不安を覚えた。


「大丈夫、あいつあんな雰囲気だけど、ちゃんと頼りになるからな」


 ルークスはどう思ったのかそう言って笑った。思わず、ルークスに歩み寄る。


「あの……か、雷使いって……何か問題があるの?」

「あ……いや、珍しいからさ、雷使いって。――さ、次行くぞ!」


 ……完全に、わざと、流された。

 私は肩を落とし、ルークスの後ろに付いて行った。


明日は22時頃です。

感じる年末感……ひきこもる準備をします。

よろしくお願いします!


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