混沌のワルツ⑧
日付変わっちゃいましたが28分です!
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「おい、おっさん……大丈夫か?」
ところが、ランスの声が聞こえて、俺は思わず手を止める。
「……面目ない。傷が、開いたようでな……」
「は? 傷?」
振り返った先には、膝を折ったランドワールの姿。
そして、寄り添うハームとランス。
「隊長、傷なんて……いったいいつ……」
ハームも混乱しているようだ。
「どうした……?」
訳がわからず、俺は魔力収集を諦めてランドワールに駆け寄った。
かなりの量の脂汗が額に浮かび、唇が真っ青になっている。
……悪い状況だってことはすぐにわかった。
騎士団の団服は丈夫な布にさらに細い金属を編み込んだものだ。
しかし、ランスがそのマントをばさりと捲った瞬間に、息を呑む。
背中に、じわりと血が滲んでいる。
「た、隊長は……昨日の討伐で、背中に深い傷を負って……」
震える声で答えを吐き出したのは、バヴェル。
「昨日の討伐?」
おもわず聞き返すと、バヴェルは小刻みに数回頷いてみせる。
「俺を庇って、剣の岩に背中から……大丈夫だって言ってたけど……深い、傷で……」
「なっ……おい! そんな大事なことなんで早く言わねぇんだよ!」
ランスが目を見開き、バヴェルに詰め寄ろうと立ち上がりかけたのを、ランドワールが止めた。
「すまん、私が言うなと……言えば騎士をクビにすると脅したのだ……」
「おいおいおい! 揃いも揃ってお前ら馬鹿じゃねぇの!? くそっ……」
ランスは俺を振り返り、俺はすぐさま頷いた。
ピィーー!
甲高い音でランスが鳴らした指笛に、ほんの数秒、瞬き数回の時間で、巨大な影が俺たちを覆う。
ばさりばさりと羽ばたくその影は、ランスの黒い翼竜だった。
「な、なん……っ!」
シルガがひっくり返りそうになるが、構っている余裕はない。
「おっさん、痛むけど我慢しろよ! 俺の翼竜が一番速いからな……!」
ランスはランドワールの腕の下に体をねじ込むようにして背負うと、呻くランドワールを無視して風の魔法を足下に集中させた。
「この魔法っ……ひとりでしかやったことねぇから、歯ぁ食い縛れよおっさんっ……いくぞ!」
ブゥォオオンッ!
低い音とともに、目を開けていられないほどの空気の濁流が巻き起こる。
俺は隣にいたバヴェルの頭を押さえてともに身を低くし、体を吹き飛ばすかのような爆風をやりすごした。
「おっさんは任せろ!」
ランスの頼もしい一言が風に乗って響き、目を開けられるようになったときには……彼らはどこにも見当たらない。
空は青く、なにもなかったかのような静けさが戻ってきて、俺はようやくしっかりと立ち上がった。
ランスの翼竜なら、なんとかなる。
王都まで行けば、治癒魔法が使える人がいるのはわかっていた。
それまでランドワールが耐えてくれることを祈るしかない。
「……説明は戻りながら受けますわ。……ほらルークス。これで全部ですわよ」
騎士たちと一緒になって空を見上げ、考えに耽っていた俺を、冷静なウイングの声が引き戻す。
見ると、彼女は鉱石すべてにしっかりと魔力を込めてくれていた。
「……してあげられることがないなら、自分にやれることをやっておくものですのよ。あとはランスに任せるしかありませんわ、ルークス」
「……ああ。そうだな。ごめんウイング……よし、ハーム、シルガ、それとバヴェル。陣に戻ろう。ランドワール隊長は治療次第戻ってくる。……待とう」
デューのところに行くのは、遅くなってしまうかもしれない。
けれど、このまま放っておくわけにもいかず、俺はそう告げた。
騎士たちは皆沈んだ面持ちのまま、のろのろと歩き出す。
ランドワールはきっと大丈夫。
俺は彼らの背中を見ながら、そう祈った。




