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混沌のワルツ⑤


「……」


 バヴェルはランスを見ようともしない。

 ハームとシルガに至っては、むしろねめつけるような嫌悪感をこれでもかというほどに重ねた冷たい目だったりする。


 三人ともこの国ではよく見かける茶色い髪に同じ色の目をしていたが、魔法を使う者に対する敵意が全身からありありと滲んでいた。


「……なあおっさん、騎士団には敬意という言葉はないのか?」


 ランスが、騎士たちの態度を隊長であるランドワールの言葉を文字って茶化すと、聞き捨てならなかったのか、ハームがずいっと前に出てきた。


 うん、背も高いな……アストくらいありそうだ。

 そのうえ筋肉質なのだから、団服なんてかなりパッツパツである。


 短く刈った髪は真面目の表れか。


「隊長に向かって、その口の利き方はなんだ」


「おっ? その隊長さんがうちの三権者に向けて同じように言ったことを、そのまま返してるだけだぜー?」


 しかしそんなことでランスが引くわけもなく。

 むしろ、ハームを見上げながら飄々と笑っている。


 彼はその様子に一瞬たじろいだようだ。

 騎士でランスみたいに食ってかかってくるような奴、いないと思うしな。


「……ふん、躾のなっていない犬はよく吠える」

 それでも再び言葉を発するハーム。


 なかなか骨があるけど……大丈夫か? 犬って……ずいぶんなこと言ってくれるな。

 無意識でもそうでなくでも、魔法を使えるからといって差別するその態度は、国民を守る立場にはあるまじきものである。


 俺が言ってもいいものか……火に油を注ぐことにもなりかねないしなぁ。


 そこに助け船を出してくれたのは、なんとランドワールだった。


「ハーム。確かに私が王立魔法研究所所長に言った言葉だ。彼――ランスの態度は私のせいでもある。しかも犬に例えるなど……騎士団にはそぐわない言動だろう。……が、ランス。貴殿も、おっさんは止めろ」


 あ、おっさんは駄目なんだな!


 思わず笑うと、今度は小柄な……そうだな、メッシュといい勝負かもしれないシルガが、鋭い眼光を放った。

 長めの前髪を左から右に流していて、右目が少し隠れて見える。それ以外は頭の後方に向けて流してあって、きっちりと固めてあるようだ。


「……隊長、このような奴らの力を借りるなどせずとも」


「はぁ。隊長さんはわかってらっしゃるようですわね。……そこの騎士さんも、そんなに刺々しい空気を纏わないでほしいのですわ? 言っておきますけれど、これはこの国を守るために早急に行わなくてはならない討伐。罵り合っている場合ではないでしょう」


 今度はそこに、ウイングが割って入る。

 太陽のような金の髪がさらりと払われると、シルガがうっと言葉を詰まらせた。


 けれど、次に発せられたのは予想の斜め上の台詞。

「……隊長。この美しいお方は」


「ぶふっ、う、美しい?」

 噴き出したのは勿論ランスだけど、綺麗さっぱり無視される。

 いや、俺も驚いたけどな!


「む。彼女は……」

 ランドワールが困ったように俺を見たので、大丈夫だと頷いた。

 こういうのは、ウイングの得意分野だからな。


「私は王立魔法研究所の研究員、ウイングと申しますわ。水の魔法を使いますの。この国のために、真水を供給する仕組みを研究させていただいておりますわ」


 貴族のような……まぁ実は貴族なんだけど……ウイングは文句なしの華麗な動作で、礼をしてみせる。


 シルガは、貶んだような雰囲気をしゅーっとしぼませ、一転してきりりとした表情でその礼に応えた。


「このような美しい方がいらっしゃるとは。……しかも、真水の供給? この国の水瓶事情をお察しか!」

「シルガさんとおっしゃいましたか? あなたもこの現状を憂いておられるのですわね?」


 シルガに応えながら、ウイングが横目でさっさと出発するよう促してくる。


 俺は、なんだかんだうまくいきそうな気がして、思わず頷いた。


 ハームとバヴェルは、まだむすっとしていたけどな。


 そのころには、遠巻きに見ていた休憩中の騎士たちも、なんだかゆるい空気に変わっていた。


******


 険しいというか鋭い山道に出て、俺とランス、ウイングと、ランドワール以下四人の騎士合計七人で「八面体の魔物」へと進路をとる。


 魔物までは、このまま曲がりくねりながらの一本道とのこと。


 小柄な騎士のシルガは、すっかりウイングとの会話? を楽しんでいて、ランスはハームを標的と決めたようで、笑顔の罵り合いを飽きもせず続けている。

 ハームって騎士も、かまわなけりゃいいのに、いちいち反論してくれているようだ。


「あれ大丈夫かな?」と俺が聞くと、ランドワールは大真面目に頷いた。


「ハーム本人、あそこまで反論してくる部下はいなかった。世話の焼ける者を育てる器には経験も必要だろう」

「あぁ、うん……」


 そういうもの……かもしれない。


 そのあいだ、俺はランドワールと話をすることに決めて、拠り所がないので仕方なく近くにいるのであろうバヴェルにも聞こえるように、現状の説明を行った。


 各地の魔物の状況、紅く明滅したあとに現れた黒い靄の魔物。

 新人の騎士たちが犠牲になったこと、王立魔法研究所が指揮権をもらったこと。


 とりあえず、幸か不幸かここでは黒い靄の魔物は確認されていなかった。

 なにか条件があるのかはわからないが、警戒はしておこうと伝えておく。


 それから、と。俺は続けて言葉を紡いだ。


「隊長。貴殿に聞きたいことがあるんだけど」

「む、なんだ」

「どうして魔法差別をしているのか、考えたことはあるか?」


 途端に、ランドワールの例の皺が、ぎゅーっと深くなる。


「……う、む……」

「どうやら貴殿は苦労もしてきているみたいだし、こんな若造の話も聞いてくれる、隊長の器だ。だから知りたい。……そういうものだって思い込んできてたんじゃないのかな? 確かに魔法って得体が知れないから、不安にもなるだろう。でもほかの国では身近になりつつあるってのに、魔法を知らずにいる騎士たちを不安に思わないのか?」


「王立魔法研究所所長。炭に火を付けるのは慣れていても時間がかかるもの。それを一瞬でやってしまえる力を、不安に思わないわけがない」


「うわ、ここでそれ言うのか。はは、まいった。ならこうしよう。俺たちが協力して討伐がうまくいったら、今度、俺の魔法で沸かしたお茶を振る舞う。貴殿は、それを部下の前で最初に飲んでくれないか」


「最初に?」


「うん。体の疲労回復に効果があるお茶があるんだ。気持ちも落ち着くし、次への元気が出る。貴殿が飲んで部下が飲まないわけにいかないだろ!」


「む……」


 ランドワールは渋い顔をしたあとで、仕方ないとばかりに肩を落とした。


「断りたいところだが、内容を聞いて断れるほど子供ではないのでな」


 その間、バヴェルは小さく鼻を鳴らしただけだった。



本日分を早めに投稿します~!


また、逆鱗のハルト②がとうとう来週発売です!

Amazonなんかでも購入できるみたいなので、よろしければぜひお手にとってくださるとうれしいです!


それでは宣伝失礼しました、よろしくお願いします!

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