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混沌のワルツ④

 ランドワールの後ろについて、大声を上げた騎士の横を通る。


 俺が顔を見ようと目を合わせると、気まずかったのか、実に渋い顔をして視線を逸らされた。


 まだ若い騎士だってのに、魔法差別にはすっかり毒されているんだろうなぁ……。


「よお、あんた! さっきは素敵なご挨拶をありが……だっ、いでで!」


 早速絡みにいくランスのバンダナを、ウイングが掴んでそのまま歩いていく。


 ――騎士たちの陣は、簡易テントもいくつか張られ、思いのほかしっかりとした作りになっていた。


 昼時なのもあって、大鍋の置かれた調理場らしきところから、いい匂いが漂ってくる。

 即席のかまどには小さな火が揺れて、金属の串に幾重にも分厚い肉を刺したものがずらりと並んでいる。


 すごい数だな。……こんな場所で、あれだけ贅沢な肉をよくもまぁ。


 それにしても、見張り以外の騎士たちは休憩中なのだろうか。


 団服を着ていない姿が目立っているのが少し気に掛かって、俺は立ち止まってぐるりと見渡した。


 彼らは俺たちを見て、なにやらひそひそと話し合っている。

 ……残念なことに、それはいつものことなんだけど……。


「……ずいぶん呑気だな」


 ランスが思わずといった感じでこぼしたのに、俺も頷く。


 彼らにはやる気も緊張感も見えない。


 ちら、とこちらを見たランドワールは、唸るように言った。


「昨日も、討伐に出たのだ。……しかし……」

「はーん。失敗して戻ってきたってことか。それにしたってくつろぎすぎだろ……おっさん……犠牲のこと知らねぇとはいえ……」


 言いかけたランスに右の掌を向けて制し、俺はランドワールに向き直った。


 なるほど、それであの肉か。


「貴殿は動けるんだな? ――あと三人見繕ってくれ。出発する」


「いますぐにか?」


 ぎょっとしたように目を見開いたランドワールに、俺は大きく……それこそ大袈裟に見えるように頷いた。


「……これ以上、士気を下げるわけにはいかないよな。貴殿が頭を悩ませた結果、今日はあんな贅沢な肉なんじゃないのか? ひと仕事してからの肉は美味いし、丁度いい気がするけど」


「む……う。……わかった、五分くれ」


 すぐさま動き出したランドワール。

 俺はそれを見送って、調理場へと向かった。


「おい、ルークス?」

「どこに行きますの?」

 ウイングとランスが慌てて着いてくる。


「なあ、薪あるか?」


 俺はふたりを無視して、かまどの傍にいた騎士ふたりに声をかけた。

 騎士たちは慌てて周りをきょろきょろし、自分たちへの言葉だと理解すると、明らかに困惑して身じろいだ。


「……もう。突然すぎますわ。……失礼いたしましたわ。よろしければ、薪の場所を教えていただけますかしら?」


 ウイングはそんな騎士たちの前で、腰に片手を当て、優雅に微笑んでみせた。


 ランスがめちゃくちゃ嫌な顔をしているけど、うん。わかる。


「あ、そ、そこに」


 思わず鼻の下を伸ばした騎士の呟きに、ウイングは満足そうに頷いてから、指差された先の小さなテントを見た。


 ひとり用のものを薪置きにしているようだ。


「あら、こんな近くでしたのね。……ランス」

「はっ? 俺が運ぶのかよ」

「お願いしますわ」

「……」


 ランスは諦めたのか、無言でテントから薪をひと束持ってくる。

 解せぬ、という顔をしていたが、面白かったので放っておくことにした。


「あれ、これ薪じゃなく炭か? よし……じゃあ」

 俺はランスが運び出してきたものが真っ黒に艶めく炭だとわかって、しめしめと唇を湿らせる。


 それをかまどにいくつか放り込み、手を翳して……。


 ボッ!


 噴き出した炎は、あっという間に炭に火を付けた。


「……ッ!」


 騎士たちが身を固くするのが感じられ、顔を上げた俺は……。


「いや、なんでお前たちも固まってるんだよ」


 ウイングとランスに突っ込む。


「だっ、まさか、いきなり魔法使うとかさぁ、お前さぁ!」

「そ、そうですわ。ほら、騎士たちが驚いていますわ……!?」


「いや、でもせっかくの肉だし。そっちの騎士だって、美味しい状態で食べたいだろ? なあ?」


 声をかけると、ふたりの騎士がやめてくれとばかりに後退る。


 まあ当然の反応だろうけど、討伐に連れていけるのは少数だ。

 魔法を実際に見せて、感じてもらうこと――それは必要なことだと思った。


 あと、肉が旨いほうがいいに決まってる。


 そこに、テントの向こうからランドワールが戻ってきた。


「…………」

 彼は状況を察したのか、眉間の例の皺をぎゅーっと深くしたあと、右手の人差し指と親指でぐにぐにした。


「連れてきた。ハーム、シルガ、バヴェルだ」


 全てを見なかったことにしたランドワールの後ろには、三人の男性騎士。


 ひとりは大きな筋肉質の年長者であろう男性、ハーム。

 ひとりは小柄だけど鋭い眼光の三十代そこそこに見える男性、シルガ。


 最後は……。


「おっ、縁があるな騎士様!」

 ランスがにやにやする。


 そう、見張りをしていた若い騎士……バヴェルだった。


デューのことを出したいのになかなか出てこないルークス編になっています……

しかしここからです、よろしくお願いします!

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