混沌のワルツ①
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騎士団長であり、俺の幼馴染みでもあるフリューゲルと、魔物の位置や騎士団の展開状況を確認して、俺は王立魔法研究所へと戻った。
ウイングとランスにデューの状況や、アスト、メッシュへの指示内容を報告し、自分たちは魔物討伐に出ることを告げる。
庭園に移動し、これから翼竜に乗るところで……ランスが不機嫌そうに言った。
「それで? 俺は騎士様に花を持たせて、とどめを刺させてやればいいって?」
俺は何度目かのため息をつく。
「そうだ。……いまことを荒立てたくない。悪いけど我慢してくれ」
「なら、それこそ俺たちでちゃちゃっと片付けちまえばいいのに」
ますます不機嫌になったランスは、右の掌の上につむじ風を起こしながら口を尖らせた。
「仕方ないのですわ。今回指揮を執るのは私たち、王立魔法研究所ですのよ? うまくやってとどめを譲れば、騎士団だって多少は溜飲を下げるでしょうし」
ウイングが肩を竦めて、ランスを窘めてくれる。
俺は助け船に感謝しながら、頷いた。
「ああ。ただし、黒い靄が出た場合は別。被害を出さないよう、全力で当たってくれてかまわない」
「……ちぇ。指揮権があっても、結局こんなかよ。デューだって、牢屋ん中だぞ? それこそ、早く行って少しでも相手してやればさぁ……」
「……それは……」
ランスの言葉は、俺の反論を呑み込ませるには十分だった。
それがわかっているからこそ、どうしても騎士団の反感を買いたくないのに……デューが心細い思いをしているかと思うと、自分が情けない。
……それでも笑ってくれたデューに、心臓がぎゅっと掴まれたかのような気持ちになる。
「――ランス。私も、やきもきしていますわ。でも、騎士団の印象が悪くなってしまったら、デューを長く牢屋に居させることになるかもしれませんのよ?」
「……それは、わかってるけど」
「ルークスも、しゃんとなさい? デューのそばにはメッシュがいますわ。ご両親のもとへは、アストが同行しているのでしょう? ……私たちには私たちのやれることをやるしかありませんのよ?」
ウイングは長い金の髪をさらりと靡かせて、ぱんぱん、と手を叩く。
俺は彼女の言葉に、ランスと顔を見合わせて、ぐっと手を握った。
「ああ。……ランス、頼む」
「ふん。そこまで言われちゃ仕方ねぇよな。……ただ、聞かせろルークス。これは『大臣の策略』じゃねぇのか?」
ランスは腕を組み、面白くなさそうに言う。
それは、昨日デューとも話した内容だ。
俺は昨日と同じように、ランスに告げた。
「……ないと思ってる。大臣は俺たちみたいな魔法を使う奴らが嫌いだ。明らかに魔法が関わってる魔物だって毛嫌いしてるはず。それを狩らなきゃならないのに、わざわざそんなことするとも思えなくてさ」
「ふーん、そんなもんか」
「……なんだ、噛み付かれるかと思ったのに」
肩透かしをくらったような気持ちになって思わず言うと、ランスが顔をしかめる。
「なんだよそれ。……まあ、今回の魔物、お前にとっちゃ因縁感じても当然だろ? なら、もっと別の理由があるかもしれねぇし――大臣のことは嫌いだけどな!」
「あら、ランスにしてはいい判断ですわ。……この魔物が、隣国の策略なのかどうか……そちらのほうを懸念すべきですわね」
ウイングが微笑むと、ランスは鼻を鳴らして、待機している黒い翼竜のほうへと歩き出した。
「どうせ、それも調べるつもりなんだろ? ルークス」
俺はその台詞に苦笑して、目の前の紅蓮の翼竜を見上げた。
「そうなるな!」
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今日は王都から翼竜で三時間ほどの距離にある、山を越える街道での討伐を行うと決めていた。
――目的の山は、『剣豪の墓』と呼ばれている。
これは剣豪が命を落としたわけではなく、いくつも突き立つ岩がまるで刃のようで、それが剣と墓を思い起こさせたからだ。
白と黒の岩は、実際触れると肌がすぱりと切れることもあるそうで、街道沿いであっても注意が必要なほどらしい。
その山肌に突き立つ剣を避けながら、這うように作られた街道に、魔物がいることがわかっている。
勿論、討伐のために騎士が派遣されたのだが、足場が悪く、苦戦しているらしい。
だから加勢するんだけど、正直、ここなら夜までに王都に帰れるってのもありがたかった。
俺は、翼竜を旋回させながら、街道を確認する。
ほどなくして、人影を確認。
騎士たちは、山の中腹に陣を敷いていた。
本日分です。ルークスが行きます!
評価などなど本当にありがとうございます。




