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王立魔法研究所 ~魂の在処~  作者:


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混沌のワルツ①

******


 騎士団長であり、俺の幼馴染みでもあるフリューゲルと、魔物の位置や騎士団の展開状況を確認して、俺は王立魔法研究所へと戻った。


 ウイングとランスにデューの状況や、アスト、メッシュへの指示内容を報告し、自分たちは魔物討伐に出ることを告げる。


 庭園に移動し、これから翼竜に乗るところで……ランスが不機嫌そうに言った。


「それで? 俺は騎士様に花を持たせて、とどめを刺させてやればいいって?」


 俺は何度目かのため息をつく。


「そうだ。……いまことを荒立てたくない。悪いけど我慢してくれ」


「なら、それこそ俺たちでちゃちゃっと片付けちまえばいいのに」


 ますます不機嫌になったランスは、右の掌の上につむじ風を起こしながら口を尖らせた。


「仕方ないのですわ。今回指揮を執るのは私たち、王立魔法研究所ですのよ? うまくやってとどめを譲れば、騎士団だって多少は溜飲を下げるでしょうし」


 ウイングが肩を竦めて、ランスを窘めてくれる。

 俺は助け船に感謝しながら、頷いた。


「ああ。ただし、黒い靄が出た場合は別。被害を出さないよう、全力で当たってくれてかまわない」


「……ちぇ。指揮権があっても、結局こんなかよ。デューだって、牢屋ん中だぞ? それこそ、早く行って少しでも相手してやればさぁ……」


「……それは……」


 ランスの言葉は、俺の反論を呑み込ませるには十分だった。


 それがわかっているからこそ、どうしても騎士団の反感を買いたくないのに……デューが心細い思いをしているかと思うと、自分が情けない。


 ……それでも笑ってくれたデューに、心臓がぎゅっと掴まれたかのような気持ちになる。


「――ランス。私も、やきもきしていますわ。でも、騎士団の印象が悪くなってしまったら、デューを長く牢屋に居させることになるかもしれませんのよ?」


「……それは、わかってるけど」


「ルークスも、しゃんとなさい? デューのそばにはメッシュがいますわ。ご両親のもとへは、アストが同行しているのでしょう? ……私たちには私たちのやれることをやるしかありませんのよ?」


 ウイングは長い金の髪をさらりと靡かせて、ぱんぱん、と手を叩く。

 俺は彼女の言葉に、ランスと顔を見合わせて、ぐっと手を握った。


「ああ。……ランス、頼む」

「ふん。そこまで言われちゃ仕方ねぇよな。……ただ、聞かせろルークス。これは『大臣の策略』じゃねぇのか?」


 ランスは腕を組み、面白くなさそうに言う。

 

 それは、昨日デューとも話した内容だ。

 俺は昨日と同じように、ランスに告げた。


「……ないと思ってる。大臣は俺たちみたいな魔法を使う奴らが嫌いだ。明らかに魔法が関わってる魔物だって毛嫌いしてるはず。それを狩らなきゃならないのに、わざわざそんなことするとも思えなくてさ」


「ふーん、そんなもんか」


「……なんだ、噛み付かれるかと思ったのに」


 肩透かしをくらったような気持ちになって思わず言うと、ランスが顔をしかめる。


「なんだよそれ。……まあ、今回の魔物、お前にとっちゃ因縁感じても当然だろ? なら、もっと別の理由があるかもしれねぇし――大臣のことは嫌いだけどな!」


「あら、ランスにしてはいい判断ですわ。……この魔物が、隣国の策略なのかどうか……そちらのほうを懸念すべきですわね」


 ウイングが微笑むと、ランスは鼻を鳴らして、待機している黒い翼竜のほうへと歩き出した。


「どうせ、それも調べるつもりなんだろ? ルークス」


 俺はその台詞に苦笑して、目の前の紅蓮の翼竜を見上げた。


「そうなるな!」


******


 今日は王都から翼竜で三時間ほどの距離にある、山を越える街道での討伐を行うと決めていた。


 ――目的の山は、『剣豪の墓』と呼ばれている。


 これは剣豪が命を落としたわけではなく、いくつも突き立つ岩がまるで刃のようで、それが剣と墓を思い起こさせたからだ。


 白と黒の岩は、実際触れると肌がすぱりと切れることもあるそうで、街道沿いであっても注意が必要なほどらしい。


 その山肌に突き立つ剣を避けながら、這うように作られた街道に、魔物がいることがわかっている。


 勿論、討伐のために騎士が派遣されたのだが、足場が悪く、苦戦しているらしい。


 だから加勢するんだけど、正直、ここなら夜までに王都に帰れるってのもありがたかった。


 俺は、翼竜を旋回させながら、街道を確認する。


 ほどなくして、人影を確認。


 騎士たちは、山の中腹に陣を敷いていた。



本日分です。ルークスが行きます!

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