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弛まぬ回想曲③

******


「えーっと……」

 なにがどうしてこうなったのか。


 運ばれてきたパンを食べ終えて、私は、狭い牢屋の中でルークスとふたり、岩のベッドに座っていた。

 薄暗いのは変わらずで、淀んだ空気もそのままなのに……ルークスがいるだけで、なんにも怖くない。


 それどころか、心臓がどきどきしっぱなしで……どうしよう。


 手の中には、大きな雫型のルビーが下がったペンダントがあって、これが本物の結界塔だとメッシュは言った。


 結界を張るために必要な媒体で、人工的なものから自然のものまで、いろいろあるんだよね。


 王立魔法研究所の敷地内にある結界塔は、メッシュが管理していたし、結界の研究も、メッシュが行っているはず。


 確かに、考えれば考えるほど適任だ。


 それに、ルークスでも容赦しなくていいって……いまの状況がばっちり予想できていたってことで……。


「……あの、ルークス」

「ん?」

「牢屋の中に入る必要はなかったんじゃ……」

「あれ……さっき言いかけたの、こういうことじゃなかったか……?」

「うっ……」


 待って。言葉には出さなかったよね?

 そんなわかりやすい顔、してたかな……!?


 私が慌てて火照る頬を包むと、ルークスが笑ったのが聞こえた。


「……まあ、守るって約束したのに、このざまだからさ。あの靄がいたんなら、今度こそ俺がなんとかしないと」

「……ルークスは、守ってくれたと思うけど」


 唸るように応えると、彼はふふっと笑い、ベッドに深々と座って壁に背をもたれた。

 隣をとんとん、と叩くので、私も深くまで移動する。


「――守れてたら、ここにデューが入ることはなかったな」

「あれは……私がちゃんと自分の話をしてなかったから……」


「……あー。それなんだけど。王立魔法研究所にきて最初の二週間、覚えてるか?」


「えっ? うん、皆と一緒に行動して、設備を見せてもらったり、魔法の計測をしたり……したと思うけど」


「そ。あの期間は、言うなれば試用期間だった。そのあいだ、俺はランスを派遣して、調査させてたんだ――お前の身辺を」


「……えっ」


「詳しくは言えないけど、ランスには王立魔法研究所の諜報員としても動いてもらってる。気を悪くしないでほしいんだけど……ここで働くってことは、国の機密にも触れる場合がある。……大臣の言うとおりだ。調査しないわけがないんだよ」


「……」


「俺は、お前が旅しながら生きてきたことを知ってる。……ただ、してやられた。王国籍までは調べなかったんだ」


「……わ、私、本当に……なにも……」


 絞り出した返答が終わらないうちに、ルークスが笑った。


「わかってる。俺はお前のこと、信じてるから。……デューの両親については、ランスからの報告におかしなところはなかった。……本当に王国籍を取ってないなら、デューの言うとおり、お前を送り出すはずがない」


「ルークス……」


「当然、皆もお前を信じてるから……こんなものを渡すわけで」

「あっ」


 ルークスは私の手のなかにあったペンダントをひょい、と取ると、なんだか嬉しそうに笑った。

 メッシュの行動も、ルークスにはばればれのようだ。


「後ろ向いて。付けるよ」

「えぇっ」

「……ほら」

「は、はい」


 ルークスは私の首筋のあたりで金具をさっと留めてくれる。


 な、なんだか手慣れているような気がするんだけど、なんでかな。


 うぅ。自分ばっかりどきどきしているのが、なんだかいたたまれない……。


「王国籍が、実際はあったとしようか。そうすると、誰かが隠蔽したことになる。……もっとも有力なのは、この状態を作り上げた人間だ」


「えっと……だ、大臣……ってこと?」


 ペンダントを確認し、髪を整えながら私が言うと、ルークスは少しのあいだ、考えるような仕草をした。


「……そう、普通はそうなる。でも……理由がさっぱりわからない。俺たちは、街道の魔物を討伐する人材だろ? それを減らしてまで嫌みったらしいことをする人間じゃ……ないと思うんだ」


「私を理由に、ルークスを三権者から追いやるってことは?」


「俺はアストっていう監視役が付く条件を呑んで所長になった。俺がいなくなったら、新しい所長が任命されるだけだ。王立ってのは簡単に潰れないし――この時代に、魔法研究をなくすことは考えられないんじゃないかな。大臣はさ、魔法を使う俺みたいな奴を嫌っているだけで、この国のことは好きなんだよ。だから、街道の魔物を放置してまで、そんなことをする必要がないはずなんだ」


「……そっか。魔力を使って作られているような魔物を、大臣が手引きするとは考えられないものね。――じゃあ、どうしてなんだろう」


「街道に現れた魔物が関係してるのは間違いない……と、俺は踏んでる。まだちゃんと調べないとわからないけど……覚えてるか? 前騎士団長が失踪したこと」


「うん」


「実は『器』は、雷の魔法を使って構築することが一番適していたんだ。だからティルファの協力が必要だった。でも、ティルファは前騎士団長に研究の情報を漏らしていた。……結果、いまになって、『器』と『魂』みたいなものが現れたんだ――もしかしたら、失踪した前団長が関わっている可能性もある」


 ティルファさん。……雷の魔法を使えた、ルークスが守ろうとした女性。


 私はルークスがティルファさんを生き返らせようとしている……その噂がたっているんだと思い当たって胸が苦しくなるのを、首を振ってごまかした。


 自分の気持ちに気が付く前は、こんなふうに思わなかったのに。


「理由はわからないけど、街道の魔物と一緒に『魂』のような靄がいて、しかもデューの言葉から推測すると『器』を探しているってことになる。……だから、街道の魔物は『仮の器』の可能性も……いや、待てよ。主要な街道に一度に配置したんだから、それもなにか関係が……」


「うん……」


 すっかり思考の海に沈んでしまったルークスに、私はとりあえず相づちを打つことにする。


 口にすれば、整理ができることだってあるもんね。


 私は隣にいるルークスの声とぬくもりに、だんだんと眠気が訪れるのを感じた。


――いろんなことがあった日だけど……私のこの気持ちが、ルークスの妨げにならないようにしないと……ね。


******


肺炎ってしつこいんですね……

薬飲んでーよく寝てーなどなど気を使ってるんですが!

でも恋愛要素が活動を始めたので筆が進んでいます。

よろしくお願いします!

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