表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/67

弛まぬ回想曲②

「じゃあ結界張るから、所長はデューと中で確認して。いったん閉めるよ」


 メッシュがそう言って、ぱちりとウインクしてくれる。

 私は思わず身を固くした。


 きっと、ルークスと話す時間をくれるつもりなんだろう。

 でも、また牢に入らなければならないなんて……。


「ルークス……」

「……デュー?」


 ……。

 怖いけど……ここから出してもらえるとも思えない。


「ううん。大丈夫……とにかく、中に」


 私は、ルークスを促して牢に入った。


 時間はそんなにないはずだ。

 それなら、早く報告しなければ。


 ガチャリ、と扉が閉められる。

 私はすぐにルークスに向き直り、その袖を握った。


「どうした、なにがあった……?」

「ルークス、あのね。いま、ここにあの黒い靄がきた」

「――なっ」

「私、気のせいだと思ってたけど……最初に遭遇したときに『アッタ』って言われたの……今回は『カラダ』って……」

「……ッ」


 ルークスの表情が、見る間に曇る。

 いまはあの靄はどこにもいない。


 だけど、もしまたここに現れたら……と思うと、指先が震えてしまう。


 怖い。


 震える声で、私はルークスに向かって呟いた。


「……私、あの靄の『器』にされようとしてるのかな……?」

「――させない、大丈夫だ」

「……あ」


 瞬間、ルークスが私の腰を引き寄せ、すっぽりと私を覆った。


「そんなこと、俺がさせない。……デュー、お前を連れてきたこと、後悔してる。ごめんな。ウイングやランスにも怒られたし、メッシュも……いまはあんなふうにしてるけど、かなり怒ってる。……俺がお前を守れなかったから」


 ルークスのぬくもりは、私の不安を溶かしてくれるようだった。

 胸がぎゅーっとして、切なくて……私は、肌に伝わるルークスの熱に身を委ねた。


「ううん。ルークスは……来てくれた。いまここに、いてくれた。……私、すごく嬉しいよ」


 彼の背中に、そっと腕を回すと、ルークスが、少しだけ身動いだ。


「デュー……あの、嫌だったら言ってくれていいから、な?」

「ふ、ルークスこそ」

「――俺は、その……お前が落ち着けるなら」


 なんていうか、ルークスらしい。

 それが、本当に嬉しくて、胸がどきどきする。


 ……あー、そっかぁ。


――気が付いちゃった……。


 私、ルークスの力になりたいんだ。ルークスの傍にいたいんだ……。


 ルークスのこと、好きになってたんだな……。

 

「ごめんな。……怖かったろ」

「……うん」


 素直に応えると、ルークスは私を抱き締める力を、少しだけ強めた。


「ここの結界は、お前が出られなくするものじゃない。お前を守るために張らせるものだ。メッシュには、そのままここに残ってもらう。さすがに扉の外だけど」


「……うん」


「アストをフリューゲルに……騎士団長に同行させて、翼竜でお前の両親を連れて来させる。それなら日帰りでなんとかなる」


 私は、ルークスの腕の中で、ゆっくりと頷いた。


――一日。


 この一日を、ここで耐えればいいんだ。

 メッシュも傍にいてくれるなら、こんなに心強いことはない。


「夜のあいだは、俺がここに残るよ」

「……え」

「皆に言われた。『代わりにお前が牢に入ってろ』って。はは、あいつららしいよな。……俺がちゃんと見張ってるから、安心して休んで。……ちょっとベッドは硬そうだけどな」


 ルークスはそう言うとちょっとだけ体を離し、右手の親指で、私の目元をそっと拭った。


 ち、近い。


 途端に、私の心臓が跳ね上がる。


 そんな場合じゃないのは、重々承知しているんだけど……す、好きだって気付いたら、たまらなく恥ずかしい……。


 それに、ルークスが私を見詰めるその瞳ときたら、薄暗いなかでも力強く輝く、綺麗な翠色で。


 吸い込まれそうになる。


「……ルー、クス」

「……ん?」

「あ……わ、私……」


 今日は、隣にいてほしい……なんて。

 わがままなのはわかってるんだけど……。


「どうした?」


 そのときだ。


(そろそろ結界が完成するよ)


 扉の外から、メッシュの声が聞こえた。


「あ、あぁ。わかった……! 確認する」

 ルークスが応えて、私を見る。


「……もう、大丈夫」

 私が苦笑すると、彼は黙ったまま頷いて、そっと私から離れた。


 考えてみたら、ルークスは最初から優しかったもんね。

 いまこうしてくれたことも、私を安心させようとしてくれたんだろうな。


 ちょっとだけ、胸がちくりとする。


「……うん、壁は問題なし。床と天井も大丈夫だな」


 ルークスはぐるりと牢屋内を確認しながら、扉を開けた。


「結界塔はここに設置したよ。僕と所長の魔力は通れるようになってる」

「よし。……メッシュ、お前は城内で休んでくれ。夜は俺が着いてることにした」

「え? 所長、残るの?」

「うん……さすがにこの牢屋見て、自分だけ戻る気になれなくてさ。……アスト、お前は明日、フリューゲルに同行してくれないか? 翼竜で行ってくれ」

「いいだろう」


 応えるアスト。

 メッシュは苦笑すると、牢屋にいた私のほうへやって来て、ぎゅっと私の手を握った。


「デュー、ごめんね。僕たち、なんにもできないけど……皆そばにいるよー」

「メッシュ……うん、ありがと!」


 メッシュは私ににっこりして頷くと、小声で付け足した。


(今夜だけ、本物の結界塔は『これ』なんだ。もし誰かになにかされそうなら、『これ』にデューの魔力を少しだけ注いで。あ、それが所長でも容赦しなくていいからねー。僕が止めるから)


「……!」


 なにかつるりとしたものが、ぎゅっと握られた手のなかに収まっているのがわかる。

 というか、ルークスでも容赦しなくていいって……?


「それじゃ、僕は休ませてもらうね。アストも行こう~」

「そうだな。ルークス、デュー、お前たち、なにも食べていないだろう? 夜中だが、なにか運ばせる」


 あ、そういえば。


 緊張しすぎてたからか、全く気付かなかった!


「お、オッホン……ちょ、ちょっと待ってくれ。王立魔法研究所所長ルークス様。ここに、残るのです、か?」

 そのとき、牢番が居心地悪そうな声を出した。


 確かに、三権者のひとりが夜通し近くにいたら嫌だろうな……。


「安心してくれ。俺もデューと牢屋に入れてもらうから。鍵もかけてくれていいぞ、朝、メッシュが来たら出してくれるか」

「ろっ、牢屋にですか!?」

「ええっ!?」


 狼狽える牢番と、私が驚く声が重なる。


 ルークスは笑うと、一歩、牢屋に入った。


「じゃあ、あとは頼んだ」



本日分です!

恋愛要素が活動を始めますー!

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ