立場違いのトリオ⑦
「さすがに分が悪いよ。僕が彼女を連れて行くから、ここは引いてくれ。……大臣、彼女の両親について情報をいただきたい。隔離後、部屋へ伺います。――隔離場所は、どちらに」
「ふん、いいだろう。隔離場所は地下牢だ。……では、先にお帰り願おうか。王立魔法研究所所長?」
静かに、それこそ機敏な騎士のような動作で立ち上がった大臣は、腰の剣をこれ見よがしに撫でながら移動し、ルークスの隣で彼の肩をぽん、と叩く。
「……っ」
ルークスは、ぎり、と歯を食い縛ると、私を見た。
その表情が、酷く辛そうで……泣きそうに見えて。
「――」
わかってる。
いまは、なにも言えないし、言ってはいけない。
それは、私のことも、ルークスのことも、より深く貶める行為だから。
……でも。
ごめんなさい。
唇だけを、そっと動かす。
ルークスは一度だけ、私に向けて、無理矢理の小さな笑みを作ってくれた。
私は……自分が、どんな顔をしているかわからなかった。
「……フリューゲル。俺たち王立魔法研究所は引き続き魔物討伐に動く。明日、朝に最新情報をもらいにいく」
「ああ。僕は情報伝達後、彼女の両親のもとへ向かう。その任務が完了次第、我々騎士団もそちらに合流しよう。……君に背負わせてすまない、ルークス」
「……馬鹿言うな」
ルークスは騎士団長を『フリューゲル』と呼び、明日の約束を交わす。
私は……それが私のことを聞くための口実だってことを察した。
勿論、大臣だって気が付くはずなのに、ルークスはそれでも口にしてくれたんだよね……。
それ以上はなにもなく、踵を返したルークスは、扉の向こうへと姿を消した。
きっと、なにかの間違いだ。
そうでなければ、これは――ルークスや王立魔法研究所を陥れる策略としか思えない。
自分がここに来たせいで……。
私が大臣の冷たい横顔をじっと見ていると、私の隣にいた騎士がシャッと剣を抜いた。
「立て」
「待つんだ。彼女が黒だと決まったわけじゃない。……抵抗したら斬って構わない。だが、いまは剣を引け」
騎士団長が言うと、騎士は渋々といった面持ちで剣を納め、不満の声を洩らした。
「ですが騎士団長、魔法を使う者など……」
「魔法の有無は、僕たちの任務になんら関係ない。違うかい?」
「……は。申し訳ありません……」
「とりあえず、君は地下牢の番をしている者に通達を。大臣の命令だ、すぐに準備をしてもらってくれ」
「はっ」
私に剣を向けた騎士は、さっと礼をして、先に出ていった。
大臣はそのやり取りにさえ、興味なさそうにしていた。
******
騎士団長とアストとともに、地下牢へと向かう。
緊張感はあるけれど、ともに歩いてくれるのがこのふたりだったことが、私の気持ちを前向きにしてくれる。
「地下牢。……あそこは魔法に対する考慮はなにひとつされていない」
私の右隣、アストが前を向いたまま言った。
「――確かに。ではアスト、どのような対策が必要だろうか」
応える騎士団長は、私の前を颯爽と歩いている。
「魔法を洩らさない結界が必要かと。幸い、適任がいる。その適任を雇っている責任者とも顔見知りだ」
「では、その者に彼女の牢の管理を任せよう。当然、腕も立つのだろう? 厳重にしておかなければならないからね。――牢までは僕が行こう。責任者にも伝えて、すぐに手配してくれ、アスト」
「御意」
アストが踵を返す。
瞬間、彼の右手が、とん、と私の肩に触れた。
「……!」
なにも言ってはくれなかったし、視線も合わせてくれなかったけど、彼にしては優しい仕草だったと思う。
大丈夫だと言われている気がして、ぐっと胸がつかえた。
悔しい。情けない。
「……」
遠くなる足音に、私は自分の足元へと視線を落とし、唇を噛んだ。
そこに。
「――デューといったね」
柔らかい、優しい声で、騎士団長が言った。
「……はい」
「自分を責めなくていいよ。なにが起きているのか、まだわからない。君の両親に手荒な真似はしないと約束する」
「――ごめんなさい」
「え?」
「せっかくのきっかけだったのに――ルークスと貴方に……王立魔法研究所と騎士団に……申し訳なくて」
握った手は、どうしても震えてしまう。
私にできることがなにひとつないのが、辛かった。
「……君は、僕のことをルークスから聞いてるのかな」
「え? あ、はい。少しだけ。……騎士団長の話をするとき、嬉しそうでした」
「うれ……ん、なんだかむず痒いな。……あいつは、君を評価していた。僕はそれを信じたいと思っているんだ」
「……」
「君の扱いには、配慮するよ。……ティルファも、それを望むはずだから」
「……そっか、ルークスの幼馴染みだもんね……騎士団長もティルファさんと……」
思わず呟くと、騎士団長はこちらを振り返り、小さく笑った。
「やはり、その話もしているんだね。ルークスは」
「はい」
「――僕とルークス、それから大臣。三者三様、いろいろな考えがあるんだと思う。でも、僕とルークスは、魔法差別に対する思いを同じくする者だ。……覚えておいて、デュー。もし君が敵ならば、僕は躊躇わない。でも――そうでないのなら、僕たちは同志だよ」
「……はい。同志でありたいと……願っています。私は」
「……うん。それを聞いて安心した。少しのあいだ、辛い思いをさせてしまうけど……ルークスも僕も全力を尽くすだろう。さあ、ここが地下牢だ。階段はすべりやすいから気を付けて。本来であれば女性を先に行かせるのは忍びないんだけど……」
目の前には、重厚な金属の扉が構えていた。
あまり使われていないのか、扉の一部分には錆が浮いている。
「大丈夫です」
私は、扉の奥へと体を滑り込ませた。
人がひとり通れるくらいの狭い階段は、下へと伸びている。
中は松明がぽつぽつと掲げられているだけでかなり暗く、湿っぽい空気に、カビの臭いが混ざっていた。
慎重に降りていくと、ほどなくして視界が開ける。
階段の先には思いのほか広い空間があり、小さな牢屋が並んでいるのが見えた。
先に通達に向かった騎士が、牢番と思しき人とともに私たちを待ち構えており、私は奥のほうにある牢へと入れられた。
――どのくらいここにいることになるかは、わからないけど。
考えよう、私になにができるかを。
ギキイィ……ガチャリッ
閉まる扉の向こう、頷く騎士団長が見えた。
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