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立場違いのトリオ④

 ギギギ……と。


 扉を押し開けるルークスに続き、私は『その場所』へと足を踏み入れた。


 瞬間――感じたことのない、ねっとりと絡みつくような重い空気が、私の頬を撫でる。


「――随分と、待たせてくれたものだな」

 私たちを迎え入れた最初の言葉は、とても歓迎しているものではなく。

 低くて重い威圧感のある声は、場の空気をさらに重いものに変えていった。


「馬車ではこんなに早くたどり着けないほど、長い距離を飛んで参りましたので」

 けれど、私の一歩前を行く、炎のような赤い髪の青年から、凛とした声が響く。


 空気は重いままだったけど、物怖じしない力強いルークスの言葉に、私の胸の奥は勇気づけられたように熱くなった。


 そうだ。気持ちで負けちゃ駄目だよね!


 そこは……例えるなら、見せかけの静謐が満ちた棺。

 中にいるのは三人だけなのに、呼吸音さえも押し殺さなければ、首を取られると錯覚するような空間だ。


 中央には、大理石の大きな丸テーブル。

 黒く艶めくその表面でゆらゆらと踊る灯りは、中央にある、たくさんの蝋燭が立てられた銀の燭台のものだった。


 背もたれが高く、その縁に銀の細工が施された椅子は、全部で八脚。


 私は、ちらと盗み見るように、待機していた三人へと視線を走らせる。


 正面の椅子には白い髭を短く切り揃えた、眼光鋭いお爺さん――きっと、あの方が王様だろう。撫でつけられた白い髪には、紅い宝石を頂く金色の王冠が載せられていた。


 驚くことに、その身に纏うのは艶消し金の鎧。胸当てと左肩の肩当てには、剣の紋が装飾されている。


 テーブルに隠れて見えないけど、まさか、王様は帯剣しているってこと……?


 私は、ごくりと息を呑んだ。


――これが、剣の国の在り方なんだ……!


 自分やルークスがこの国では『異端』なんだってことを、まざまざと見せ付けられているような気がした。


 でも、それを承知で、この国の魔法に対する扱いを変えていかなきゃならないんだ。


 私はゆっくりと息を吐き出して、ぐっとお腹に力を入れた。


 負けてなんか、いられない!


 私から見て、王様から椅子をひとつ挟んだ右側が、言葉を発した男性だ。


 こっちは白髪交じりの黒髪ときっちり揃えられた口髭で、吊り上がり気味の眼を爛々と光らせていた。


 ――疑いようもない。絶対に、この人が大臣だ。


 細身のご年配を想像していたんだけど、なかなかどうして、しっかりと締まった体付きで、たぶん私の父親と同年代くらい。


 つまり、まだ若かった。


 しかも、驚くのはそれだけじゃない。


 大臣も鎧を――こっちはなめし革だったけど――装備していて、さらには剣の柄が、大理石のテーブルの端からチラリと覗いていたのである。


 ――もしかしたら、大臣は名のある豪傑だったりするのかも。


 最後は、王様から椅子をひとつ挟んだ左側、大臣の正面に座す……なんていうかすごく綺麗な人。


 襟足が長めの金の髪は極上のシルク。大きな丸い眼は、サファイアのような蒼。


 絵に描いたような美男子で、そう、例えるなら、ウイングみたいな芸術品さながらの容姿である。


 勿論、纏うのはこのジェスタニア王国が誇る騎士団の団服。

 アストのものと違うのは、マントに、金糸の美しい刺繍があることだ。

 描かれたのはこの国の紋である剣。そして、それを囲む、蔦とも翼とも見える、なにかの文様である。


 ……ふわー、あれが騎士団長! き、綺麗すぎやしませんか!


「――本日は、先の召集にて頂戴した魔物討伐の完了報告と……新しい研究員の紹介を行わせていただきたい」


 ルークスは椅子には座らず、王に向かって告げると、左手を胸に当てて深々とお辞儀をした。


 ひとりあれこれ考えていた私は、慌ててそれに合わせ頭を下げる。


 すると……顔を上げた際に、騎士団長と目が合った。


 それは……一瞬。


 ほんの一瞬だけど、その目元と口元が細められて――うう、なにあれ、微笑みすら綺麗すぎて直視できません!


「このような場に、研究員などと。しかも『いわく付き』であろう?」


 そんな私の高揚した気持ちを、大臣が一気に冷ましてくれたのはそのときだ。


 うー、ありがたい気さえする。私、思ったより余裕があるのかも。


 大臣の言う『いわく付き』というのがなにを意味するかはわからないけど、これくらいの嫌味なら簡単に流せそうだ。


 そっと安堵の息を吐き出していると、件の騎士団長がカチャリと鎧を鳴らした。


「大臣、彼女も守るべき国民です。王立魔法研究所所長が自ら連れてきたのですから、意味があるのでしょう。説明は彼にしていただくのが妥当ではないでしょうか?」


「ふん、説明を聞かずともわかっている。雷使いをこの場に連れてくるなど『どんな謀反か』と問うているだけにすぎん」


 ……む。いきなり、謀反だなんて、失礼な話よね。


 カチンとはきたけど、まだまだよ。

 私は澄まし顔で受け流した。


 ルークスが一瞬だけ私を見たのはわかったけど、私は彼に視線を送るつもりはない。


 気持ちが通じたのか、ルークスはすぐに言葉を紡いだ。


「――謀反などと。王に誓って、そのようなことはありません。では、大臣へのご返答も併せ、報告を始めてよろしいですね?」


「……ふん」

 大臣が鼻を鳴らし、押し黙る。


 そのあいだも、王様はじっと動かない。


 ただしその眼だけは、ずっとルークスの一挙一動を捉えていて、逸らされることは一度もないまま……だった。


お待たせしました!

肺炎にかかり、結構開いてしまいました。


現在進行形ですが、治るまではゆるゆるになると思います!


ちゃんと続けていきますので、そこはご安心を。


よろしくお願いします!

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