立場違いのトリオ②
「魔物退治だってちゃんと伝えれば魔法を知るきっかけになるよ。ルークスのことだって、こんなに頑張ってるのに誤解されるなんて、私は嫌だな」
言い募った私に、ルークスの眉間の皺は深くなるばかり。
彼はコップを持っていない左手で、深くなった皺をぐにぐにした。
「……いや、確かにそうかもしれないけど。でも俺が心配なのは、俺がどうこう思われるよりも、デューが……」
「ルークスは自分はどうなってもいいみたいに言うけど、私だって……きっと皆だって、ルークスが心配なのは同じだと思う」
私が隣から身を乗り出すと、ルークスは驚いたように目を丸くしてこっちを見たあとで、少し体を引いた。
「……う……」
私から視線を逸らすルークス。
ここで引いたら、駄目だよね! もう一押し!
私はさらに身を乗り出して、なにか言おうと口を開き……。
「あはは、所長の負けだと思うなー」
「おわぁっ! め、メッシュ!」
「あれっ、おはようメッシュ」
ひょこりと間に入ってきた小柄な少年……もとい、青年に、目をぱちぱちさせる。
ルークスは頬をうっすらと紅潮させ、唸った。
「……も、戻ったなら声かければいいだろ!」
「えー? いまかけたよー?」
「絶対、もっと前から聞いてただろ!」
「じゃあ広報の出番だねーってとこからかな?」
「…………あぁ、もう」
ルークスは左手を額に当てて、首を振る。
それからお茶を一気にあおってコップを置き、むすーっとした顔でメッシュの頭をぐりぐりした。
「わかった、俺の負けでいい。……その代わり、協力してもらうからな、メッシュ!」
「えー? 協力? 僕、面倒くさいのは嫌だよ~?」
へへーっと笑いながら戯けてみせるメッシュに、ルークスは、ランスみたいな意地の悪い笑みを浮かべる。
「今日は少し休んだら王都に向かう。デューを連れて、王と騎士団長、それから大臣に会うことに決めた。どうせ報告もする必要があるしな。メッシュはアストと先行して、王にそれを報せてくれ」
途端、子犬みたいにふわふわしたメッシュの表情が、一気に真剣なものになった。
空気がぴんと張り詰めたのが、私にもはっきりわかる。
「……ッ! しょ、所長! 大臣って……それ本気!?」
「あぁ、もう決めた。……皆が俺を心配してるのはわかってるし、デューを大臣に会わせるかも、正直迷ってた……。でも、この状況下でデューのことを隠すような真似しても、いいことはない。なら、こっちから攻める」
「そ、そうかもしれないけど……」
メッシュはそう言いながら、困ったような顔で私を見る。
ルビー色の瞳が揺れて、心底迷っているようだった。
「大臣って……注意しなきゃいけない人なんだよね? 私が会うことがルークスにとっていいことなら、私は大丈夫だよ」
笑ってみせると、メッシュは唇を引き結び、ぶんぶんと首を振る。
「注意とか、そんな簡単なものじゃないよ、デュー。あの人は、僕たちが嫌いだって全身で表してるんだ。だから、この状況が初対面になったら……」
「メッシュ」
言いかけるメッシュを、ルークスが止める。
メッシュは眉尻を下げ、再び唇を引き結んだ。
「――デュー。俺は、お前が心配なんだ。言っても聞かないのはなんとなくわかったから、もう決めたけど……もし、そこにいるのが嫌になったそのときは、俺を見て。必ず、俺もお前を見てる。絶対になんとかしてみせるからな」
「……」
私は、ルークスの言葉に、心臓が跳ねるのを感じた。
息まで、こう……ぐっと詰まるというか。……あ、あれ……?
「所長ってさ、それ、どんな気持ちで言ってるの……? 僕でも、ときめくんだけど~」
話を続けるのを諦めたのか真剣な表情を消して、メッシュが微笑む。
その茶化したような言葉が、すっごくありがたい。
「ほ、本当に! ちょっと、照れるっていうか……どきどきしちゃうんだけど……! ルークス、人たらしなんじゃないかなっ!」
便乗して私が言うと、ルークスはちらっと横目で私を見た。
「……、悪いけど、大真面目」
言葉通りの大真面目な返答が小さく聞こえ……彼は右腕で口元をごしごしする。
その耳が紅いのが見えて、私は頬が熱くなるのを感じた。
う、うわ。ルークス、その台詞は、ちょっとずるい。
そう思っていたら、続けてルークスがゴホンと咳払いをした。
「……う、うん。デューが先に心配だ~とか言うから返してみたんだけど、これ、自分へのダメージがすごいな……うわ、なんだこれ、照れる」
「あぁ……デューが言うと、清々しいよね……わかる」
メッシュが応えて笑うと、やがてルークスもくっくと肩を振るわせ始め、すぐにおなかを抱えて笑い出してしまった。
え、それって結局、私が原因ってこと?
「え、ええ……? あれ、なんか、あの、ごめん……?」
すっかり冷めてしまったコップのお茶から、ふわりと花の香りがした。
書けたので土曜日ですが投稿です!
よろしくお願いします!