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立場違いのトリオ①

******


 拠点に戻り、その日はすぐに休むことになった。


 ルークスとアストが準備してくれたテントは男女別の二張りだったから、私はウイングと一緒に広々と使うことができて、快適だ。


 テントで眠るのは久しぶりだなぁ……なんて、張られた布を見上げながら考えているうちに、私はするりと眠りに引き込まれ――夢を見た。


◇◇◇


 誰かが、私を見ている。

 私は、あれが誰かを知っている――気がしたけど、じゃあ誰かというと、わからなくて。


 その誰かが、私に『おいで』と言ったから……手を伸ばした。


 次に見えたのは、美しい星々と……その誰かが笑うところ。

 ううん。顔が見えたわけじゃないから、正確には笑っているんだと私が認識しただけだ。


 でも、その人は私を軽々と抱え上げ、大事なことを言った……。


 なにか、なにか大事なことを――。


◇◇◇


「……」

 

 起きたときには、テントの布越しに淡い陽の光が透けて見えていた。


 ……まだ、明け方だな。


 隣で眠るウイングは静かな吐息を立てていて、私は彼女を起こさないよう慎重に寝返りを打った。


 眠り足りなくて体は重たかったけど、頭のなかはやけに冴えてしまっている。


 ……変な夢だったなぁ。


 起きても夢の映像は頭のなかに残っていて、誰がなにを言ったかを考えてしまう。


 夢なんだから、答えはないのかもしれないけど。


「……」

 私はふう、と小さく息を吐いて、音を立てないようにテントを出た。

 横になってても、再びの睡魔は期待できそうになかったしね。


 ……外はひんやりとした空気に、平原の向こうから顔を出し始めた太陽の光がきらきらしていて、清々しい朝を迎えていた。

 深呼吸すれば、肺が浄化されるような気持ちになる。

 

 とりあえず、顔くらい洗おうか……。


 私は、ゆっくりと歩き出した。


 拠点には折りたたみ式の少し大きな『瓶』みたいなものがふたつ置かれていて、そこにウイングが綺麗な水を張ってくれているのだ。

 水を汲むための小さな桶が一緒に置いてあって、顔を洗うのに使ったり、飲み水にできるというわけ。


 徒歩で旅をするときは、大きな革袋に入れて水を運ぶのが一般的だけど、馬車があれば瓶や樽を積んだりするので、この折り畳み式の器はいい考えだ。


 水が入っていないときは畳んでおけばいいもんね。


 その水場は男性陣のテントの影になっているので、私は少し大回りをして、まだ眠っているだろう皆を起こさないように気を付けた。


――すると。


 ぱしゃ、と、水音が聞こえた。


「……ふぅ」


 テントの向こうを覗き込んだ私の視界には、ワインレッドのシャツが映る。


 彼は布で顔を拭きながら振り返り、私に気が付いた。


「――よ、おはようデュー」


 にこりと優しく微笑んだのは、ルークスだ。

 白い外套は、濡れるのを嫌がったのか着ていない。


「あ、お、おはよう、ルークス。は、早いね?」


 ……言いながら思い出すのは、当然……。

 

『この雷は、皆を……ルークスを守る光なんだから!』


 自分の、勢い余ったすさまじく恥ずかしい台詞なわけで。


「あああぁ~……」

「!? ど、どうした?」


 顔から火が出そうってこんな感じだよね!

 頭を抱えた私に、ルークスが驚いた顔で近寄ってくる。


「いや、ちょっと、かなり、なんだか、恥ずかしくて」

「……? ああ、格好良かったぞ? 助けてもらったのは本当だし」

「うう、すぐ思い当たられる時点で……それはそれで……」

「ははっ、とりあえず顔洗ってこいよ。布はそこ。――火、起こしておくから」

「あ、はい」


 ルークスは自分の布を片手に、焚き火へと向かう。私は慌てて水場で顔を洗った。


 ……ルークスのほうが、格好良かったよね……。あの台詞はずるいよ。


――なんだか、心臓がちょっとうるさい気がする。


 私は火照る頬を冷やすためにもう一度だけ顔を洗って――ルークスが用意してくれたのか、瓶のそばに置いてある布を拝借した。


 そうして焚き火の元へ行くと、ルークスは研究服に似たいつもの白い外套姿で、ちょいちょいと手招きをする。


 焚き火はすでにメラメラと燃え上がっていて、朝の空気で冷えた体に心地よい。

 その上には水の入った鍋が設置され、こちらもすでにフツフツしていた。


「座って。……眠れなかったか?」

 言いながら、ルークスはお茶の用意を始める。


 ありがたく甘えることにして、私はルークスの隣に座り、焚き火に向けて手をかざした。


「うん、ちょっと夢見が悪くて……いや、悪かったのか、悪くなかったのかは微妙かな?」

「ん? はは、なんだよそれ」


 ルークスも眠れなかったのかなと思ったけど、笑う彼の頬は、血色も悪くない。


「……ルークス」

「うん?」

「あのとき、真っ青だったけど……その、無理しないでね」

「…………んん、参ったな」

「え?」


 ルークスは、出来上がったお茶を鍋から――鍋の中には薄い布の袋に入れられた茶葉が見える――コップに移し、私に差し出した。


「……ありがと」

 お礼を言いながら受け取ると、赤茶色に揺らめくお茶の表面から湯気が立ちのぼり、ほのかな花の香りが鼻をくすぐる。


 ルークスは自分のコップにもお茶をいれ、口元まで持っていくと、ふうっと湯気を散らした。


「――デュー。たぶん、俺よりも……お前が嫌な思いをすると思う。だから、『無理するな』は、俺の台詞」

「……私が?」

「ああ。……あの魔物、雷を使っただろ。偶然なのか、必然なのか……それすらわからないけど、『魔力の器』らしき奴が現れて、そいつが『雷』を使ったんだ。……言われないわけがないんだよ」


 応えたルークスは、悲しそうに瞳を伏せた。


 ……ああ、なるほど。

 ルークスがティルファさんを生き返らせようとしているって噂のことを言ってるんだ。


 確かに、それはあるかもしれないよね。

 しかも、ルークス……というか、私たち王立魔法研究所が指揮を執るようになったら、尚のこと文句を言いたい人たちが出てくるだろうし。


――だけど、それなら……私がやれることは、決まってるんじゃないかな?


「――それだけじゃない。この魔物を、王立魔法研究所のせいにされるかもしれない」


 そう言ってコップの中身をゆらゆらさせるルークスに、私は二回、頷いた。


「――じゃあ! 広報の出番ってわけだね」


 たっぷりの間が空いたあと、ルークスは顔を上げ、眉間に思いっ切り皺を寄せた。


「……うん?」


 


本日分ですー!

ぽつぽつ空いてますがっ

引き続きよろしくお願いします!

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