戦いの輪舞曲④
******
星々が見下ろす、夜の平原。
魔物へとかけていく三人――アスト、ランス、ウイングは、すでに己の武器を構えている。
アストは騎士団の長剣、ランスは風の刃を、ウイングは水の球を。
私とルークス、メッシュは、少し離れた位置でいつでも追撃できるよう、黒い魔物とその回りを警戒した。
「先制攻撃はもらったぜっ!」
ランスが、魔物から離れた位置で刃を振るう。
ランスの刃は、二本。正しい表現なのか自信はないけど、逆手に持った双剣……のように見える。
その刃は、闇に浮かぶ竜巻のような、渦巻く空気だ。
離れた位置にも関わらず、刃から放たれた風がぐんっと加速して、黒い魔物にぶち当たり、弾けた。
すぱりと斬れるなんてことはなかったけど、魔物がぐらついたから、効果はあるようだ。
「次は私ですわ」
ウイングが水の球を投げ上げる。
これは、ミミズ討伐のときも見た魔法だった。
鋭い楔のようなものが、その球からいくつも飛び出して、ビュンビュンと音をたてながら魔物へと降り注ぐ。
フォン、フォン……と耳鳴りのような音がして、魔物が動いたのはそのときだった。
体を支えている触手の一本が、ずるり、と動いて……。
「っ、危な……!」
「大丈夫だ、デュー」
声を上げ、飛び出しかけた私を、ルークスが落ち着いた声で応えながら左腕で制する。
「……ふっ、は!」
触手はウイングへと、一直線に伸びた。でも、それをアストが地面すれすれから切り上げる剣で弾き上げ、返す刃で一刀両断!
バチィッ!
弾ける光とともに、触手の先端が吹き飛んだ!
「わ、アスト……すごい!」
思わず歓声を上げた私は、三人の動きを見逃すまいと目を凝らす。
ウイングは、アストの行動が当然のように、一歩も動かずにいて、さらに槍のようなものを練り上げていた。
「――いきますわ!」
「よっし! もう一度!」
呼応したランスが、再び風の刃を飛ばす。
それに反応して、触手を波うたたせた魔物の本体へと、水の槍が突き刺さり、弾ける。
「……はっ!」
そのあいだに肉迫していたアストが、黒い魔物へと剣を横薙ぎに払った!
ギィンッ!
鈍い衝撃音。アストの剣がどれほどの傷を穿ったのかは、私からはよく見えない。
だけど、黒い魔物がぐらりと傾いで、隙ができたように思う。
「とどめ! もらったぁーッ!」
そこに、すかさずランスが駆け寄って、至近距離から刃を……と、その瞬間。
私の隣で、ルークスが切羽詰まった声を上げた。
「馬鹿ッ! 離れろランス!」
傾いだ魔物がちかり、と瞬いて――――魔法だ!
至近距離からの一撃は、避けるには遅く、判断を誤れば致命的なのは明白。
「……ッ!」
ランスが、とっさに両腕を交差させ、身を守る。
彼の周りには風の膜が形成され、放たれた魔法を少しでも遠ざけるように展開されて……!
「――護れ!」
彼を助けたのは、メッシュだった。
メッシュが掌を地面に叩きつけたとほぼ同時に、ランスと魔物の間に、土の壁がせり上がる。
ズドン! と鈍い音がして、壁の向こうでなにかの魔法が弾けたようだ。
土の壁がボロボロと崩れて、ふたたび向こう側が見えたときには、黒い魔物の体勢は立て直されていた。
「迂闊ですわ、ランス!」
「はー、危ねぇ! 悪い悪い!」
ウイングに責められて、ランスは飄々と距離をとったけど……。
「もー、君ってば詰めが甘すぎるんだよ!」
「う、悪かったって!」
メッシュにも怒られて、首を竦めた。
「――ルークス。もう一体は出てきそうにない。指示を出せ」
ひとり、冷静沈着なアストが、剣を斜めに構えて言う。
ふう、とため息をこぼして、ルークスは手をかざした。
「仕方ないか。各自、離れてくれ」
「あら、ルークスがとどめを刺しますの?」
「ああ。魔法への耐性が高いように見えるから、ちょっと試したい」
「仕方ねぇなぁ」
ウイングに答えたルークスに、ランスがわざとらしく、大袈裟に戯けてみせる。
アストは黙って剣を引くと、黒い魔物を見据えたままするりと距離を取った。
「五段階くらいでいくか。……デュー、ウイング。警戒を続けておいてくれ。メッシュ、アスト。魔物の状態を段階別で見ておいてくれるか?」
「あれ? おい、俺……」
「は、はい!」
指示に返事をして意気込む私に、ルークスは柔らかい笑みを向けた。
「近くから、離れすぎないように」
「いや、え、俺は……?」
「じゃあいくぞ」
「お れ は !?」
所々ランスが言葉を挟むのを、さっぱり流していたルークスは、今度こそ大きく唇を緩めた。
「ランス! お前は俺の補助だ!」
「! お、おう!」
意気揚々とルークスの隣に並ぶランスは、ルークスと同じように手をかざす。
ふたりの掌に、魔力が形をなし、光が集まった。
予約投稿時間間違ってました……
こちら、昨日分です!
空いてしまったので、今日も投稿できたらいいなっと思います!