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消えない傷の鎮魂歌⑦


******


 翌日。

 早朝に、私たちは飛び立った。

 

 翼竜は全部で五頭。


 王立魔法研究所に、翼竜がこんなにいると思わなかった……!

 彼らをひとりでお世話しているなんて……メッシュ、すごいんだなぁ……!


 紅蓮の翼竜に私とルークス、白い翼竜にアスト、蒼い翼竜にウイング、黒い翼竜にランス、そして、最初に乗せてもらった赤茶の翼竜にメッシュが跨がっている。


 見たところ、翼竜の種類はバラバラ。色だけでなく、体格も、容姿も、それぞれ違う。


 先頭を行くのは私とルークスが乗る紅蓮の翼竜。昨日の夜に見たあの龍だ。五頭の中では一番大きくて、金色に輝く力強い眼をしている。その皮膚は硬くて、岩のようだった。


 私たちは、翼竜の首根っこあたりに括り付けられた、特注品と思しき鞍に跨がっている。

 落下防止のベルトが据え付けられ、しっかりと体を固定して乗る感じだ。


 そのほか、空は冷えるらしく、足元から頭の天辺までしっかりと防寒装備。


 丈が長く、綿が入っていてモコモコの黄みがかった白い外套に、同じように作られ、内側に毛皮が貼られた膝丈の厚手ブーツと手袋。

 これを服や装備の上からしっかりと着込むのである。


 メッシュと少しの間だけ翼竜で飛んだときと訳が違うのは、すぐに実感した。


 常に体に当たる空気が冷たい。体温はどんどん奪われるはずで、厳重すぎるんじゃないかと思った防寒装備が、どれだけ重要かわかる。


 ごおごおと耳元で風が唸り、凍えるような冷たさで耳が切れそうだ。

 襟の部分が鼻の上までくるように設計された外套は、フードを被ると目元だけしか出ないようになっていて、私は深く被ったフードをできるだけ肌に密着させるように、しっかりと紐で絞った。


 はるか眼下に広がる海、そしてあっという間に王都を越えて、翼竜たちは滑るように空を裂く。


 綺麗な隊列を組んで飛ぶ翼竜を下から見たら、きっと綺麗なんだろうな。……飼われてるなんて知らなかったら、竦み上がっちゃうかもしれないけど。


「デュー、寒くないか?」


 あれこれ考えていると、後ろに座っているルークスの声が耳朶を打った。

 少しくぐもって聞こえるのは、吼え続ける風と外套のせいだろう。


「あっ、うん。大丈夫……」


 メッシュのときも思うけど、仕方ないとはいえ、この距離は緊張してしまう。


 知ってか知らずか、ルークスは私に見えるよう腕を伸ばして、広がる草原に走る街道を指さした。


「この街道にも魔物が何体か出てる。騎士団が街道を封鎖して、王都と隣り合う町の間にいた魔物討伐は完了してるんだ。……王都の生命線だから優先されるのは仕方ないけど、それよりも先にいる魔物がかなり残ってる」


「……うん」


「俺たちは町をふたつ越えた先の魔物を討伐する。正直、手こずることはないと思ってるけど……問題は、倒した魔物が溶けることのほうなんだ。俺たちは指揮権を取って、この魔物がなんなのか、調査する必要がある。デュー、俺の研究は『魔力を溜めることができる鉱石を使って、魔力と記憶の関係を調べること』だって話したの覚えてるか?」


「はい。私の仕事が広報だって決まったときに」


 大事な話をするのだからと、かしこまって返事をした私に、ルークスがちょっとだけ笑ったような気がした。


「そっか。……俺はこの魔物が、魔力を溜めることができる鉱石の応用でできた、魔力の『器』だと考えて……こほん。つまり、こっからが俺の話になる」


 ルークスはふーっ、と息を吐き出してから、しっかりと私に聞こえるように話し始めた。


◇◇◇


 いまから話すのは、王立魔法研究所の歴史といってもいい。

 まだ設立から三十年、当時三十代だった王は健在で、この剣の国……ジェスタニア王国を率いている。


 王は公平だ。

 隣国の魔法研究が進んでいることをわかっているし、いまの危うい状況をなんとかしようとしていると思う。

 同時に、国民の魔法への感情も知っていて、王立魔法研究所の扱いは、慎重に行われてきた。


 今回の魔物討伐についても、俺たちに指揮権を渡すということが、国民や騎士、貴族たちに影響があることをわかっていて……決めてくれた。


 ……いまなんだ。いま、俺たちが……ここで力を見せて、少しでも認められれば……この国が変わるきっかけになる。


 だからデュー。これから話すこと――それで感じたことを……教えてほしい。



 三十年前……王立魔法研究所が設立され、初代の所長に任命されたのは、俺の親父だった。


 剣だけでなく魔法の才能もあって、いくつもの魔法を使いこなすことができる人でさ。


 親父はその才能を王に買われ、騎士から所長になったんだ。


――驚いたか? そうなんだ。騎士には、魔法が使える奴がいる。いまもそのはずなのに、名乗り出る者はいないけどな。


 俺の母さんは、俺が十歳になったとき、出ていった。

 親父が王立魔法研究所の所長だったのもあって、酷い魔法差別に苦しんでいたからだ。


 石を投げられるのは当たり前。腐った卵も当たり前。……魔法を使える奴は出ていけと、買い物ひとつさせてもらえなかったこともある。


――あ、でもな。親父も母さんも、ちゃんと俺と話してくれて、俺は自分で選んだんだ。ここに残り、魔法差別と戦うことを。母さんを苦しめた差別を、いつかなくすと。


 だから、それからは積極的に研究を手伝った。


 元々、俺が火の魔法を使えることはわかっていたし……研究所では好き勝手練習もできたから、鍛練し、魔法を学ぶことは簡単だったんだよ。


 で、ここからが本題だ。

 気持ちのいい話じゃないし……俺のこと、軽蔑するかもしれないけど……聞いてくれ。


本日分の投稿です!

ちょっと暗い感じが続きますがよろしくお願いします……!

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