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死亡まほスピンオフ集  作者: 竹内緋色
でんせつのまほうしょうじょのでんせつ
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25. そして伝説へ


25. そして伝説へ



「こんなところにいたのか」

 朝日が差す平野のど真ん中。俺と美姫のもとに緑子と水羊羹が訪れる。ツキカゲも一緒にいるだろう。

「準備はできたのか」

「我に準備をさせるとは、なかなかの度胸だな」

「ありがとう。立花」

「いえいえいえ。姫様のためなら火の中水の中、あの子のスカートの中」

「?」

 ガチャガチャとという音が波のように押し寄せてくる。

 無数の鎧姿の男たちが平行に並び立っていた。田んぼのぬかるんだ土の中では馬など使えない。故に大将たる城主までもが馬から降りている。

「まさか、殿様同士が大将を務めるとはな」

 それだけ真剣であり、互いのプライドをかけた勝負なのだと分かる。

「おい。鬼。そこで何をしている」

 美姫の父親のハゲが兵の列から飛び出してくる。帽子なんざ被って、おされ気分かよ。

「水鏡よ。そなたもだぞ」

 もう一方の列からもハゲが。水羊羹の父親もハゲだったのか。

「あーあー。マイクテストまいてす」

 両者とも結構離れた場所にいるから、頑張って声を出さなくちゃいけない。

「缶蹴りしようぜ!」


 缶なんてものはありはしないので、村から竹を切って持ってきた。遮蔽物のない平野で缶蹴りは難しいので、11人の選抜で相手の陣地に缶を入れた者の勝ちとする。

「どうだ。この掟は」

「馬鹿々々しい」

「こ奴らなど放っておいて――」

「負けるのが怖いのか?」

「なんだと?」

「なにを?」

 やべー。こいつら、簡単に乗せられすぎだ。

「戦の前哨戦としてやればいいだろ。遊戯ですら勝てない方に戦での勝ちはあり得まい」

「ふん。勝つのは我々だがな」

「いいや。我が軍だ」

 二人ともハゲだからどっちがどっちかわからん。どっちも一まとめにハゲか。

「後は頼んだぜ」

 緑子たちに審判を任せて俺は一人平野を去る。

 俺は俺の決着をつけなくちゃいけない。


 全てが始まった場所。そこは遠く離れていて、別の世界なわけだが、この世界において全てが始まった場所にそれはいる。

「待ってください。フランちゃん」

「ついてくるなよ」

 嫌だったら本気で怒ったりしただろう。でも、今の俺は怒る気になれなかった。むしろ、とっても心強かった。

 さらさらの汚れを知らぬ砂を踏みしめる。それ以上何も言わずに俺と美姫とは歩き続けた。

「フランちゃんと私が出会ったのはここだったね」

「さっき、何も言わず歩き続けるってモノローグしたばっかりだろ。空気読め」

「空気読めてないのはフランちゃんの方だよ」

 美姫には珍しく、自信にあふれた言い方で少し不満だった。

「私には分かってる。フランちゃん、なにかするつもりでしょ」

「……」

 否定してしまえばよかったのに、とっさに言葉が出てこなくて、心のどこかがブレーキをかけてしまって、言えなくて。妙な間ができちまったから余計に言えなくなっちまった。

 全てを打ち明ける時なのだろう。何も打ち明けずにこの世界を去るのは俺が嫌だった。

「ボクは――世界を一つ壊してしまったんだ」


 ボクたちは遠い宇宙から訪れた。この世界ではなんと表現すべきなのか難しいところだけれど、簡単に言えば宇宙の神様みたいな存在の使者として生み出されたんだ。その目的は人間の可能性を見極めるため。

 人間という存在は存在するだけで並行世界を作り出す、知的生命体。その認識力はもうすぐ次元を超えつつある。そのための試練、とでもいうのだろうか。

 並行世界の中の、今よりずっと後の世界。ボクはその世界で使命を果たした。

 ボクの使命は願いを叶えること。

 あらゆる人間の願いをボクは叶え続けた。

 あらゆる問題が解決して、世界は平和になった。

 でも、それは長くは続かない。

 人間の独占欲は、ボクを巡って争いを始めたんだ。

 世界を巻き込む戦いが始まった。国家規模なんてものじゃなくて、隣の人間は愚か、自分の家族すら殺すような戦いだった。誰もが自分だけが幸せになりたい。そういうことだったんだろう。

 ボクは、その世界から去った。そして、次の世界へ行く。

 それがボクの使命。きっと何度も同じことを繰り返す。破滅しない並行世界を選定する。それが神の審判なんだ。

 でも、ボクを追ってくる存在がいた。

 それはたった少女たちだった。

 少女たちはすでに自分の意思がない。壊れた世界の人々の怨念を背負ってボクを追いかけて、そして、その姿は次元を超えるたび醜く変化していった。

 巨大な蟲の姿へと。

 ボクは向かう世界の時代を変えて、蟲から逃げきったんだ。


「でも、ボクらの目の前に蟲が現れた」

 この時代の宣教師の青年、フランチェン・シグノマイヤー。彼の情報概念を得た海に巨大な蟲が出現している。その醜い体に禍々しい気を纏いながら。

「あれは別の世界の人の怨念なの?」

「多分、違う。あれはこの世界の人々の無念。ボクがこの世界に来たせいで、生まれたんだ。みんなが急に戦いを始めようとしたのもこいつのせい」

 世界が戦争を引き起こすのか。それとも化け物が引き起こすのか。

 きっとそれはどちらも一緒なんだろう。

 人の心が悪いのか。環境が悪いのか。

 何が戦争を引き起こすかなんて誰にも分かりはしない。

「だから、ボクが――いや、俺が決着をつける」

 ぽそっ。

 そんな素っ頓狂な音を立てて、美姫は俺に抱きつく。

「辛かったんだね。フランちゃん」

 そんな言葉言わないでほしい。本当に辛くなる。

「私も一緒に戦う。だって、みんなが平和に暮らせる世界が欲しいから」

「でも、恐らくは――」

 言うのがためらわれる。美姫は、壊れている。自分が傷付くことをなんとも思っていない。故に、恐ろしかった。

「お前もただでは済まない」

 ビジョンが浮かぶ。

「でも、フランちゃんを一人にはできないよ」

「お前が一人になっちまうだろ!」

「フランちゃんだって一人にはできないもん!」

 ガキの言い争いかよ。ったく、こんな時に。

「フランちゃんはどうなの? フランちゃんはどうしたいの? フランちゃんはいっつもそうだよ! 自分のやりたいことを言わないくせに、誰かの願いばっかりかなえて!」

「それが俺なんだよ! 俺はそうすることでしか生きられない! 生きている意味がない!」

「違う! 少なくとも私たちはそう思ってない! フランちゃんは楽しかったんでしょ! みんなと一緒で! だから、この世界を守りたいって思った! もう、自分に嘘をつかないで!」

「お前だって!」

「私はもう嘘なんてつかない!」

 潤んだ瞳が俺を真っ直ぐ射抜く。

「私はフランちゃんと一緒にいたい! みんなが笑顔になる世界を作りたい! だから、一緒に戦おう?」

 俺だって、美姫たちと一緒にいたい。やっと、人間がどういうものなのか分かり始めたんだから。

「ごめんな、美姫。俺は弱いから。一人じゃ何にもできないから。ついてきてくれないか」

 情けない言葉だった。でも、気持ちは生まれて初めて軽くなった。

 気持ちなんてものが俺にもあったなんてな。


「くそっ。どういうことだ!」

「みんなやめなさい!」

「落ち着いて!」

 仲良く缶蹴りをやっていたはずの平野。鎧など脱ぎ捨てて缶を蹴り汗を流していたはずが、急に様子が一変してしまったのだ。

「だめでごじゃりゅ。なにかにとりつかれたようにだれもみみをかさないでごじゃりゅ」

 刃物のぶつかり合う音と、怒号と、そして、命が散っていく音と。

 それらが一つの生き物のように動いていた。

「あれは一体……」

 緑子たちの目には怪物が映っていた。蟲の幼虫のような化け物。山ほどの大きさはある化け物が喜ぶように体をうねうねとさせている。

「だれも何も気がついていないようだな」

「あれは妖怪ね。これは妖怪の仕業だわ」

「うさんくさいでごじゃりゅ」

「でも、わたしたちも危ないよ。囲まれちゃってるし」

 目を血ばらせた武士たちが緑子たちを囲んでいた。そこに正気があるとは思えない。

「やるしかないようね」

 水羊羹の言葉に、一同戦闘態勢を整えた時だった。

 その時であった。

 血の滲む戦場に一筋の光が!

「作者、やる気無くしてるんじゃないのか?」

 だって、さあ。すっごく真面目なシリアス展開だし、みあたみちゃんねるの生配信は予定より遅れてるし。

 光とともに空から落ちてきたのは白い衣装を纏った一人の少女だった。

「美姫!」

「いいえ。私は魔法少女ミキ。ドヤァ!」

「ドヤァってどうなのよ」

 魔法少女ミキは笑顔で杖を手にする。

 その笑顔を見た瞬間、緑子たちは息をのんでしまった。

 その笑顔があまりにも、悲し気だったためである。

「姫様! 一体なにを!」

「ごめんね。みんな。私はもうみんなのもとには戻れない」

 緑子はミキに手を伸ばす。しかし、ミキは空へと昇って行く。

「私たちを。私とフランちゃんを守って欲しいの。私たちの答えが出るその時まで――」


 願いを叶える存在とミキは空を翔けながら話をしていた。

「ねえ、ボクはこの世界に必要なのかな。願いを叶える魔法は必要なのかな」

「分からない。でも――」

 ミキは戦場と化した戦場へと舞い降りる。

「あなたはこの世界にいていい。それだけはわかるよ」


 この世界で初めての魔法は、人々の憎しみから作り出された怪物を消し飛ばした。

 そして、始まりの魔法少女は、再び姿を見せることがなかった。

 残されたのは、肉体を失った願いを叶える存在だけだった。

 始まりの魔法少女に縁のある少女たちは祠を作り、その祠の中で願いを叶える存在は眠りについた。長い、長い間。

 縁のある少女たちと、戦場にて救われた者たちははじまりの魔法少女の奇跡に感謝し、祠を守り続けることに決めた。

 祠に祀られている存在から、祠を守る一族を鷺宮と名乗ることに決めた。そして、鷺宮家を守り、維持していく存在として波野、月影、立花という一族が作り出された。


 それが全ての始まり。

 伝説の、終わり。


「これで、ボクたちの、そして、魔法少女たちの物語は一端終わりを迎える。でも、まだ終わりじゃない。もう少しだけ、物語は続く」



伝説の魔法少女の伝説 Fine.


作者の感想と言い訳は、死亡まほ外伝 すごいよ!コロネちゃん!へ。

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