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死亡まほスピンオフ集  作者: 竹内緋色
でんせつのまほうしょうじょのでんせつ
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5 うたをうたうとき

5 うたをうたうとき



 朝。肌に湿気を感じて目を覚ます。

 下腹部には違和感が。

「いやまあ、ラブコメのお約束なんだろうけどさ」

 俺は毛布とは名ばかりの布を引っぺがす。

 そこには俺の足にしがみつく和服姿の幼女の姿。

 むんずと俺の修道院服を握っている。

「幼女が布団の中潜っていてもなぁ」

 美姫は譫言のようにむにゃむにゃと呟いた。

「かあさまぁ」

 ああ、コイツもまだまだ子どもなんだなあ、とみなさん思っただろう。

 でもね、コイツ、もう12らしいですよ。12才が母親の譫言て。幼すぎるだろ。

「コイツはどうしたいんだろうな」

 俺は昨日のことを思い出す。

 願いは何かとボクが尋ねた時、美姫はこう言った。

 村のみんなと仲良くなりたい、と。

 母親のことを無意識に求めているくせに、母親のもとに帰ることを望まず、村の人々と仲良くなることを望んだ。つまりは、美姫は、この村に居続けることを望んでいるとも考えられる。

 それは、本当にこの村に残っていたいのか、はたまた、戻れない理由があるのか――

 俺の知ったことではないか。

「おーい。起きろ。クソガキ」

 俺はモチアイスのような頬を抓る。柔らかさもさることながら、餅のようにのびるのびる。

「ふぎゅあはっ。なんだか痛いですっ!?」

 美姫が目を覚ますと同時に俺は指を離す。

 ゴムのようにもとに戻っていった。

「なんですか。私を起こすには王子様のキスしかないのですよ!?」

 悪戯っぽく言ってみてくれるけれども――

「無理して大人びなくていいぞ。あと30年後にすればストライクだった」

「死んでますよ!?骸骨の姿になってまでフランちゃんの布団に潜り込みましょうか!?」

「嫌なことを言うな!それと、お前はわざと潜り込んだのか!?」

「だって、昨日フランちゃんが無理矢理私の体から布を引っぺがしたんじゃないですか」

「そうだな。その通りだ。俺は昨日お前から布を引っぺがした。この毛が無い毛布をな!」

 決して幼女を裸に剥いたとかそういう意味ではない。分かってくれるだろ?読者諸君。

「寒かったので、潜り込みました」

 まだ春先なので夜間は冷える。特に近くに川が流れていると朝方まで寒かったりするのだ。

「それよりも、飯にしようぜ」

「そうですね」

 俺たちは支度を始める。

 火打ちは少し上達した気もする。藁が湿り気味なので、昨日と同じくらい時間はかかったが。火がつくまでの間、美姫は鍋の用意をしていた。

 炊飯器や釜ってのはすごい文明の利器だったんだな、と思わざるを得ない。

 便利って最高。

「フランちゃん。申し訳ありませんが、川から水を汲んできてもらえませんか?」

 火をつけ終えた囲炉裏の中に木材を放り込みながら美姫は言った。

「構わないが、火の扱いは大丈夫か?」

「もう。子ども扱いしないでください」

 確かに、コイツは12だったな。俺の目には3才くらいに見える。

「何か言いましたか?」

「いや、気のせいだ」

 ラブコメの定番。思っていたことを当てられそうになるスキルが発動する。そう思うとラブコメってのは恐ろしいな。

「どれほど汲んでこればいい?」

「そこの樽に二つほどお願いします」

「往復すればもっと汲んでこれるが?」

 樽とはいえ、バケツ程度のものだった。これなら何往復かできる。

「樽が二つしか支給されてないので」

「なるほどな」

 この村は用具類が支給制になっている。貴重なものを分け合っているといえば聞こえはいいが、よそ者に関してはやっぱり不遇な扱いになっている。

 まあ、働けば働いただけ、ある程度の報酬は貰えるらしいが。

「共産主義かよ」

 別に共産主義を悪く言うつもりはないが、村長の裁量で支給やらなんやらが決まるのだから不満ではある。よそ者かつ戦場に行かない俺への支給は最低レベルになるのは当たり前か。食っていけるだけマシだと思わねば。

「ということは恐らく、田畑は村の共有財産か」

 この村の人間は何を願っているのだろうか、と俺は疑問に思う。この村には富がない。ある富と言っても、井の中の蛙程度で、欲望には底が見えている。狙って村長の座くらいで、他の村の土地を奪って裕福になろうなんてのはあまり考えていないだろう。生きていければそれでいいという本能のみで活動している。

 それ故に、力を手にした時の反動は凄まじいだろう――


 川への道には多くの子どもたちが歩いていた。母親が料理の支度をし、子どもは水を汲みに来ているのだろう。

 そこには見知った顔がいた。

「よお。緑子」

 俺はフレンドリーに声をかける。

「気安く話しかけるな」

 カウンター並みにはじき返される。ガードの硬い女は……どうなんだろ。別に好きでも嫌いでもないな。

「なんだよ。俺とお前の中だろ」

「いや、普通に馴れ馴れしいだろ」

 すごく冷静に返される。

「俺と目と目があった瞬間にそいつはおともだちになるんだ。なにせ、博愛主義者だからな」

「なにをよく分からないことを言っている」

 俺と緑子の仲が悪いと錯覚したのだろう。赤子が泣き始める。水を汲みに来ていた少女の背中にいた赤子だった。

 すると、赤子の涙が伝播するように周りの小さな子も涙目になり始めた。

「お、オイ。お前ら。大丈夫だって」

 緑子はおろおろしていた。

「やーい。泣かせてやんの」

「子どもか!てか、お前のせいじゃろ!」

 緑子は俺の胸を叩く。乳首に当たってちょいと痛い。

「な、泣き止めって」

「緑子が川に放り込むぞ」

「お前は黙ってろ!」

 しかしまあ、村に来て早々に騒ぎを起こすわけにはいかないしな。

 俺のテクニシャンなテクニックを見せる時が来たようだ。

「ふっ。はっ。ははっ」

「なにをやっとるんじゃ」

「ウルトラ拳法さ!」

「清々しく言ってもなにも変わらん!」

 赤子の鳴き声もやまない。こりゃ、そのうち騒ぎを聞きつけて村人が来るかもしれんぞ。少女は必死に赤ん坊をあやしているが――

「こうなったら、子守歌だ。緑子!」

「なんでわしなんじゃ!」

 だが、事態は一刻を争う。

「俺も、出来れば使いたくなかった……」

「な、なにを」

 でも、緊急事態だから仕方がないよねっ!

 俺は胸を大きく反り、息を肺いっぱいに行き渡らせる。

 そして、思いっきり息を吐いた。声帯を震わせながら。

「可愛い可愛い緑子ちゃんの綺麗なお歌を聞いてみたい」

 リズムに合わせて、手を叩く。

 一気強要音頭。

 みんなは真似しちゃいけないぞ。

「お、おい。煽るなよ!」

 だが、周りの子どもたちは俺の仕草に面白がって、一緒に手を叩いて歌い始めた。

「聞いてみたい」

「緑子たんの」

「綺麗なお歌!」

 緑子は顔を赤くする。

 どうも、ガキどもに煽られては断れないらしい。

「お、お前が歌えよ」

 最終手段。俺に振る。でも、対処法が俺にはあった。

「緑子。おっさんの歌声を誰が聞きたいと思うんだ?いいや。思わない。読者がお前に歌うことを望んでいるんだ」

 むしろ強要してるな。

「訳が分からない!」

「大体分かったな」

 緑子はがっくりとうなだれる。観念したようだった。

 緑子は一瞬息を吸い込むと歌を歌いだす。

「天は東に。地は西に。境界を彷徨う己は天地を分ける。その号砲のなる先の、丘の上の草木の種子よ。響く音に急かされて新たな芽吹きを地面に施す。風よ、風。祈りの息吹を運んでおくれ。どこまでも遠くに続くあの子へ」

 民謡のような歌だった。多分上手いのだろう。声優が詩を歌うと大抵が上手いし、歌が上手くないと最近は声優なんてやってられないものな。

 拍手が沸き起こる。

「いい歌だったぞ」

 俺はナチュラルに褒めてみる。これで緑子は俺の虜だな。

「誰が誰の虜だって?」

 足の脛を蹴り飛ばされた。

 しまった。思いっきり思考が口に出てしまっていた。

 そして、足がとっても痛い。


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