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死亡まほスピンオフ集  作者: 竹内緋色
キミといた季節
32/60

拾弐。 フィナーレ!世界は私が救います!

 前回のキミきせは――




 大変!ワームのボスが出て来ちゃった!?


 ユウ、とってもピンチです!


 でも、勇気を出して飛び込むと、私に新たな力が!?


 新しい力でみんなの世界を救います!




 キミといた季節、はじまります!





 2005年 11月 12日 午後6時




 冬が緩やかに足音を忍ばせ、夜の始まりもまた早くなりつつあった。


 静かなる夜の始まりにひときわ大きく響く吐息があった。激しく息を切るような吐息。


「ハァ、ハァ。殺される……殺さないと今度はわたしが殺される……」


 赤いフリルのついたミニスカートが季節外れの少女は冷たいはずの地面に腰をおろしている。目は常に地面を睨み、その焦点は定まらない。白く美しい、ミニスカートから伸びた素足が夜の中でも浮き彫りになっていた。


「一体倒したくらいでその調子ドリルか」


 白いワイシャツを着た男はフリルばかりでできているようなドレスを着た少女の顎を右手で支える。そして、男は少女の口に指を突っ込む。


 少女は何も感じていないように、ぼんやりと男の顔を見つめていた。


「はざーどれべるが3.2からぎりぎりの3.0まで低下しているドリル。そんなこともあるドリルね」


 男は少女の口から全ての指を抜き取る。その間も少女は表情一つ変えない。


「殺されないためには殺さないといけない。やらないといけない、やらないといけないんだぁあぁあぁあぁあぁ!!!」


 少女の叫びは奇声となった。


 少女は心ここにあらずといった表情でひたすら甲高い奇声を上げ続けている。


「何が起きたドリル?ニンゲンの習性ドリルか?」


 男はヘチマのようなぬいぐるみに姿を変える。


「なんとなく、ニンゲンという種の起源であるサルという動物に似ているドリル。やはり、生物の本能という奴ドリルね」


「随分と言ってくれるじゃぁないかぁ」


「!?」


 妖精イスカは突如として現れた、前代未聞の空気に体をこわばらせる。


 イスカはヒリヒリと肌にしびれを感じた。


(感じた……だと?)


 夜の闇を全て呑み込むかのような姿で白い魔女は夜空から降り立った。


 白い髪は夜空の闇の中では目立つはずであるのに、闇の中こそ居場所であるかのように夜の暗さと調和を果たしていた。


 奇妙なほどに美しく心奪われる琥珀色の瞳はひたすらに一点を見つめ続けている。


「まさか、キミは――」


「ああ、そうとも」


 しわがれた忠誠的な声はイスカの知る少女とはかけ離れたものだった。


「我はザウエル。魔女、ザウエル。世界を破壊し、世界を救うもの」


 ケハケハケハ、とザウエルの笑いは夜の静寂を打ち破る。


「魔女……」


 イスカは目の前の存在に恐れをなしていた。


 自分は取り返しのつかないことをしでかしたのだと、妖精であるイスカはそう思った。


「どうして……魔女になってしまったドリル!」


 ザウエルは静かに笑う。


「我の名を思い出せるか?妖精」


 イスカは少女のかつての名を声に出そうとするが、イスカの中から急に少女のかつての名が消えてしまい、イスカは少女の名を呼ぶことができなかった。


「ウックック。ウプハハハハハ!」


 ザウエルはイスカに対する答えであるかのように右手を大きく頭の上へと突き出す。


 その瞬間、イスカはあまりの恐怖に眩暈を覚えた。


 ザウエルの背後の空間はファスナーを下ろしたかのようにぽっかりと穴が開いていた。


 イスカにはその穴の先がどこに通じているのかが分かっている。


 世界と世界の狭間。世界の生まれ出る場所。ワームと、そして、妖精たちが本来生息しているはずの空間――


 世界の生まれる場所に通じる穴から巨大な頭部が顔を出す。否。それには顔などついてはいない。憎しみのあまり、顔さえも失った、完全純粋な感情。その化身が一体、二体、三体と顔を出していく。


「モ、モエ!ワームが現れたドリル!」


 地べたに座り込んでいた少女はその言葉に大きく肩を震わせる。


 蒼白な顔を現れた三体のワームに向けた。


「い、いや!いや!いやぁあぁあぁあぁ!」


 魔法少女モエはバトンを振り続け、迫ってくるワームに魔法を振りかけ続ける、


 魔法を浴びたワームは解け出た蝋人形のように体の肉を垂らしている。それでもワームの動きは止まることがない。


 モエの放った魔砲を白い魔女は素手で弾き飛ばす。


「足りないね。そんなんじゃ、魔女一人倒せない。自分の弱さを永遠に後悔することだ」


 ザウエルは呪いのこもった言葉を紡ぎ出す。


「世界にキミは独りぼっち。キミは隣にいるキミに話しかける。けれどもキミも言葉に耳を傾けるのはキミただ一人。故にキミはキミ自身の言葉に答えなければならなくなる。食べるものも何もない。そして世界にはキミ一人。キミは空腹に耐えられず、キミ自身を食らうだろう。キミの腹に入っているのはキミ自身。キミを腹の中に入れて消化しようとしているのもまたキミ自身。世界にはただ一人、キミしかいない。それがどれほど残酷で、そして素晴らしいことか」


 モエは耳を塞ぎ、奇声を上げ続ける。


「やめて!嫌だ!助けて!誰か!わたしを助けて!」


 頭を抱え、モエは苦しみだした。


 そして、憑物が落ちたかのように急に大人しくなる。


「モエ……?」


 イスカが恐る恐る問いかけるものの、モエは反応を示さない。


 光を失った瞳でモエは譫言を呟き出す。


「そっか……簡単なんだ……死ねば怖くない……なにも怖くないんだ……」


 モエはバトンを掲げ、クルリとバトンの方向を変える。バトンの先をコンパクトのついている胸の中心に向けた。


 そして――


 まるで電灯のボタンを押すようにさりげなく――


 何事もなかったかのように――


 するりとバトンは魔法少女の胸を貫通した。


 バトンと魔法少女衣装は少女の息の根とともに消失する。


 穴の開いた少女の胸からはバサバサと血液が飛び散っていく。


 酸っぱく、そして、生々しい匂いが辺りに充満した。


 命が終える、死の匂い。


 それは決して不快なものではなかった。


 イスカの体に少女の生の過去と死の現在が降りかかっている。


 イスカは生の飛び散る匂いが不快でないことが最も不快だった。


「あはっ。あははははは!」


 ザウエルは少女の穴から吹き出す血潮を、シャワーを浴びるように身に受けている。


「これも全てキミが悪いんだよ。イスカ!名を奪われて帰る場所さえ残されていない魔法少女の、その名を呼ぶことさえできないだろう?キミが、いや、キミたちがやってきたことは、そして、これからも続けていくであろうことはこんな程度では復讐にさえならないんだ!」


 少女の亡骸から血は消え去った。


 ザウエルは未だ立ったままの少女の亡骸を、興味がなくなったという風に蹴り飛ばした。


「キミは我の両親をどう処分したんだい?彼女も――いや、彼女だったモノもきっと同じように処分するのだろう?」


 ザウエルの狂った笑い声は夜の空に赤い月を作り出していた――




2015年 1月3日




 赤い月が輝いている。


 ぼくの目の前にはぼくが傷付けた少女。


 その少女がぼくの足の爪に爪切りを添えている。


 最後の爪。これを切られることでぼくは世界から姿を消す。


 彼女は憎悪に満ちた琥珀色の瞳でぼくを睨んだ。


「世界の終わりを知る前に、一度、死というものを実感しておくといい」


 でも、ぼくは生き返るつもりはなかった。


「ずっと……ぼくはキミに許されるためだけに生きてきたんだ」


 パチリ。


 最後の爪が切られた。


 ぼくの体は消えていく。


 きっと、彼女は成し遂げるだろう。


 この世界の誰よりも世界の破壊を望む彼女であれば、きっと世界を終らせてしまう。


 ぼくは責任を放棄したに違いない。


 でも、ぼくにとっての10年間は地獄に等しかったんだ。


 だから、もう許してほしい。


 許されないとは分かっていても。


 ぼくはただ、遠くの星に、奇跡の源にそう願う他にはなかった。






 みんな!今まで私の活躍を応援してくれてありがとう!


 これからも頑張ってみんなの願いを叶えるために頑張っていくから!


 だから!これからも応援よろしくね!




 世界が終わるその日まで――

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