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死亡まほスピンオフ集  作者: 竹内緋色
赤い空、月の影
3/60

3輪 あかい み


「さて、今回も始まりました、『赤い空、月の影』。というか、一々タイトル長くない?」




「ツキちゃん、そんなこと言ったら元も子もないよ」




「タイトル、略して『いの』」




「分からない!何を略してるのかわからない!」




「はがないくらいならぎりぎり分かるけど、俺ガイルは本当に分かりづらかった!」




「じゃあ、分かりやすい略にしようよ。『あかつき』とか」




「どっかの二代目金ぴかみたいね。ちなみに初代金ぴかは正確にはガンダムに分類できるのよ。まあ、リックディアスもガンダリウム合金だから、ガンダムに入るわけ。でも、初代は合金使ってないし――」




「マニアック過ぎる!」




「では、あらすじも終わったので、今回の『あかつき』はじまるよー!」




「少しもあらすじになってないよ!?」





 ####





 この世界はわたしの知らないところで動いている。




 でも、それはとってもありがたいことなのだ。




 わたしの知らないところで自動的に世界は動いてくれている。




 それは誰かがそれぞれ少しずつ動かしているから自動的に思えるのだろう。





 そして――




 わたしが世界から目を逸らしているからそう思えるのだろう――






「おはよう。ソラちゃん」




「だから、私はツキだってば。ソラちゃん」





 朝の教室でツキちゃんはそう言う。





「おはよう、ツキちゃん」




「おはよう!」





 いつの間にかみんながツキちゃんと呼ぶようになっていた。




 ツキちゃんが魔法少女になったのは昨日のことだというのに。





「おはようございますなのですわ。お二人さん?」





 波野さんがわたしたちに挨拶する。





「おはよう、波野さん」




「あら、波野さんだなんて。私は司でいいのですわ――いいのでござるぜ!」




「とんでもなくカオスになっている!」




「あはっは。今日も司は面白いね」





 突然、波野さんはわたしの手を掴んでくる。




 柔らかくて、冷たくて、とても気持ちがいい。





「わたくしは君のことを絶対に離さないぜ」




「おお!?まさかの告白か!?」





 周りがぞわぞわしているので、わたしはひどく恥ずかしくなる。





「やめてよ……」




「ソラちゃんがわたくしを司と呼ぶまで絶対に離しませんわ――はなさないですます!」




「あら?それとも、ソラちゃん、ずっと綺麗でかわいい司の手を握っていたいのかな?」




「そ、そんなこと……」





 わたしは波野さんの手を振り払おうとする。けれどもピクリとも動かない。





「バカ力――」





 これはどうも観念せざるを得ないと思った。





「分かったよ。司……ちゃん」





 わたしはツキちゃん以外の子の名前を呼ぶのが初めてだったのでひどく恥ずかしくなる。





「はわぁ……かわいい……」





 司ちゃんは蕩けそうな目をしている。大丈夫なのだろうか?





「ぬへ。ぬへへへへ」




「戻って来い、コラ!」





 司ちゃんの背後から、頭部に向けてチョップが振り下ろされる。





「花火ファイアー・アーツちゃん!」




「おい、ソラぁ。なんで下の名前で呼ぶんだよォ」




「しもの名前?」




「した、だ!シタ!ルビをきちんと振っておけ!」





 もうすでに予鈴が鳴っていたので、先生が戸を開けて入ってきた。




 みんながそれぞれ自分の席に戻っていく。





「光。ちょっとぎりぎり過ぎよ」




「仕方ねえじゃねえか」





 光ちゃんは肩をすくめて自分の席に戻っていった。





 ######





 光ちゃんはかなりの頻度で遅刻してくる。




 そして、時々授業のはじまりに机にいないということがあって度々騒ぎになっていた。





「不良少女……」





 付き合っているとそうは感じないものの、やっていることは不良そのものだった。





「なんでそんなことをしているんだろう……」





 授業中一人でいる時の光ちゃんの横顔はとても寂し気で、そして、わたしたちの見えない何かと常に戦っているような、そんな気さえ起こさせる顔だった。




 そう思うとわたしは、すこし光ちゃんを放っておけないという気持ちになった。






 ※ 萌えが足りないということで。




 学校にフェンスを越えようとしていた光ちゃんを、わたしは見つけた。




 のだけれど……





「何してるんですか!」




「うわっ」





 光ちゃんのスカートから見えるパンツがドアップになっていた。





「脅かすんじゃねえよ」





 尻もちをついた光ちゃんのスカートのなかから、またも白いパンツがちらついている。





「作者、最低です」





 パンツが見れる上に罵倒してくれるなんて……





「それと、光ちゃん、何やってるの?」




「ああん?なんでもねぇよ」





 そう言ってフェンスを越えてしまった光ちゃんは学校の敷地からどこかに行ってしまう。




 昼休みまでにバレないように帰ってこられればいいけど。





「百合の花の匂いがいたしますのですわ」




「え?」





 振り向くとそこにはツキちゃんと司ちゃんが。





「プンプンするぜぇ。百合の匂いがぷんぷんすっぞぉ!」




「まだ錯乱気味なのね」





 どうも司ちゃんにはよく分からないスイッチがあって、そのスイッチに触れるととても暴走気味になるのだ。





「やる気スイッチ君のはどこにあるんだろぉおぉおぉおぉ!」




「や、やめて……」





 司ちゃんはわたしのいろんなところを触ってくる。





「そ、そこは……はぁん」




 ペシ。




 ツキちゃんは司ちゃんの首に手刀を食らわせて気絶させる。





「ソラちゃんも司を喜ばせるようなことをするから」




「そんな覚えはないけれど……」





 司ちゃんは意識を取り戻したようで、がばっと起き上がる。





「なんだかわたくし、ギャグ要員になってません?」




「初めからそうだから」





 わたしは光ちゃんの向かった先を目で追う。





「ねえ、光ちゃんって不良なの?」





 そうわたしがそう言うとみんなが笑いだす。





「わたし、真剣に言ってるんだよ?」




「ごめんごめん。そうか、光が不良になるのか」




「モヒカンで登校したりするのですわ。ヒャッハーだぜ、ですわ。……だぜ!」




「とんでもなくややこしいよ……司ちゃん」




「もっと司ちゃんって呼んでくださってもかまいませんわ。いいえ、是非とも、


『司、愛している』と……」





 司ちゃんを無視する。





「つまり、ソラちゃんは光にとっても興味があるってことね」





 とても司ちゃんが鼻息を荒くする。





「わたくし得ですわ!」




「じゃあさ、ちょっと光のことつけてみようか」





 ######





 ようやく光ちゃんを見つけたのは、スーパーの前だった。





「重そうな荷物……」




「ここで不用意なことを言ってはダメよ。メスゴリラとか」





 すると、光ちゃんがさっとこちら側に目を走らせる。




 わたしたちは素早く隠れたけれどもばれてしまったかもしれない。





「ほら、こんな風に」




「ツキちゃん。心臓に悪いよ」




「ほら、光がさきに行きますわ」





 わたしたちは、ビニール袋を両手にぶら下げながらも走って行く光ちゃんを追う。





「すごい体力!」





 運動神経の良くないわたしにとっては驚きだった。





「でも、どうしてお買い物なんか……」





 これは何かの事情がありそうだとわたしは感じていた。





「ほら、ここが光の家」





 光ちゃんの入って行った家に着く。




 平屋建てでそこそこ古い家だった。





「ただいまー」





 光ちゃんの声が響く。





「おかえり!」





 幼い声がそう言う。





「ほら、ここから覗けるのですわ」




「どうして知ってるの……」





 司ちゃんが手招きするのでわたしは仕方なく、垣根に空いた穴から中を見る。




「……」





 小さな男の子と光ちゃんが楽しそうに話していた。




 一緒に買ってきたスーパーの袋の中のものを仕分けて冷蔵庫の中に入れていく。





「ごめんな、八光ハチミツ。今すぐ昼飯を作るからな」




「うん!」




 幼稚園くらいの男の子は嬉しそうに言いました。





「これは一体……」




「花火ファイアーアーツはね、弟くんのために毎日お昼ご飯を作りに帰っているの」




「おかあさんは?」




「病気で入院中」




 その事実を知った途端、わたしは突如として自分が恥ずかしくなった。




 光ちゃんは不良などではなく、弟のために頑張りながらも小学校に通う、とっても頑張り屋さんな女の子だったのだ。





「さあ。用は済んだし、帰りましょうか」





 わたしたちは光ちゃんの家を後にした。





 #######






 押しつぶされそうなほどの青空が迫る屋上に一人の少女が佇んでいた。




 屋上のてすりを握る拳は硬く、震えている。





「きっと今度はいい世界になるから」





 震える体のままフェンスを飛び越えようとした時だった。





「?」





 突然口笛の音がして少女は身を固くする。




 誰かに見られていたのだろうか。





「うん。別に死ぬのはかまわないと我は思うけどね」





 悲しげな音が消えた時、少女のそばには黒い衣装を着た女の子が立っていた。




 恐れることなく少女の肩辺りにまであるてすりに足を載せて立っている。





「でも、惜しいねぇ。それほどまでの復讐心。我は好物だよ」




「何を言ってるんですか!」





 まるで自分の心が見透かされたようで、少女は嫌悪感をあらわにする。





「我は知っている。お前はたった一人の男を呪っていることを」




「なんでそれを……」





 あの時のことを思い出しただけで少女は体の震えが止まらなくなる。




 大きな体。


 不自由な自分。


 覆いかぶさる巨体。


 走る痛み。


 止まらない屈辱――





「それだけが我のとりえでね。どうだい?その男に犯された恨みを世界に向けてみようじゃないか」




「なにを……」





 少女は白い髪の女の子を見た。




 その琥珀色の瞳に吸い寄せられ、その場から一歩も動けなくなる。





「君のことを分かってあげられるのは我だけさ」





 その言葉とともに少女の額に拳銃がつきつけられる。




 少女の額に残るのは硬く冷たい感触。




 その感触は目の前の白い少女から伸びていて――




 銃声を合図として、少女はこの世から消え、新しい存在へと生まれ変わる。





「これぞ、転生。これぞ、全ての人間の理想、夢、そして――現実」





 白い女の子は膨れ上がる肉片に手をかざす。




 それだけで肉片はどこかへと消えて行った。




「新たな魔法少女の発生を阻止しつつ、魔法少女に殺される存在でなければな」





 ######





 キィーーーーーーーーン。




 教室に戻ってきていたツキは耳鳴りのような音を聞き取り頭を抱える。





 耳鳴りとともに、ツキを予感が襲う。




 それはとても悪い予感だった。




 瞬間、ツキにとって大事な存在の一人の姿が脳裏に映った。





「光――」





 ツキは授業中にも関わらず教室から飛び出して行く。





「待って!ツキちゃん!」





 ツキは後ろから友達が追いかけてくるのを感じていた。




 けれども、後ろを振り返らずただ走り去っていく。




 後ろの友が自分を見失うことを望みながら――





 #####





 地面を揺さぶるほどの振動がして、八光を寝かしつけていた花火は家を飛び出す。





「地震じゃねぇだろうしな」





 そもそも地震の時に外に飛び出すのは危ないな、と花火は反省する。





「……」





 花火は目の前に現れているものを見ても冷静だった。




 それは良い事であるのかは花火には分からない。




 ただ、目の前の怪物はあまりにも現実離れしていて、花火の思考を冷静にするには十分だった。





「ネクサスのビーストかよ――」





 花火は目のない目を持つ怪物が自分のことを見つめていることに気がつく。




 家の中で寝ている弟をちらと見て、花火は怪物に背を向けた。





「このパクリ野郎! こっち来やがれ! 少しでも弟に触れてみろ。 そんなことしやがったら本気でぶっ殺すからな!」





 花火は怪物を惹きつけながら走り出した。





 ######






「待って!ツキちゃん!」





 わたしは嫌な予感がした。ツキちゃんが血相を変えて学校から出て行ったので、何事かと思ってついて行ったけれど、ずっとツキちゃんの後を追いかけていっていて、だんだんと嫌な予感が確信に変わっていった。




 ツキちゃんの走って行っている道は、光ちゃんの家への道だった。




 迷いもなくツキちゃんは道を駆けて行く。




 そんな時、ふと思う。




 わたしは、ツキちゃんについていってどうするのだろう。




 またあの怪物に出くわすだろう。




 また、戦いに巻き込まれて、今度は無事で済むかも分からない。




 今度こそ、本当に死んでしまうかも――




 でも、わたしは今日、光ちゃんのことを知った。




 弟のために頑張っている姿を、心から美しいと思った。




 もし――もしもわたしにできることがあるのなら、わたしは――





「光!」





 ツキちゃんの叫び声がして、わたしは目の前に光ちゃんが迫っていることに気がつく。





「テメェら、どうしてここに!」





 光ちゃんの後ろには昨日の怪物が迫っていた。





「早く逃げろ!」





 どうしてこんな時に、誰かの心配ができるのだろうか。




 わたしには決して理解できない。





「今、助けるから!」





 ツキちゃんがコンパクトを取り出す。





「変身するな!」





 妖精がツキちゃんの変身を止めた。





「どうして!?光が危ないっていうのに!」




「彼女には魔法少女になってもらうドリル」





 そう言って妖精は素早く走っている光ちゃんに向かっていき、肩に乗る。





「なんだ?この育ちきったキュウリを三倍気持ち悪くしたぬいぐるみは」




「とんでもない形容ドリル。誰も想像できなくなってるドリル!」




「でも、実際そんなんじゃねえかよ」





 妖精の姿は実際そんなのだった。





「時間がないドリル。君は今から魔法少女に変身して魔法少女ヒカリになるドリル」




「ああん!?なんだそりゃ」





 光ちゃんは急ブレーキをかけてくるりと虫に向きなおる。





「なってやろうじゃねえか」




「待ちなさい!光!」





 そう言ったのはツキちゃんだった。





「何も考えず、何も知らずに変身して、そんなの絶対に後悔する!」




「そうかもしれねえな」





 光ちゃんは妖精の差し出したコンパクトを受け取る。





「でもな、俺は一々そういう計算事が苦手でな。考えるより先に動くってのが信条なわけよ。それに、今ここで戦わねえと俺は一生後悔する!」





 光ちゃんはコンパクトを掲げる。





「俺の本気、見ててくれ!変身!」





 そんな掛け声とともに、光ちゃんは魔法少女に変身する。





「さあ、お前の罪を数えろ!」





 光ちゃんはヒカリちゃんに変わった。





「さあ、ヒカリ。君の力を見せるドリル」




「ったりめぇよ!」





 ヒカリちゃんは虫に向かっていく。





「あたたたたたたー!」





 けれども、昨日と同じように、拳は突き刺さらずに虫はヒカリちゃんを弾き飛ばそうとする。





「そうはいかねえ」





 ヒカリちゃんは素早くバックステップを踏みながら、虫の攻撃をかわした。





「ちぃ。どうすりゃいいんだ?」





 その時、ツキちゃんも変身しました。





「ツキ……お前……」




「さあ、あなたのバトンを手に取って!アイドルを始める時間だよ?」




「もう容赦なくパクるようになったな」





 ヒカリちゃんの胸のコンパクトが輝き、一本のバトンが宙に浮いた。





「マジカルバトン!って、これ、商標登録とか大丈夫なのか?」




「まあ、おもちゃ化されないなら問題ないでしょ。というか、閲覧数もそこまで多くない!」





 ツキちゃんはバトンからバリアを作り出し、虫の突進と受け止める。





「今よ、ヒカリ!」




「おうよ!」





 ヒカリちゃんは空高く舞い上がった。




 紅蓮に輝く髪はまるで翼を広げた不死鳥のようだった。




「って、これからどうするんだ?」




「願いを込めるの。あなたの願いを――」




「願い――ね!」





 ヒカリちゃんは勢いよくバトンを振る。




 バトンから魔砲が飛び出し、虫は消え去った。




「やったな!ツキ」





 ヒカリちゃんはツキちゃんにハイタッチをする。





「まだよ」





 ツキちゃんは虫のいた場所を睨んでいた。




 まだ土埃が晴れないそこに、人型の影が存在している。





「ザウエル」





 ツキちゃんはその名を呟いた。





「我の名を覚えていてくれて光栄だな」





 クックック、と気味の悪い笑い声とともに砂煙が晴れ、人影が姿を現す。




 目にかかるほど伸びた白い前髪。




 全体的にはボブヘアーで、白く老人のような髪色ながらも艶は瑞々しい。




 肌は白く、瞳は琥珀色だった。




 そんな幻想的な面持ちとともに、黒いゴシックドレスを纏った姿は、メルヘン世界から飛び出してきたキャラクターそのものだ。





「アンタの目的はなんなの?何がしたくてこんなことを――」





 ザウエルはふんっ、と鼻で笑った後、姿を消してしまった。





「魔女め……」





 ツキちゃんは忌々しそうにそう呟いた。





 ####





 そんな三人を見つめる姿があった。





「見てしまいましたのですわ」





 並んだ二つの青い瞳がきらりと輝いた。





 #######





 次回予告





「イェーイ!パーティーメンバーが一人増えたゼイ!」




「ハイテンションだな、ツキ」




「というか、なんなの?これ、RPGゲームだったの?」




「仲間を助けられなければパーティに入りません。というか、即死です」




「でびさば?アトラスなの!?」




「とにかく、そういうネタはほどほどにしておけよ?」




「お前が言うか!」






次回、『次回予告やるなら最初の前回の復習要らなくね?』




 この暑さ、なんとかならねえのかな……

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