第4話:思いの果て・・・
_____________そして、ライヴ当日。
「今日はライブだね」
藍香の向かいのいる私はマスクをしている。
「そうだね、やっとこの日が来たね」
なんとか私はこの1ヶ月間で声を出すまでには回復できていた。
「じゃあ、準備でもするか」
「そうだね」
私達はクローゼットから同じ制服を取り出して、今着ているダボついた服を脱ぎすて着替え始めた。
いち早く着替え終わった藍香は鏡で確認しながら髪をピンク色のピンで留めていた。
「今日はこの格好でいいよね?」
ピン止めを終わった藍香が私に振り向き確認をとった。
「うん、そんな感じかな」
よし、と言った風に藍香は私達の部屋から飛び出し1階へと駆け降りていった。
部屋に一人残された私、今日はライヴの成功を願っているのはもちろん、ちょうど1ヵ月前に藍香と約束した事を実行しようと思っていた。
へたをすればバンドが崩壊するかもしれないけどここで何か行動を起こさなければいけないような気がした。
そんな事を考えていると階段をドタドタと駆け上がってくる足音が聞こえた。
「和枝、そろそろ行くよ」
私はとっくに準備は出来ていたので、藍香が立っているドアまで歩いて行った。
「分かった」
階段を降りていくと、心配そうな表情をした母がいた。
「二人とも、今日は頑張ってきてね。それと和枝、あんまり無理しちゃだめよ。けど・・・」
母はそこで言葉を止め、これは言ってはいけないなと顔をして悩んでいたが少し間を置き口を開いた。
「けどね、ここぞって時は頑張りなさい」
たしかに言われてみれば、親としてはどうかなといった言葉であった。しかし、今の私からしてみれば一番必要な言葉のようにも思えた。
「うん、頑張るよ」
活気に満ちたような声色でマスクを着けている私は応えた。
その直後、藍香は私が最初に母に対して痛いところを突いた。
「お母さん、親としてそれはどうかと思うよ。普通は絶対無理しちゃだめだからね、
とか今日はやめときなさいよっていう所じゃないの?」
藍香の鋭いツッコミが私達の母に放たれた。その言葉に母はたじたじとした様子であった。
「まぁ、いいじゃない。どうせ無理しないで、って言っても頑張っちゃうんだから」
確かに、言われてみればそうかもしれない。結局私は何を言われようが今日のこのライヴには行こうとしていた。
「たしかにそうだね、じゃあ今日は頑張ってくるよ」
藍香はさぞ母に感心したように頷いた。
「よし、お母さんがそう言ってくれたから頑張っちゃおうかな」
私は意地悪気味に母にそう言った。
「あ、いや、本当はそうしてほしくないんだけど・・・まぁいいのかな」
お母さん、一応私はお腹を痛めて産んだ子供でしょうが、それでいいのか。私は心の中でそう叫んだ。
「じゃあ和枝、そろそろ行こっか」
「そうだね」
私達は普段履きなれている靴を造作もなく履き、そそくさと家を出ていった。
外に出てそのまま目的地目指して歩いていったため後ろは良く確認できなかったが、
「頑張ってねー」という声が聞こえることから、確実に母が手を振っているだろう。
「おっ、来た来た、おっせえぞ二人とも」
やはり第一声を発したのは上条であった。
「ごめんね、和枝が寝坊しちゃって」
藍香が遅れた理由を私になすりつけてきた。
「えっ、違う違う、何言ってんの藍香。遅れたのには理由があって、説明するとお母さんが」
「ストップ、そこでやめろ。お前が話すと話が長くなる」
周りが笑いで包まれた。そして爆笑してるのは、私に嘘をなすりつけてきた藍香であった。
「まぁまぁ、あんまり笑うとみやが可哀想だよ。それと、今日みやが来れるって聞いて一番喜んでたのは健じゃなかったっけ?」
藤田が周りをなだめたせいか周りは藍香一人を残してだいたい静まった。
「う、うるせぇ!そんな事言ってねぇえだろ」
私の目からみても明らかに上条は動揺していた。やっぱりあいつはこのメンバーで一番の仲間思いのやつなんだな。
「はいはい、お楽しみのところお邪魔しますが、そろそろライヴまで時間がなくなってきたんで中に入ろっか」
「そうだ、もうあんま時間ねぇんだから最終確認とっととすませんぞ」
上条は咲に便乗してなんとか場を乗り切った。そして私達は逃げるように双葉へと入っていく上条を先頭に続
いて入っていった。
「いらっしゃい、ステージの方はだいたい打ち合わせ通りにセットが終わってるから、今日は頑張ってね」
双葉さんが全員に優しく笑顔を振りまいたことにより、先ほどまで緩んでいた雰囲気が急にしまったような気が
した。優しい方が怖いってこのことなのかな?・・・いや違うか、この場合は。
「はい、今日は双葉のライヴに参加させてもらって本当にありがとうございます。今日は頑張ります」
藤田が礼儀正しく双葉さんにお礼を言った。
「いいよ、そんなかしこまらないで、ほら他の皆もリラックスリラックス、力が入ってちゃいい演奏が出来ないよ。
力を抜いて楽しく出来れば、すごくいい演奏ができるよ」
「はい」
軽く会釈をした藤田とその一同は、地下に設置されているステージに行く階段に進んでいった。
「よし、みんな準備出来た?健ちゃんも準備出来た?ちゃんとアンプにエフェクターとかつないだか?・・・あっ、
そういえば健ちゃんはアコギだからエフェクターも何も必要ないのか」
「野宮ああ!その事をネタにするのはやめろ。俺は間違えてアコギを買ったんじゃなくて、
エレキじゃなくてこっちの方が良かったから買ったんだよ。というか健ちゃんはやめろって言ってんだろ」
藍香は悪びれた素振りも見せず、上条を無視して自分のマイクの確認をしていた。
「俺の話を聞けよ!そもそもだな、お前は」
「健ちゃ〜ん、今日はやっぱりスティック回しした方がいいかな?」
咲のドラムの魅せかたの話によって上条の言葉は遮られた。
「そうだな、回した方がいいんじゃねぇか?・・・というかお前も健ちゃんって呼ぶんじゃねぇ」
咲と藍香はギターの上条をいじめて・・・もとい、怒らせて遊んでいた。
そんな事をしり目に藤田君が私に話しかけてきた。
「みや、今日は調子大丈夫?あんまり無理しないでね」
もちろん私は母に言われたように無理しないでねと言われると、俄然やる気が出て無理をしてしまう。
「あ、うん。まぁ私は歌わないでキーボードだけだから大丈夫だよ」
そう、私は今日は歌わない予定でここに来ている。だからここに来れたと言ってもいい。
「よかった、正直ずっと心配で仕方なかったんだよね」
「そ、そうなんだ」
あれ、何動揺してるの私、でも心配されてるってことだよね。
「まぁ、さっきも言ったけど健も心配してたし、実際はメンバー全員が心配してたんだよね」
「へぇ」
「それと、今日のライヴのことだけどあの3人はあんな感じだし、きっとうまくいくよね」
「そうだね、というかあの3人は緊張という文字が全く見えないんだけど。緊張してる私がバカみたいだわ」
そう言うと、藤田君がクスクス笑い始めた。
「じゃあ、今日は頑張ろうね」
「うん」
私は心からこの時間がとても楽しかった。
「「健ちゃ〜ん」」
そんな事を話している間に二人の精神的攻撃がさらにエスカレートしていた。
「うっさい、黙れ!そろそろキレっぞ」
「え〜・・・まぁ健ちゃんだったら怒っていいよ〜」
藍香は・・・一言で片づけると、遊んでいた。
5人がこんな事をしている間にも、地上では客が集まり始めていた。
5人のいる場所はステージの舞台そで、思ったよりも全員緊張している様子はなくむしろ早くステージに立ちたいといった表情だ。
しかし、上条一人はとても疲れているようにも見えた。
「あぁ・・・疲れた。ほんじゃまぁ、とりあえず楽しく行こうぜ」
声を潜めるほどでもない小さい声で上条は皆を活気づけた・・・のだと思う。
「暗幕の隙間から客席を覗いてくるね」
藍香が足音を立てずに暗幕の隙間に向かい、客席を窺っているようであった。
『結構お客さん入ってるよ』と、藍香がジェスチャーでどうにかみんなに伝えた。
どうせならこっちまで来て小声で話せばいいのにと思ったが客の事を考えてすぐにそれは消えた。
「5人とも・・・そろそろ時間だから位置について。それと楽しんできてね。」
双葉さんが小声でそう伝えた。
「「頑張ってきます」」
全員の息が合った。一人がジェスチャーという事を除けば。
私達は自分たちの楽器のもとへと散らばった。双葉さんはそれを確認すると舞台そでから出ていってしまった。
そして、ついにこの時がやってきた。
「皆さん、大変長らくお待たせしました。それではまず初めに、軽音楽部『チュート』の演奏をお聞きください」
そういえば言い忘れてたけどバンド名の『チュート』っていうのは上条が考えたもので、『チュート』っていうのを
思い付いたきっかけはと言うと、ゲームによくチュートリアルとかいうのが出てくるとか言って、それをもじったらこうなったそうだ。
最初はこの案は撤回されたが、『キュート』になんか似ていて可愛いという理由からと、あまりいい案が浮かばなかったためこれに決定した。
とか言っている間にも、暗幕が中央から横に開いていった。
私は客席を見て息をのんだ。想像していたよりも客がたくさん入っていたからだ。
そして、藍香のMCによってライヴが開始された。_____________
「と、いうことで今日はお疲れ様でした」
咲が額の汗を拭いながら笑った。
「おつかれさん」
上条が疲労困憊したような表情で返事をした。
「ほんと今日は楽しかったね。でも最初に健が音を外したときはひやひやしたな」
「あぁ・・・もうその話はしないでくれ・・・ただでさえ疲れてるのに、俺の精神に追加ダメージが」
上条は背中のギターバッグを重たそうに背負っていた。
藍香が咲にさっきの事を尋ねた。
「咲、そういえばさっきメインのバンドの人たちに褒められてたよね」
「そういえば、そうだったね。なんでもドラムの魅せかたがうまいだのって言われたのかな」
「すごいね〜咲は」
藍香は尊敬の眼差しで咲を見ていた。
「あ〜・・・えっと、そろそろ帰っていいか?疲れたんだけど」
上条は相当疲れているらしく、後がない老人のように今にも倒れそうであった。
「そうだね、そろそろ解散するか」
咲が周りを見渡してそう言った。もう、客は全員帰っており双葉の店の前にいるのは私達だけである。
「よし、じゃあ解散」
上条はすぐさま解散令を出した。そして皆が「おつかれ」という言葉をかけながら散らばっていこうとした。
だが私は今日だけはすぐに解散する予定ではなかった。
「ちょっと待って!!」
誰に言ったかも分からないよなそれは家に帰ろうとする全員の足を止めた。
「なんだよ野宮、まだなんかあるのか?」
最初に愚痴り始めたのはもちろん一番帰りたがっていた上条であった。
「えっと、その大事な話があるの・・・・藤田君に」
その言葉で藤田の体がこちらに向いた。
「なに、みや?」
もちろん藤田は穏やかな表情でいた。しかし、私は逆に顔が青ざめていくのがわかる。
「えっと、そのね・・・」
「何?言いたいことがあるんなら早く言っちゃいな」
咲がにやにやとした表情を浮かべながら急かしてきた。咲には次に出る言葉が分かっているんだと想像する。
その間、私には今朝母の言った言葉が蘇った。『ここぞって時は頑張りなさい』・・・
あぁ、お母さん頑張るってこういう事なんですね、正直もうなにかに押しつぶされて死にそうです。
「えっと・・・す、す・す・・・・」
「?」
「・・・すっごく楽しかったです、今日のライヴ!」
大声を発したた後は微妙な静けさに包まれた。
そして藤田の少し前にいる咲は眉間に皺をよせており、口パクと首の動きに私に何かを伝えようとしていた。
「そうだね、楽しかったね」
そして周りを見渡すと、メンバーの一人が欠落しているのに気が付く。いつのまにか藍香が消失していた。
とりあえず今の私は緊張しすぎているため完全に周りが見えないでいた。だが咲に私に言わせたいこと・・・
いや、私が藤田君に伝えなければいけないことは決まっていた。
「えっと、あとね・・・言いたいことがあって・・・その・・・藤田君の事が好きです」
やっと言えたと思ったのは束の間、私の最後のなんとか絞り出した小声は冬の悪戯か、北風によって阻止された。
「えっ?今何ていった?もう一回言ってくれない」
藤田君からすれば普通に聞いているだけなのに、私からすればそれは裁判官に『殺したのはあなたですね?』
と聞かれるくらいの破壊力があった。だが、どうやらそれで私も吹っ切れたらしい。
あぁ、いいとも何度でも言ってやりますとも。
「私は、藤田君の事が好きです!!!」
この瞬間、私はすべての音が無音になった気がした。こんな静けさも悪くないのかな・・・
そして第一声を発したのは藤田、ではなく咲の近くにいる今にも倒れそうであった上条であった。
「え、ええええぇぇぇえええええぇえ」
上条の死にそうだった目は、珍しいものを見るような丸い目になっていた。
そんな空気を読まない上条を咲は振り向きざまに腹部に鉄拳を下した。
そして上条はその場に腹を抱えて崩れ落ちた。
「えっと・・・何ていえばいいのかな・・・こういう時は返事を言った方がいいのかな」
藤田が見えない位置で咲が上条の肩に手を置きながら頷く。
「そうだな・・・・僕も・・・みやの事が好きだよ」
その言葉で私はすべてが報われたような気がした・・・・かな。______________
その後、色々と問題が発生。
例えば藍香のケース
良く頑張ったね和枝ぇ。私は出来るって思ってたよ。
え?なんであの時逃げたかって?それは、和枝を見てるのが楽しいからだよ。
それと私が、なんで藤田君に告白しなかったの?と思ってるでしょ。
まずそこが間違いなんだよね。第一私は藤田君の事はホントに好きじゃないんだよ。
いやぁ〜、和枝と筆談してるときにあれはホントに迫真の演技だったなぁ。
カンヌで女優の賞とか貰えるんじゃない?
まぁ、ああでもしないと和枝は告白できないでしょ。
上条のケース
お前度胸あるな・・・俺は絶対あんなことできねぇわ。
俺も好きな人がいるんだけど今度やってみよっかな。
って・・・今はもう無理かな?なんてな。
咲のケース
殿〜〜、とうとうやりましたな。
私は最初っから殿が将軍の首を討ちとってくれると思っていました。
今までの数々の無礼をお許しください。
ていうお遊びは置いといて、よく頑張ったね褒めて遣わすぞ。って変わらないか。
そして、藤田君のケース
いやぁ〜、いきなり言われた時はびっくりしたよ。
実は僕も歌詞を渡す時に言おうと思ってたんだけど
言うタイミング逃しちゃってね、でもまさか最初に言われるなんてね。
結果よければ全てよしってこの事なのかな。
じゃあ、これから短い付き合いか長い付き合いか分かんないけど、
今日から改めてよろしく。
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ということで、色々とあったけどなんとか私は春を掴むことができました。
これで分かった事は、声で出して伝えるってことはとっても大切って事ですね。
じゃあ長く付き合えるように頑張っていきます。
なんだかんだいってやっぱり4話で終了しました。
文とか色々拙いですが最後まで見てくださってありがとうございます。
この続編的なものも考えているんですが、同時進行で作っていた別の話が終わったらやろうかと思います。
ということで次回作は推理のジャンルでこの5人のお話をやっていこうかと思います。
本当にここまで読んでくださってありがとうございました。




