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黙示者  作者: いい月
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RE:START 其の二

アイツからの依頼を受けたあと、僕は家に帰っていつも通り学校に行った。正直なところ『クラスメイトを連れてくる』というのが依頼だとは思わなかったが、アイツの依頼で簡単だったことなんて一度もないので今回も簡単には終わらないのだろう。



 いつもよりも早く登校したので8時ちょっと前に教室についた。教室にはすでに一人の少女がいた。少女は自分の席に座っており、窓から差し込んでいる朝焼けを眺めているようでまだ僕には気づいていない。

「・・・・・おはよう。」

 普段、クラスメイトに挨拶することなんてないのだが今回の依頼である『クラスメイト』がその少女であるため、偶然というのは考えにくい。もしかしたらアイツが何かしたのかもしれない。

 少女は僕の方へゆっくりと顔を向け、にっこりと笑顔を浮かべた。首筋まで伸びた綺麗な黒髪とキリッとした綺麗な顔立ち、細い体躯をしており、鮮やで透き通った青い瞳が特徴的である。

「おはよう。凪月君、今日は珍しく早いんだね。」

「ああ、実はある人に頼み事をされたから早く来ることにしたんだよ。冬丘ふゆおかはどうしてこんな早い時間に?」

「私はいつもこの時間帯には登校しているからね。まあ、日頃の習慣みたいなものだよ。そういえば凪月君と話すのは今日が初めてだよね?普段から人と話しているところ見かけないし」

 最後の言葉には少し棘があったが、冬丘は傷つけるような口調ではない。

「そう言われてみれば、そうだけど。それは僕が人見知りだからな」

 そう言って、ふと考えてみると人見知りなのは昔からだと覚えているが別に話す事が出来ないわけではない。話しかけることが苦手なだけで話をすることが苦手なわけではない。

「凪月君の人見知りって、もしかして普通の人とは違う何かがあったりするせい?」

「・・・・・え?」



 それは、とても唐突な質問だった。そして、とても率直で的を射たように正確だ。

「それは、冬丘も普通の人とは違う何かがあるってことなのか?」

「・・・・・うん」

 少しだけ冬丘は悲しい顔をしたが、すぐさま笑顔を僕に向けた。冬丘はよく笑顔を見せるが別に好意を抱かれているわけではない。気を遣っているのか、それとも元々そういう性格なのか、僕にはわからない。

「なあ、冬丘は幽霊とか化け物のような存在を信じるか?」

 僕が急に変なことを聞いたせいか、冬丘は少し驚いたようだ。

「ええ!うーん、私は信じて・・・いる、かな? でも、どうして凪月君はそんなことを聞くの?」

「見えるから、それに冬丘が聞いた通り僕は普通の人とは違う何かが確かにある」

「そう、ありがとう。私も最近こんなことが出来るようになったんだよね」

 そう言って冬丘は手を伸ばした。すると、床から手に向かって氷の柱が形成されていき、冬丘の腰くらいまでで止まった。だが、黙示者になってからというものこんなことには慣れてしまっているため、『氷を操れる』ってことだけでは驚かなくなっている。

「凪月君、私ね。こんなことが出来るようになってから、幽霊っていうか、化け物っていうか、前までは見えなかったものが見えて、困っているの。何か解決する方法って知らないかな?」

「すまないが、僕にそんな力はない。だけど、解決する方法を知っているかもしれない奴は知っているから放課後に時間があるなら連れていくけど、どうする?っていうか冬丘を連れていくことが頼み事なんだけど・・・・・」

「わかった。行くわ」

 そう言って、冬丘はすぐ了承してくれた。まあ、了承してくれたのは嬉しいのだが・・・・・

「それでさ冬丘、とても聞きづらいのだが・・・・・この氷はどうやって処理するんだ?」

「っあ、それなら心配いらないよ」

 そう言って冬丘は指を鳴らした。すると、形成された氷は蒸発するような音と同時にきれいさっぱり消えてしまった。なるほど、ちゃんと証拠は残さないようになっているんだな。

「とりあえず、これで他の人たちには気づかれないよ。まぁ、もうすぐ他の人達も来る時間だからまた後で話さない?」

「ああ、そうだな」


 放課後の教室


 最近、ハマっているライトノベルを読んでいると、僕だけがいた教室の扉がゆっくりと開いた。入ってきたのは冬丘だった。僕は本にしおりを挟んで机の中にしまい、鞄を持って立ち上がる。

「よし、じゃあ行こうか」

「うん、でも・・・その・・・・・変なところに連れて行ったりはしないよね?」

 冬丘は少しだけ恥ずかしそうな態度をして聞いてきた。まあ、今日初めて話した男子をすぐに信用して一緒について行く奴なんて普通いないだろう。まあ、僕がごく普通の人なら冬丘も警戒することはないのだろうが、こんなにも警戒されているのはおそらく、前の僕と同じで『普通の人とは違う何かがある』という事が『未知』であるため、それと僕が男だから危機感を抱いているのだろう。

「ああ、約束する。それに冬丘に危害を加えないことも保証する」

 僕がそう言うと、冬丘は少し安心したようだ。

「それじゃあ、そろそろ行かないか?」

「うん、そうだね。変なこと聞いてごめんね」

 僕は返事を返すことなく、冬丘と共にアイツのところへと向かった。


 夕暮れに染まった坂道を僕と冬丘は距離を少し空けて歩いていた。周りに人はおらず、稀に車が通るくらいだ。坂道から見える町の景色はとても綺麗で、それほど高くない建物よりも低い位置まで夕日が沈んでいる。オレンジ色のそれには所々雲があり、数えられるほどのカラスが数羽飛んでいた。

「なあ冬丘、今から会いに行く奴にすぐ説明できるよう、いくつか聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 僕は振り返ることもなく冬丘に尋ねた。

「あ、うん、別に構わないよ」

 しばらく沈黙が続いていたせいか、冬丘は少しだけ戸惑って返事をした。

「それじゃあ・・・・・最近から『氷を操れる』ようになったっての聞いたけど具体的にいつからなのかは覚えているか?」

「うーん、たぶん2週間前からだったと思うよ」

「2週間前って言うと、5月の10日ってことか?」

「うん、そうなるね」

「わかった。じゃあ次、幽霊のような、化け物のような、前までは見えなかったものが見えるようになったのは?」

「確か、『氷を操れる』ようになる3日前からだったと思う」

「それじゃあ、初めてそれを見たのは3日前なんだな?」

「そうだと思うわ」

「それじゃあ最後だけど、家族とか身内に冬丘のような『普通の人とは違う何かを持っている』人はいるのか?」

「うーん・・・・・いないと思う」

「そうか、ちなみに家族とかは知っているのか?」

 僕は最後に一番気になっていたことについて聞いた。

「知っては・・・・・いないと思う。それに、私からは話していないし・・・・・両親とも夜遅いから」

「・・・・・そうか」

 一通りの話を聞いた後、目的地に着くまで・・・・・沈黙は続いた。

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