RE:START 其の一
薄いカーテンの隙間から、淡く透き通った月の光が暗い部屋の一部分のみを照らしていた。月明かりによって照らされている箇所はほんの一握り程度だったが、月の光が反射しているせいなのか薄いカーテンのせいなのかはわからないがその部屋がどれくらいの広さで何があるのかまで鮮明に把握できる。
部屋にはパソコンやゲーム機、ライトノベルや漫画がぎっしりと並べられた本棚に勉強机、そして一人分のタンスがあった。その部屋の主であるであろう人物は冬眠中の動物のように布団にもぐっており、すぐ傍には充電中の携帯が無造作に置かれている。
「・・・・・」
部屋には無音が続いており、まるで時間が止まっているように感じられる。
しかし、そんな静寂を破るように激しい着信音が鳴り響いた。
「・・・うー・・ん?」
先ほどまで布団にもぐっていた人物は、寝起きの高校生のような声を出しながら布団から姿を現す。
額を覆うまで伸びた黒髪に、キリッとした眉、普通よりも整った顔立ちをしているが、寝起きのせいかやる気のなさそうな目をしている。そう、これが僕である。
とりあえず、僕はとてつもなく鳴り響ている携帯を手に取りすぐさま電話に出ると僕は空いている左手で眼鏡を探しながら立てかけてあるデジタル時計へと目をやった。
時刻は5月27日の午前1時13分と表示されていた。
「・・・・・はい、もしもし」
「やあ、『凪月君』夜遅くにすまないね、実は君に依頼があるんだが頼まれてくれるよね?」
電話相手は男。図々しく僕に話しかけているが、別に親しい間柄というわけではない。しいて説明すると『命を同等の価値で救ってくれた』程度の間柄だ。なので僕に依頼を拒否する権利はない。
「・・・・・わかった。・・・それで?どんな内容なんだ?」
「あー、内容自体は会って直接話したいんだ。悪いけどいつもの場所に来てくれ。とりあえず、深夜徘徊でおまわりさんのお世話にならないように気を付けるんだよ」
そう言い残すと男は電話を切った。正直、こんな夜中に呼び出しておいて深夜徘徊に気を付けろとか無責任にも程があるんだが、こんな夜中に来てほしいというのはよっぽどのことなのだろう。
「はぁ、だるいなー」
僕はそう吐き捨て、僕は男のところへと向かった。
優しい月明かりに照らされ続けて、気が付くと僕は古く汚れた気味の悪い小さな病院の前にいた。そこはいわば心霊スポットのようなところで、周囲にある建物や家はすべて廃墟になっている。いつからこうなっているのかは調べればわかると思うが、僕が小学生の頃から七不思議の一つになっていた。病院の中はちゃんと明かりがあり壁や床もそれほど汚れてはおらず、蛍光灯や長椅子等も壊れていない。っというよりも後から取り揃えられたっと言ってもいい程にすべて新品のようだった。院内を進むと普通の部屋よりも圧倒的に目立っている部屋があった。『診察室』と書かれているが何となく異様な雰囲気を醸し出している。それは神聖的な神社で流れているようなモノではなく、かといって、悪いようなモノでもない。僕は正直、この異様な雰囲気をどう表現していいのか未だにわからない。そう思いながらも僕はその異様な雰囲気を出している扉にゆっくりと手を伸ばて軽くノックした。
「ああ、どうぞー」
先ほどの電話相手と同様の声が聞こえた。僕が扉を開けて中に入ると、白衣ではなく正反対の『黒衣』を着た人物がいた。僕は普段のように扉を開けてすぐ隣にあるソファーへと腰かけた。
「うーん、凪月くんは知っていると思うけどさ・・・・・僕らのような人物つまり、『黙示者』が突然普通の人間になったり、普通の人間が突然『黙示者』になることなんてこともないっていうのは知っているよね?」
そう言って、黒衣の男はようやく僕の方へと体を向けた。男は渋い顔だちをしており、世間でいう医者というよりも軍隊に所属している指揮官のような感じだ。
「ああ、それくらいの事なら僕も知っているよ。それに、両方とも仮説はよくたてられているけど決定的な根拠や実例もないって言ってなかったか?」
「いやー、覚えていてくれたのか。ハハハ、うれしいねー。凪月君は本当に勉強好きになったんだねー」
男は僕をあざ笑うように話す。実際のところ、僕がこいつに初めて会ったとき、初めて質問されその質問の答えとして言ったことだ。
「まあ、そんな風にあざ笑うのはよしてくれ。それに僕が相当の勉強嫌いってのは知っているだろう?」
「そういえば、そうだったね。それじゃあそろそろ本題に入るよ」
そう言うと男はとても真剣な表情へと変えた。何度かよく見かけている表情ではあるが、例えるなら臨戦態勢に入った動物のような感じだ。
「ああ、聞かせろよ」
「実は、さっきの質問だけど・・・・・実例がないっていうのがなくなってしまったんだよ。それもつい最近の話だ。僕が直接調べたから確かなことなんだろうが、原因はわからないし決定的な証拠もないから本人を直接ここに連れて来てほしいんだよ。まあ、本人も困っているみたいだからね。ここまでは大丈夫かな?」
「一応、理解できているよ。とりあえず、最後まで質問はしないことにするよ。」
「そうかい?それなら続けるよ・・・・・さて、ここからが本題なんだけど、その黙示者は君のクラスにいるらくてね、それにその人は突然こんなことになったせいか気が荒くなっているからやけに攻撃的だから手を差し伸べることもできないんだよ。」
やれやれと両手を挙げ申し訳なさそうな態度をしているが、ある程度の付き合いがある僕が知っている限り、こいつは人助けってことよりも純粋に興味があるからその黙示者を助けるのだろう。そう、そうやって僕を助けたように・・・・・