機械と私は鬼のいない世界へと向かう。21 デザイナーズベイビー
この地区の警備ロボが監視塔に何体も入っていく。
どうやら中で警備ロボの損失があったようだ。
全てがマザーにリンクしている屑鉄の弱点は行動に一過性が出来て何をしているのか読める事だ。
人間の反乱を想定していないマザーを中心にした命令系統は幾ら機械であっても綻びが各所に出来る。
そうだ、機械は機械でしかないのだ。
過去の様に人間の支配下にあってこそその真価を発揮するのだ。
今の状況はやはりおかしい。
機械が人間を支配するなどあってはならないことなのだ。
「聞こえるか、ダニー。聞こえたら何か返事をしろ」
隣の監視者に語りかける。
監視者は少し鈍く動きながらもこちらに視線を合わせて返事をした。大丈夫だ。この監視者は過不足なく動く、ダニーの操縦が慣れればかなりの物になる。
「警備の機械が塔に入っていくな。これは珍しい」
「ああ、このまま監視塔内部に入ってみるか?」
「馬鹿か、この前もそんな事を――」
「今なら本来の護衛も故障か何かで動けないのだろう。中に入るなら今がその時だ」
「だが、監視者はまだ予備パーツを入れて三体しか動かせないんだぞ。コントロールポッドはまだこの一台しかない。無茶だ」
「何のための今までの訓練だ?ダニー、お前が尻ごみしてたら成せることも成せなくなるぞ?」
「だが、いくらなんでも多重操縦はまだ訓練を始めたばかりで――」
「だがも糞もあるか。そのためのオート操縦だろう。お前が全部動かすなんてそれこそ無茶だ。シドも当たらしいコントロールポッドが作れる程の機材を調達は難しいって言っていただろ。こんなチャンス二度とないぞ。お前は監視者の命令だけをその都度変えていればいいんだ。後は勝手に任務を全うしてくれる。覚悟を決めろ。ダニー、俺は一人でも行くぞ」
「――分かった。分かったから落ち着け中に入ってどうする?」
「マザーを排除する。シドが居場所は知っているんだろ?」
「どうやって排除するんだ?殴るのか?骨と肉のその腕で?」
「殴るのは機械の腕でだ。ダニー、お前がそれを命令するんだよ。マザーといっても所詮はデリケートな脳みそを持った屑鉄だ。回路の一部でもぶっ壊せればそれで国中の奴らを混乱させるには十分だ。その隙に俺たちの必要な機材を運びだせばいい。次の襲撃に備えるんだ」
「そんなことしたら警戒されて後からが大変じゃないか」
「シドも言っていただろ。マザーに新規命令は出来ないって。あくまで増えるのは既存のプログラムにある動物撃退用の監視ロボだけだって。人間の反乱なんて考えていないってさ。シドは隠しているが一度あの中に入ってマザーを調べた事があるんだよ。あれは。その時に壊せなかったからこの屑鉄の人形を拾い集めて新たな計画を立ててるんだろ。俺たちでその計画を前倒しするんだ。どうだ?お前だって新しい家畜に機材にと欲しい物ぐらいあるだろ?」
「シドに聞いてみないと――」
「シドには俺たちが動き始めてから伝えろ。それなら協力してくれるだろ。他の監視者を動かす準備をしてくれ。行くぞ」
「――おい、待てよ。こいつにお前の護衛を命令しとくからな。俺が他の監視者起動させてポッドに戻ってくるまで動くな。分かったな」
それだけ聞ければ十分である。私は監視塔に向かって一直線に駆けだす。
「そんなに急いで何処へ行くのですか?あなたの警護に支障が出ます。速度を落としてください」
もうダニーはポッドから離れたようだ。監視者がそのAIによって私に語りかける。
「お前は塔に入ってしばらくしたら、俺と離れてマザーを探せ。警備ロボやガードロボは私や他の監視者が惹き付ける」
「その様な命令項目はありません。速度を落としてください」
やはりこの屑鉄に思考能力などはない。ただ命令のままに動くしかできない屑鉄だ。
「速度を落としてください」
「黙れ」
「はい」
この屑鉄とはもう話すだけ無駄だ。
ただダニーがポッドに戻るまでに何処まで深部に侵入できるか。
それが問題だ。
ダニーが怖気づいて私を止める命令を出せないように、私はこれから帰る事の出来ない場所まで一気に辿り着くのだ。
これが私の一世一代の勝負だ。
私はマザーを一発殴ってやる。私には意思がある。
勝手に超人にされても堪ったもんじゃない。これは仕返しだ。
私のアイデンティティを勝手に犯した機械を、今度は私が犯してやる。この屑鉄を使って。




