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機械と私は鬼のいない世界へと向かう。2

 彼が異端であると初めて感じたのはやっと私に自我といえる物が備わってきたばかりの頃だ。

 

 毎日同じ時間、G地区の運動場で管理地区の人間たちを集めて運動させる。

 彼らとは違い、私たち人間は集まると様々な反応を起こすようだ。


 彼らの様に自分の意のままにならない存在、自分と同じ肉の塊を見た人間は、時に友好的で、時に凶悪な一面を曝け出す。

 私に初めて向けられた他者からの感情は後者であった。


「あんた、私の後に生まれてきたんだってね。じゃあ、あたしの言う事は聞きなさい!」


 髪を酷く引っ張られて顔が歪む。

 こんなに不愉快なのは生まれて初めての体験だった。


 私はあまりに突然の事にただただ唸ることしかできなかった。

 今にも涙が溢れてきそうだ。

 しゃくりあげる私の顔を見て満足げににやつく女児。


 自分より二周りは大きなそれに私は軽く抵抗することしかできなかった。

 ただでさえ痛みや驚きで泣きたいというのに、それでも少しだけ抗う私は天性の負けん気があるのだろうと後でヘレシーから聞いた。


 私の抵抗も空しくなされるがままにされているのを彼女の監視者も他の監視者もただただ無表情に眺めるだけである。


 ヘレシーも同じだ。


 私と凶悪な女児の諍いに関わる事は無い。

 ヘレシーもいつもであれば、怪我しそうな私をすぐに助けてくれるのだが、この時ばかりは他の監視者と同じように傍観するばかりであった。


 彼女が私に張り手をするまでは。


 彼女は私が歯向かうことに腹を立てたようで私の髪を離すと、尻もちをついた私を立たせて掌で強く私の頭を叩いた。

 私はその勢いで大きく後ろに倒れると、今度は頭から地面に叩きつけられ大声を出して泣き出してしまった。

 

 その時は知らなかったが、見る見るうちにヘレシーの表情が怒りに変わり、それまで余裕であった女児は途端に血の気が引いたようだ。

 ヘレシーのような監視者が感情を露わにする事は珍しい事で、そんな様子を見た事がない女児の顔は恐怖に引き攣ったようだ。

 いつもは全ての面倒を見てくれるはずの物がその時、明らかな敵意を持って迫ってくる。


 私もそのあたりから私も泣きやんで事の次第を見ていたが、女児は自分の監視者の後ろに隠れるも詰め寄ってくるヘレシーに何の対処もせず女児の監視者は突っ立っているだけであった。


 後でヘレシーから聞いた話では監視者は偶発的な危機からは監視対象を守るように出来ているらしいが人や監視者などの意思の元の行動による危機に対しては同じく自分の意思決定で行動を決めなければならないらしい。

 つまりその時のヘレシーの行動は間違いなく感情によるものと機械的に捉えられ、それに相対する意思が女児の監視者にはなかったため何も行動を取らなかったということだ。


 その後の顛末は彼女の尊厳を尊重してここでは触れない。

 ただ言えるのは意思を持った監視者に対して監視対象でしかない我々人間は無力で、出来る事はただただ逃げ回ることしかないということだ。


 彼ら監視者はさほど人間とは変わらなく出来ているが、ほとんどの監視者は一目で異物だと分かる。

 人の臭いが。

 気配が。

 意思が感じられないのだ。

 そこにいるようでいない。そんな感覚が観た者の心に残る。


 あまり他人と接した事がない私が言うのも何だが、ヘレシーなどは少しは人間臭くなっているはずだ。


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