機械と私は鬼のいない世界へと向かう。15 ゲート
研究所の中深くに隠されたエリアにはタイムマシンだかそうでないのだか意味の分からない装置が置かれていた。
中には複数の同一人物チャーチルが武器を手に、または機械を弄っている。
その中心の大きな輪状の機械の前には複数の兵隊や傭兵や流れ者、研究者なんかが強化スーツを着ている。
そこに銃を片手と腰に下げた、厳つい顔のナイスミドルがいる。
カルロス・ロドリゲス、つまり俺だ。
ここには入った時から何もかもが気に食わなかった。
あのチャーチルたちの動きの不自然さはここに着いた時から気付いていた。
どいつもこいつも会話もなしに行動していたのだ。
まるで意思が疎通しているかのように、まさにそうだった訳だが。
俺たち招かれた客は一人の馬鹿のお陰でこの現状を否応なしに理解することになったのだが、事態は深刻だ。俺たちはここから生きて帰る事は難しいだろう。
知ってはならない事を知ってしまったのだ。
だが、まず先に対処しなければならないのはこのゲートが開いた後に何かが襲いかかってくるかもしれない事だった。
俺たちは当然矢面に立たされ周りを武装したチャーチルに取り囲まれている。
「おい!お前科学者だろ?そんな前にいるな。戦闘になったら邪魔だ」
「あ、ああ。分かった。後ろにいればいいのか」
俺たちの中で事態の理解を最もしているであろう科学者を後ろへ退かす。
こいつは頭は良いのだろうが度胸がない。これから俺がここから逃げ出すにはこれから始まるかもしれない戦闘の最中か、異世界へと移動した後になる。
当然、あっちについたら俺たちの見張りに付く狂った科学者のチャーチルの野郎は始末するが、その後の事も考えなくては。
ゲートを破壊して異世界の俺を始末して成り替わるか、もしくはあっちで準備をしてチャーチルを全員片づけるか。
どちらにしてもあっちでこいつらの知恵を借りる事になるだろう。
「おいお前。この科学者の護衛に付け」
身近な兵士風の男にそう命じる。そいつは疑問も漏らさずに頷く。
こんな時だからこそ日頃の行いが物を言う。俺の様にリーダーシップを取れる者には自ずと人間がついてくるものだ。
「なんですか?カルロスさん?私語は――」
「何でもねぇよ。この博士を守れって言っただけだ」
チャーチルの一人に問われたので答える。嘘は吐いていない。
こいつらの様に会話無しに俺たちは行動出来ない。
なら他の奴も分かってると間抜けの様に信じるか、俺の様に一人で生き残る事を考えるか、それだけだ。
分かっている奴が何人いるか。そんなことはどうでもいい。
どいつもこいつも俺が生き残るための盾になれば十分だ。
「――では頼みますよ。ゲートから何が来るか、来ないか判りません」
「ああ、お前らもしくじるなよ。戦力に入ってるんだ。科学者だからって逃げるなよ」
「私は科学者ではないですよ。私は十年前に双子の兄がゲートを開発しまして、私の同一者たちが来訪したので兄は科学者に私は兵隊として育ちました。私は兄とは通じあえていましたが、ここの他の者にはあまり」
少し暗い顔をする。
さっき死んだチャーチルがこいつの兄であったのだろうか。
それにしてもベラベラと身の上を喋る。
こいつの話し振りからやはりこのチャーチルたちは意思疎通は出来ていても意思の統一は出来ていないらしい。
自己のアイデンティティが同じ自己に脅かされているのだ。
自分よりも優秀な、自分よりも経験を重ねた自分が当然チャーチル全体の意思決定の基準となる。
これは思わぬ収穫である。
下位のチャーチルは上位のチャーチルに支配されていると思っていいのだろう。
人間、自分同士であっても残酷な物だ。
俺たちに付いてくるチャーチルは当然下位の奴であろう。
始末せずともこちら側に寝返らせる事も出来るだろうか。
いや、そんな簡単にはいかないだろう。
自己と違う自分でも、自分を裏切れと言うのは難しい事であろう。
このチャーチルも特異な存在に見えるが、双子で十年も早く研究を完成させるというのは許容範囲なのであろうか。
だとしたら特異点だと断言された俺たちは、あっちではどうなっているのか。
まあ死んでいなければどちらにしても成り替わる事は出来るのであまり気にもならないが。
死んでいたら一つ計画が潰れて困るぐらいである。代案は絶対にある。
中央では爺さんのチャーチルが何やら深刻な顔からぱっと明るくなったりまた暗くなったりと忙しなく表情を変える。
気味が悪い。
何をしているのかはさっぱりだが、このチャーチルたちは自分が複数いることで頭がおかしくなっている事は明白であった。




