機械と私は鬼のいない世界へと向かう。10
「歪むのだろう?それならあんな老いぼれ連れてくる価値があったのか?歪んだ世界が壊れるかもしれないなんて事考えた事があったか?解らないのだろう?なら危険は冒すべきじゃない!」
「その危険はありますが、先ほどのお話を聞いていなかったのですかダニー様?今の資源の状況ではこの地球に未来はありません。その危機を回避するために資源を他世界から奪おうというのです。人でなくても砂粒一つでも世界に歪みは生じるでしょう。ならば調べ得る限りのことは調べるのが私たち研究者の使命ではないでしょうか?あなたの様なただのSFオタクの傭兵上がり風情が妄想で口を挟む事ではないのですよ。実際に滅ぶとしても実験してみなければ。確認しなければいけないのが研究です。この計画に賛同出来ないのであればお帰りになってもらって結構です。」
「ああ、俺は帰るさ!」
ダニーが啖呵を切って立ち上がり歩き出す。出口ではなく武器の方へ。
「お前を吹き飛ばしてからな!」
壁にかけてあったプラズマ銃に手を伸ばすとダニーはチャーチルの頭目掛けて引き金を引いた。
炸裂した瞬間にチャーチル博士の頭が溶けて弾け飛んだ。頭部を失った胴体が痙攣を起こしながら床に倒れ込む。
「次はお前だ!」
銃口をヴィンセント博士に向けるが、各扉から飛び出してきた銃弾に撃ち抜かれ、ダニーは吹っ飛んだ。
扉から三人の強化スーツを着た人間が入ってくる。手にはライフル銃を。実弾の銃を持っていた。
「よくも我らの頭脳を。主任の次にIQの高かった私を殺したなこの屑が!」
倒れ込んで蹲るダニーの首に足を振りおろし、その首をへし折った。
「しかもプラズマ銃で撃ちやがって。高出力で機器に当たりでもしたら。くそ!一瞬で私の思考が一つ消えるのは恐怖でしかなかったぞ。この屑が」
もう一人はダニーの腹を蹴り上げ、マスクを外しダニーに唾を吐きかけた。
チャーチルである。
さっき頭を消し炭にされた男が武装した姿で、既に絶命したダニーを睨みつける。
そこへ遅れてもう一人男が来た。
「マスクを外すとは……私にしては軽はずみ過ぎるな。これの説明をしなければならなくなったな」
マスクを被ったままの男が私たちの方を向く。
「失敬失敬。お見苦しい物を見せましたな。そうです。我らは既に複数この世界に同居しているのですよ。これでお解りになられましたかな?あちらの私は必ず我らの側に来るという事が」
隣にマスクを外したチャーチルが立ち、和らいだ表情になって私たちの方へ語りかけた。
「この事実を知ってしまったからには皆様には是非ともこの実験に参加してもらいたいです。この男の様に。新境地へ至る前に死にたくないでしょう。あちらでご自分にあってみれば私たちと同じ気持ちになると思います。私たちは新たな人類の発展の一歩を目の当たりにしているのです」
先ほどまで嬉々として話していたヴィンセント博士も顔が引き攣っていた。
同じ研究者の立場で見てもこのチャーチルという男の行動は常軌を逸しているのであろう。
あの研究所の武装した係員が全てこの男の分身だとしたら、私たちには選択肢はないのであろう。
何人チャーチルがいるのかさえ私たちには判断できないのだから。
私の嫌な予感は的中してしまった。ここから生きて出るにはまず彼らの言う通りにする必要が出来てしまったのだ。




