河童
何やらざわめきが聞こえる。どうやら自分の周りに、数人の人が集まって話し合っている様子だ。
ヘンリーは身を起こして周囲を見回す。するとそこには、多少の違いこそあれども、皆一様に青い服と緑の帽子をかぶった数名の少女たちの姿がそこにあった。
立ち上がると、正面に、漢字で『河童詰所』と書かれているのが見える。ということは、彼女たちは河童なのか?
視線を下げると、自分を取り囲んでいた少女の周りに、更に同じような服を着た少女たちが集まってこちらを見ていることに気付く。気が付くと、大勢の河童にとり囲まれていた、といったということだろうか。
そんなことを考えていたヘンリーは、視界の隅で、何かが跳ねているのに気付き、そちらを見やる。そこには、自分の小さな体を少しでも目立たせようと、両手を振りながらピョンピョン飛び跳ねている少女の姿があった。その少女は、ヘンリーと目が合うと人ごみをかき分けてこちらに近づいてくる。
「いやぁ、ようやっと目を覚ましたね。気分はどうだい?」
その少女は親しげに話しかけてくる。ヘンリーは自分の体に異常がないことを確認し、頷いた。
すると少女たちは、安心した様子で息を吐いた。それは自分に話しかけてきた少女も同じだった。
「よかったねぇ。あたしがあんたを見つけてなかったら、今頃きっと食われてただろうね」
「食われてた……? それは一体? そもそも君たちはだれで、ここはどこなんだ?」
「質問が多いよ。私たちは河童で、ここは私たちの工場の敷地内だよ。ほら、あそこに河童詰所って書いてあるでしょ?」
少女が指さすのは、ヘンリーがさっき見た文字だった。やはり彼女たちは河童なのだ。とても信じられないことだが。
「私はここの責任者の河城にとりってもんだよ。私があんたを見つけたんだから、感謝してくれよ」
「はあ……ありがとう」
胸を張るにとりに向けて礼を言うと、彼女は笑みを見せる。しかしヘンリーには、その笑みの裏に、何か恐ろしい企みが渦巻いているような気がしてならなかった。
ここからでなければ。ヘンリーはそう思い、立ち上がる。
「ありがとう。世話になったよ」
「ちょっと待って! この山を人間が一人で降りることなんてできないよ」
にとりが声を上げる。振り返ると、きゅうり片手にこちらに近づく彼女の姿が見えた。
「一人じゃ降りられないってどういうことだい?」
「ここは妖怪の山。ただでさえ強い鬼や天狗がうろついてるっていうのに、力のない人間なんかが妖怪に襲われずに山を下りるなんて、無謀としか言いようがないね」
「それじゃあどうすれば?」
ヘンリーがそう聞くと、にとりとその周りにいた河童たちも含め、全員が嫌らしい笑みを浮かべる。
「実は最近、工場の機械が不調でねぇ。君の協力があれば、私たちのライフラインである胡瓜の生産が再開できるんだけどなぁ」
「手伝え」オーラを前面に押し出してくる河童たちに負け、ヘンリーは頷く。
「さっすが人間! やっぱり持つべきものは友達だねぇ!」