表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾走と弾丸  作者: 榊かえる
27 弱虫おおかみとおこりんぼうの赤ずきん
205/208

27-3

 いつものように食べるだけ食べて、相田は自室に帰る。


 少し休憩してお腹が落ち着いてから、日課の筋トレをする。既に必要無いとはいえ、完全に習慣となってしまったのでやらない方が気持ち悪いのだ。勿論、専門のマシンがあるわけではないので簡易的なもののみである。

 うつ伏せになり、肘と爪先を床につけて、腰をゆっくりと左右に動かす。この際に体感を意識するべきなのだが、今の相田は余計なことを延々と考え続けてしまう。


 先輩と椿、いかにすべきか。いっそ介入してしまった方が良いのでは? いやしかし、それはただの自己満足だ。良くない。よくない。

 先輩の言うことも分かる。そりゃ心配にもなるだろう。避けた方が安全だというのも十分に理解できる。

 でもでもだって、それでいいのか? 本当に? よくなくない? よくなくなくなくない?


 じんわりと汗が出てくる。


 個人的に気に食わないだけだというのは、自覚している。他所様にやいのやいの言うのは良くない。分かってるけどぉー……


「ギギギギギ」


 あの椿が、あの、椿が、だ。しおしおになっているのだ。しおしおになっているのは先輩も同じ。しおしおになる必要なんてないのに、枯れ草の如くしおしお。何だこの状況。解せぬ。あの人達のしおしおなんて滅多に見れるもんじゃない。見たいか見たくないかで言ったら後者。


「ギギギギッギギィ」


 しかし、なんとかなるんじゃないのー? などと安易に答えられる立場でもない。本人じゃないので。当人じゃ、ないので。

 だが、両方を知っている人間としては歯ぎしりしたくもなるのだ。奇声を上げたくもなるのだ。

 このやりきれない感情をどうすればよろしいの。情報を把握している加納みさき大明神にでも相談しようか。それとも、名前を伏せて佐伯にでも吐き出そうか。でもなあ、佐伯って勘が鋭いから、話してるうちに気付いちゃいそうだよな。


「ギギギ……ギ……」


 あー……そっか……アレだ、何かあってからでは遅いから、言いたいことは言っといた方が良いし、聞きたいことは聞いといた方が良い。そゆことだ。本当に、何かあってからでは全てが遅すぎる。この、俺みたいに。


 ……響介よお、あの時、なんて言いたかったんだよ。何を言おうとしてたんだよ。俺だってさ、今なら分かるよ、なんとなく。何が言いたかったのか。あの時だってうっすら分かりかけてて、それでも認めたくなくて。でもやっぱさ、本人の口から聞きたかった。喧嘩の続きしたかった。死んじゃったらおしまいだよ。


 死んだらおしまい、と言ったら。

 お父さんとお母さんもさ、色々やり残したこと、あったろうな。残し……

 ……あ、やべ、実家の整理しないとじゃないか? お父さんのもお母さんのも、なんなら祖父ちゃんのもそのまんまじゃね? 草むしりと部屋の掃除はしてるけど物はそのまんま、じゃ、ね? やっべえ片付け始めないと一生終わらん。押し入れの中とか見てない。なんか二階の押し入れの中みっちみちに入ってるよね、何か知らんけど。一階の押し入れは布団しか入ってないからいいんよ、こないだ帰ってきたときに使ったやつ、クリーニングに出して圧縮もしたし。えっやばいな、普通にやばいな、すぐにでも始めたほうが良いんでないの片付け。業者に遺品整理頼むと結構金かかるってどっかで聞いた。明日……


 ここで、傍らに置いてあるスマートフォンがけたたましく鳴った。


「ギャギィッ?」


 何だろうと見てみれば、通話通知。しかも相手は椿だ。タイムリーすぎる。慌てて通話状態にする。


「もしもし、相田? 今大丈夫?」

「ギャギャギャーギャ」

「母国語出てる。日本語で頼むわ」

「ギャ……どしたよ」


 少しの間。らしからぬ。


「あのさ、相田って網屋さんちの隣に住んでるんだよね」

「おう、なんならついさっきまで先輩の部屋で晩飯食ってた」

「じゃ、今、いる? 網屋さん、部屋に」

「いるねえ」

「確実にいるのか。よし……よし」


 これだけで十分だった。相田は瞬時に理解した。奴の意図を。

 ここで言葉をためらったりする疾風・相田雅之ではない。時間が惜しい。タイムイズマネー。


「先輩んとこ、襲撃でもすんのか」

「……する」

「なるほどオッケー了解了解。店に来ない件の詰問とか、そういうやつ?」

「うん。勝手に悩んで勝手にウジウジしてるの、嫌になった。だから直接聞きに行く」

「ようしいいぞ、やってしまえ。でもなあ、今のパイセン、居留守とか使うかもしないよ」


 容赦などしない。やると決めたならやるべきだし、それの後押しをするのなら細かい説明などしている暇はない。端折れ俺。最短でコーナーを攻めろ。


「居留守ゥ……」

「任せろ、策はある。一回しか使えないけど、ドアをこじ開ける方法、ある。安全靴はいてきな」

「バイク用のブーツでもいけるかな」

「いけるべ。いいか、時間ねえから一回しか説明しないぞ。よーく聞け」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ