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いつものように食べるだけ食べて、相田は自室に帰る。
少し休憩してお腹が落ち着いてから、日課の筋トレをする。既に必要無いとはいえ、完全に習慣となってしまったのでやらない方が気持ち悪いのだ。勿論、専門のマシンがあるわけではないので簡易的なもののみである。
うつ伏せになり、肘と爪先を床につけて、腰をゆっくりと左右に動かす。この際に体感を意識するべきなのだが、今の相田は余計なことを延々と考え続けてしまう。
先輩と椿、いかにすべきか。いっそ介入してしまった方が良いのでは? いやしかし、それはただの自己満足だ。良くない。よくない。
先輩の言うことも分かる。そりゃ心配にもなるだろう。避けた方が安全だというのも十分に理解できる。
でもでもだって、それでいいのか? 本当に? よくなくない? よくなくなくなくない?
じんわりと汗が出てくる。
個人的に気に食わないだけだというのは、自覚している。他所様にやいのやいの言うのは良くない。分かってるけどぉー……
「ギギギギギ」
あの椿が、あの、椿が、だ。しおしおになっているのだ。しおしおになっているのは先輩も同じ。しおしおになる必要なんてないのに、枯れ草の如くしおしお。何だこの状況。解せぬ。あの人達のしおしおなんて滅多に見れるもんじゃない。見たいか見たくないかで言ったら後者。
「ギギギギッギギィ」
しかし、なんとかなるんじゃないのー? などと安易に答えられる立場でもない。本人じゃないので。当人じゃ、ないので。
だが、両方を知っている人間としては歯ぎしりしたくもなるのだ。奇声を上げたくもなるのだ。
このやりきれない感情をどうすればよろしいの。情報を把握している加納みさき大明神にでも相談しようか。それとも、名前を伏せて佐伯にでも吐き出そうか。でもなあ、佐伯って勘が鋭いから、話してるうちに気付いちゃいそうだよな。
「ギギギ……ギ……」
あー……そっか……アレだ、何かあってからでは遅いから、言いたいことは言っといた方が良いし、聞きたいことは聞いといた方が良い。そゆことだ。本当に、何かあってからでは全てが遅すぎる。この、俺みたいに。
……響介よお、あの時、なんて言いたかったんだよ。何を言おうとしてたんだよ。俺だってさ、今なら分かるよ、なんとなく。何が言いたかったのか。あの時だってうっすら分かりかけてて、それでも認めたくなくて。でもやっぱさ、本人の口から聞きたかった。喧嘩の続きしたかった。死んじゃったらおしまいだよ。
死んだらおしまい、と言ったら。
お父さんとお母さんもさ、色々やり残したこと、あったろうな。残し……
……あ、やべ、実家の整理しないとじゃないか? お父さんのもお母さんのも、なんなら祖父ちゃんのもそのまんまじゃね? 草むしりと部屋の掃除はしてるけど物はそのまんま、じゃ、ね? やっべえ片付け始めないと一生終わらん。押し入れの中とか見てない。なんか二階の押し入れの中みっちみちに入ってるよね、何か知らんけど。一階の押し入れは布団しか入ってないからいいんよ、こないだ帰ってきたときに使ったやつ、クリーニングに出して圧縮もしたし。えっやばいな、普通にやばいな、すぐにでも始めたほうが良いんでないの片付け。業者に遺品整理頼むと結構金かかるってどっかで聞いた。明日……
ここで、傍らに置いてあるスマートフォンがけたたましく鳴った。
「ギャギィッ?」
何だろうと見てみれば、通話通知。しかも相手は椿だ。タイムリーすぎる。慌てて通話状態にする。
「もしもし、相田? 今大丈夫?」
「ギャギャギャーギャ」
「母国語出てる。日本語で頼むわ」
「ギャ……どしたよ」
少しの間。らしからぬ。
「あのさ、相田って網屋さんちの隣に住んでるんだよね」
「おう、なんならついさっきまで先輩の部屋で晩飯食ってた」
「じゃ、今、いる? 網屋さん、部屋に」
「いるねえ」
「確実にいるのか。よし……よし」
これだけで十分だった。相田は瞬時に理解した。奴の意図を。
ここで言葉をためらったりする疾風・相田雅之ではない。時間が惜しい。タイムイズマネー。
「先輩んとこ、襲撃でもすんのか」
「……する」
「なるほどオッケー了解了解。店に来ない件の詰問とか、そういうやつ?」
「うん。勝手に悩んで勝手にウジウジしてるの、嫌になった。だから直接聞きに行く」
「ようしいいぞ、やってしまえ。でもなあ、今のパイセン、居留守とか使うかもしないよ」
容赦などしない。やると決めたならやるべきだし、それの後押しをするのなら細かい説明などしている暇はない。端折れ俺。最短でコーナーを攻めろ。
「居留守ゥ……」
「任せろ、策はある。一回しか使えないけど、ドアをこじ開ける方法、ある。安全靴はいてきな」
「バイク用のブーツでもいけるかな」
「いけるべ。いいか、時間ねえから一回しか説明しないぞ。よーく聞け」




