Your's proof of life
彼は絶望感に満ちた目をしていた。
「どうしたの…?」
そう問いかけるわたしに彼は答えた。
「診断結果、でたよ。」
「ど、どうだった?」
恐る恐る問いかけると彼は黙り込んでしまった。
「……だって…。」
「え…?」
「ガン、だって……、あちこちに転移してるって…、治療は無理だって……。」
「が、ん…?うそっ…でしょ?そんな…っ!こんなに元気なのに?」
「嘘なわけねーだろっ‼︎こんなときに…嘘なんてついてらんねーよ…。」
「な、なら、なにかの間違いだよ‼︎ねっ⁇きっとそうだよ‼︎」
受け入れるのが怖くて、あなたを失うのが怖くて、必死に笑顔を作った。
「………っ…!」
無駄な強がりをみてあなたは声を殺して泣いていた。それをみて受け入れざるを得なくなったんだ。そんなわたしにあなたは言いました。
「…俺たち、別れよう。入院、しなきゃいけないんだ。アンタに迷惑かけるから……お互いのために。」
「ヤダ…、ヤダよ!ずっと一緒にいるって約束したじゃないっ‼︎一緒に…いたいの、ずっと。」
「でももう、俺にはなにも…アンタとデートに行くことすらできなくなるかもしれない。」
「それでもいいの。一緒にいたいの。なにもできないけど…そばにいることはできる。慰めにしかならなくても、励ますことはできる。気を紛らわせることはできるから…、会いたいって言うなら飛んで行くから…。」
そこまで言って泣いてしまった。わたしがこんなんじゃダメなのに…悲しい。辛い。怖い。
「俺で、いいの?」
「あなたがいい。」
「ありがとう…、ありがとう…っ」
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わたしは柏木凛華。今年、とうとう初彼ができたのです。彼の名前は桜翔太。頭はそんなにみたいだけど、スポーツが得意で所属しているサッカー部でも期待されているらしい。スラッとしてて背が高くて口は悪いけど、カッコ良くて普通にモテる人だった。そんな彼がわたしを選んで告白してくれたんです‼︎
「その…前から好きでした。…俺、口悪いし、喋り方とか冷たいってよく言われて…けどっ、アンタがイヤだって言うなら直すからっ!」
顔を真っ赤にしながらそこまで言って一息ついた。
そして、こう言ったんだ。
「俺と…付き合ってください。」
その瞬間、わたしは直感したんだ。
翔太が運命の人なんだって。
「はい♪」
その日からわたしの1日は彼でいっぱいになった。朝一緒に登校して休み時間にはいっぱい喋ってお昼も一緒に食べてわたしは部活動はしていなかったからサッカー部を見学してて、終わったら一緒に帰って。たまには寄り道をしたりもしたよね。そう言えばすごく些細なことで喧嘩もしたっけ。あれはわたしがまだ桜くんと呼んでいたとき。
「なぁ、アンタってさ趣味とかあんの?」
そんな普通の質問。だけどイヤだった。
「…ねぇ、桜くん。その…アンタって言うの、やめてくれない?」
「は?なんで?」
「だって付き合ってるのに…」
「だからなに?」
「〜っ!なんでわからないのっ⁈」
「なんだよ、急に!人の気持ちなんかわかるわけねーだろ⁈」
「普通付き合ってるのに彼女をアンタなんて呼ばないでしょ‼︎」
「じゃ、なんて呼べばいいんだよ!」
「名前で呼んでよっ‼︎」
「な、名前って…お前…っ、呼べるわけっ…!」
「わたしのことキライ?」
「なんでそうなるんだよ!そうじゃなくて…その、は、恥ずかしいだろ⁉︎」
「へっ…?」
「アンタだって俺のこと苗字だし、でも俺が苗字で呼ぶとなんかアレだし、かと言って名前で呼ぶのは恥ずいし…どう呼べばいいのかわからなかったんだよ‼︎」
知らなかった。あなたがそんなこと思ってたなんて。それと同時に可愛くも思ったんだ。
「どうしても…名前で呼べって言うなら呼ぶけどその代わりっ!アンタも俺を名前で呼べよなっ‼︎」
「…うん!ゴメンね、こんなことで怒るなんて。」
「俺こそ、ごめん…凛華。」
こんなことで喧嘩になるくらいに照れ屋でそんなところがすごく可愛くてもっと好きになりました。
なのに…。
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彼は次の日、デートに連れて行ってくれた。
「凛華が行きたいとこ連れてってやる‼︎どこがいい?」
「んー…ゲーセンとか?」
「そんなとこでいいのか?」
「うん、いっぱい景品取ってね♪」
「おぅ、任せとけ‼︎」
二人でたくさんゲームしたよね!UFOキャッチャーなんて全然取れなくて景品たくさん持ってる人に頼んだっけ。
取ってもらってめっちゃお礼言ったよね。そのあとご飯食べてプリクラも撮ったね。すごく楽しかった、いい思い出。
次の日から翔太は入院した、抗がん治療をするために。わたしは毎日お見舞いに行った。翔太は胃が食べ物を受け付けないみたいでよく吐いていた。そして、日に日に痩せていった。
「凛華、今日も来てくれたのか、サンキューな!」
翔太は元々の性格のせいか、苦しいとか辛いとか言わなかった。いつも変わらず笑っていた。
「来たよ、翔太に会いたいんだもん。」
紛れもない本音だった。考えたくはなかったがあちらこちらに転移しているのならいずれは、最悪の事態を覚悟しなければならない日が来るのだろう。だって少しずつ、少しずつ、翔太が弱っていくんだ。背中が弱々しくなっていくんだ。その日までに、少しでも一秒でも長く一緒にいたかった。
「凛華…ありがとな。」
「わたしが好きでやってるの。」
時々ふと、考えてしまうんだ。いつまでこうしてともに笑っていられるのだろう、と。
ある日病室へ行くと先客がいた。
なんとなく、
ただ、なんとなく話を聞いてたんだ。
「先生、話って…なに?」
先客は担当のお医者さんでした。
「翔太くん…キミにはもう残された時間は少ない。」
「え…」
「キミには薬が効いていない。ガンを全て取り除くのも無理だ。もう…手の施しようがない。」
「そんな…っ。」
「もって一ヶ月だろう…。」
ショックだった。でもそれ以上に翔太になにかしてあげたくて、身体が勝手に動いたんだ。
「あの…わたしには何がしてあげられますか?残された時間で、翔太のためにわたしにはなにができますか?」
「凛華!聞いてたのか…っ、」
「キミは…彼女さんか。翔太くんの親御さんが許可をくれたら、だけど退院してもいいよ。」
「本当ですか⁈」
「あぁ、とは言っても一時的にだよ。その間も通院はしてもらうし。その間にデートなりなんなり好きにするといい。」
それは先生の気遣いだった。
そして次の日、翔太の両親にあって話をした。二人は承諾してくれた。
「最後の機会になるかもしれないから、精一杯楽しんでおいで。」
そう言ってくれた。
その週末、翔太は帰宅した。
「じゃあ、凛華。明日迎えにいくから、気をつけて帰るんだぞ。」
「わかってるよ、待ってるから!」
翔太はもう限界寸前だった。
なのに、わたしのために無理してたんだ。
デートには海へいった。もう冬だから人はいなかった。翔太とわたしは適当なところに座った。しばらく他愛ない話をしていた。でも、ふとした瞬間二人揃って黙り込んだんだ。それが寂しくて、翔太に抱きついた。いまにも消えてしまいそうで。
「翔太…我慢しないでいいんだよ?辛いなら辛いって言っていいの。聞くよ、わたし。翔太は一人じゃないんだよ。」
「りん、か…!俺…怖いっ、死にたくない…っ!まだやりたいこといっぱいあるんだ、将来就職して安定したらアンタと結婚したいって…!」
「うん、うん…っ、わたしも、翔太と結婚したいよぉ‼︎子どもも産んで親子で…っ幸せな家庭を…作りたいっ!」
お互いの気持ちが重なり合ったこの日から、わたしたちは小さな奇跡を願ってたよね?いつか、いつの日かみんなで過ごせる日が来たら。そう思ってやまなかったよね?
ねぇ、神様。もし、この世界にあなたがいるならどうか、翔太を奪わないで。わたしから大切な人を奪わないで。
わたしにはなにもできないから…祈ることしかできない。自分の無力さに腹が立つ。
…その数日後、翔太は自宅で息を引き取った。その知らせを聞いたとき一日中部屋に引きこもってご飯も食べずに泣いた。
「凛華ぁ……、ご、めん…」
最後にそう言っていたそうだ。
後日、お葬式が行われた。もちろん出席した。不思議と涙は出なかった。なにも感じなかった。涙は枯れていた、それくらいにたくさん泣いたから。でも、まさか、あんなこと…。
それは、翔太のお母さんからもらった一通の手紙。翔太の部屋を片付けていたらあったと言う。
「凛華ちゃん、あなた宛と書いてあったから渡そうと思ってたの。…あの子の死を悲しんでくれるのは母として嬉しいことなのだけれど…読んであげて欲しいの。」
もちろんちゃんと読むつもりだった。
最後に残してくれたものだから。
《凛華へ、
アンタがいまこれを読んでるってことは俺はもう死んじまったんだな。ごめんな、一人にして。…いや、一人じゃないな。アンタにはたくさんの友達が周りにいる。親だって、俺の両親だってきっと凛華を守ってくれる。
…なぁ、凛華はこの世に神様がいると思うか?いるなら、俺は死ななくてもいいのかな?まぁでもいいんだ、これが運命だから。
神様がいるならひとつ願いがあるんだ。どうかこの先、凛華に不幸が訪れませんように。
アンタに出会うために生まれて、アンタに出会って死んでいく。俺にとって最高の人生だった。
凛華、ありがとう。
翔太》
これを読み終えたわたしは泣いた。
枯れたと思っていた涙がまだ、
たくさん溢れてきた。
運命とはなんと残酷なものだろう。
それでも、
翔太に出会うために生まれて、
出会えてよかった。
これを一生大事にする。
翔太がいままで生きてきた、
命の証、だから。
読んでくださってありがとうございます。
いままで書いたので一番長かったです〜。
感想、アドバイスお待ちしております。笑