序章 8
準備の為に柳白が立ち去った後、自分と子供らを逃がすことを知った
劉儀の妻・桜花は
「あなた!さっきの話はどういうこと?……
私に絶対、逃げませんから……」
もの凄い剣幕で怒りながら、夫である劉儀のもとにやってきた。
突然、目の前に妻の桜花が現れたのに劉儀は一瞬、驚いたものの、
至って、平然を装いながら
「困ったなぁ。もう知られてしまったのか?……」
と言うと桜花はふくれ面で怒ったまま、
「もう、知られてしまったじゃないわよ。あなた!」
劉儀のことを睨み付けた。
「そう言う、顔をするなよ。桜花…… この城はもう直、外にいる軍勢で
落ちるだろう! その前にお前と子らだけでもこの城から抜け出して
生き延びて欲しいのだ……」
劉儀は諭【さと】ように桜花にそう言うが
「嫌です。私も最後まで一緒にお供をします……」
桜花は涙を流し、劉儀に縋【すが】った。
劉儀は少し困った顔をしながらも
「ならぬ!お前は幼き子らを守り、劉炎国にいる弟の刻神にこのこと
知らせるのだ…… おそらく、弟の刻神はこのことを知らないで
いるだろうから……」
自分の居城を騒然と取り囲む杜闑の率いる軍勢を
眺めながら、妻の桜花にそう言った。
桜花は涙を零しながら
「わ、わかりました・・・・ご武運をお祈りします!」
頷くと名残惜しそうに準備を終えて、戻ってきた柳白と共に
劉儀のもとを後にした。
柳白らが劉儀のもとから立ち去って、すぐに劉儀のもとに
「殿!大変です!……敵の総攻撃です!」
兵士の一人が駆け寄ってきた。
そのあと、すぐに劉儀の居城に杜闑の率いる軍勢が総攻撃を
掛けてきて、たちまち、劉儀の居城は火の海に包まれた。
『これまでか!……』
劉儀が最後を覚悟したその時……
「あ、あなた!……」
そんな声と共に柳白と共に城から出たはずの桜花が劉儀の前に
突然、現れた。
『え?……』
自分のことを見て、驚いている劉儀に桜花は
「言ったでしょ! 最後まで一緒だって……」
劉儀に満面の微笑みを見せた。
『困ったなぁ……』
突然、自分の前に現れた桜花に劉儀はすでに辺りは火の海で
妻の桜花を逃がすことができず、困った顔をしたものの、
突然、自分の前に現れた桜花の顔を見た劉儀は
どこか、ホッとしていた。
「しょうがない奴だ!……」
桜花を自分の傍に引き寄せた劉儀は
「息子らは?……」
桜花に子供らのことを訊いた。
桜花は劉儀の胸に埋もれながら
「大丈夫よ! あの柳白という人に子供らを逃がすように
頼んだから……」
「そうか……」
それを聴いて、ホッとため息を付き、劉儀と桜花が
抱き合うと劉儀の居城は爆音と共に跡形もなく、消し飛んだ。
柳白は劉儀の居城が消し飛ぶ前に劉儀の子供らを城から連れ出すと
杜闑の率いる軍勢が劉儀の居城に総攻撃をかけている隙に
自分の主である関邦のもとに向かった。
関邦は城から連れ出した劉儀の息子らを見ながら
「でかしたぞ!柳白。 だが、ここに居てはこの子らが危ない!
すまないがすぐに北方の警備に当たっている我が配下の
孔游【こうゆう】のもとに向かえ!」
柳白に命じた。
「わ、わかりました! すぐに孔游のもとに向かいます!」
柳白は主である関邦にそう言うと直ちに北方の警備に
当たっている関邦の部下である孔游のもとに劉儀の子供らと
共に向かった。