序章 6
劉儀たちは関邦が教えてくれた手立てで黒孤国の兵を凍刹山の谷間まで
退かせることが出来た。
反撃をしようとしない黒孤国の兵を見た老霍は劉儀達に
一先ず、兵を引くように進言したが獅幻は老霍の進言に反対し、
意見が対立した。
困った劉儀は老霍と獅幻の間に入り、前線の華胡群に獅幻の兵を残し、
後の兵は劉炎国に戻ることにした。
はじめは二人とも劉儀の案に難色を示していたが劉儀が
劉炎国と華胡群の間にある劉儀の居城・燦漸群【さんぜんぐん】に残り、
獅幻の後方支援に当たることで老霍も獅幻も納得をした。
劉儀達はそれぞれの場所に兵を配置したがそれでも一向に凍刹山の谷間に
退いた黒孤国の兵は動こうとしなかった。
最善線で黒孤国の兵と退治している獅幻の兵は何も起こらない状況に
徐々に心に緩みが生じはじめていた。
そんな頃。劉炎国に戻った老霍の元に怪しげな闇が近付こうとしていた。
夜更けすぎに老霍が自宅の書斎で本を読んでいると部屋の灯りが急に
揺らぎ始め、部屋の一箇所が黒い霧に覆われたかと想うと渦を巻き、
その中から怪しげな俯いた男・杜闑【とげつ】が現れた。
「何者だ!……」
老霍は机の端に立て掛けていた剣を取り、身構えようとしたがどういう訳か、
机に立て掛けていた剣は張り付いたように机にしっかりと付いたまま、
老霍の力では取ることが出来なかった。
「老霍殿ですね。そなたの躯を戴きに参りました……」
杜闑は顔を上げ、ニヤリと微笑んだ。
「なに!わしの躯を貰いに来ただと……」
老霍がそう言う間に杜闑は呪文のようなモノ(言霊)を呟くと瞬く間に
老霍を支配した。
「これから我ら、深き闇のために我と共に存分に働いてもらいますぞ!……」
杜闑は再び、ニヤリと笑うと老霍に絡み付き、老霍と同化した。
老霍と同化した杜闑は龍炎国の宮殿内で刻神の配下の者らを
次々と自分の僕【しもべ】と取り込んでいった。
その老霍に化けた杜闑の不穏な動きに宮廷の警備をしている関邦は
いち早く感じ取り、親友でもある劉儀に相談をしようと自分の配下の
柳白を劉儀の元に走らせた。
劉儀に届けられた関邦からの手紙には龍炎国の不穏な動きが
事細かに書かれていた。
「これはいかん!すぐに龍炎国に戻らないと……」
劉儀は腕の立つ配下の者らを引き連れ、龍炎国の都・焔火に戻ろうとしたが
いち早く、劉儀の動きに気付いた杜闑は自ら、凍刹山の谷間に留めてある
黒孤国の軍の陣営に赴くと獅幻が守っている白雲庄に黒孤国の兵を進めた。
獅幻も津波のように押し寄せる黒孤国の兵と戦ったが瞬く間に負け、
捕らわれてしまった。
劉儀がそのことを知り、急いで白雲庄に向かったが獅幻も黒孤国の兵の姿は
何処にもなかった。
更に動いた老霍の姿をした杜闑は龍炎国の警備隊長として龍炎国の警備を
行っている関邦の屋敷を全身、黒ずくめの賊らに襲わせた。
しかし、賊の力で関邦を倒すことは出来なかった。
不利と見るや賊らは関邦の家族を人質に捕った。
「卑怯だぞ! 正々堂々と戦え!……」
関邦が家族を人質に捕った賊らにそう言っていると何処からともなく、
杜闑が現れ、
「家族を助けたくば、暫くの間、大人しくしていてもらう!……」
「わ、わかった……」
関邦は家族の為に武器を捨て、杜闑に従った。
『これであと、残すのはアイツ【劉儀】のみだ!……』
全ての準備を整えた杜闑は再び、老霍に姿を変えると最後の仕上げのために
動き出した。