第68話 強制労働
「ここか……」
「そうみたいだね」
草むらに隠れながら、俺たちは前方の様子を伺う。
そこには、真っ赤な塔がそびえ建っていた。
その後方には大きな洞窟があり、周りに転がっている土砂を運ぶような器具から、どうやら人の手で掘られた物の様だ。
この鉱山では、魔族に捕らえられた多数の人間が強制的に働かされていて、例の倒れていた男もそこで働かされていた。
ところが、何故かは分からないが魔族たちの様子が慌ただしくなり、その後見張りが激減、チャンスとばかりに何人かの仲間達と逃げたが、途中ではぐれてしまったとの事だ。
「しかし、こんな大きな塔があれば目立つだろうに……」
「……結界があった。この深い霧もただの霧ではない」
「うん、私も感じたの」
「えっ!? ――って事は、ひょっとして侵入したのがばれてる?」
「……大丈夫、上手くやった。無問題」
「ミサキすご〜い♪」
「……ミウ、ありがとう。……カナタも、感謝の気持ちを行動で表すなら今が大チャンス」
そう言うと、ミサキが目を閉じて何かを要求してくる。
「――さて、先ずは捕えられている人の救出だな」
「……カナタが冷たい」
ミサキの要求を何時もの様にスルーしつつ、どうしたものかと考える。
塔の正面には見張りらしきゴブリンが二体、ご丁寧に槍とプレートを装備している。
洞窟の入り口には見張りらしきものが一匹、付近を旋回している。
おそらくインプか何かだろう。
「まかせてなの」
アリアは背中にしょっている大弓をインプに向かって構える。
バチバチッ!
矢が白く変色し、雷を帯びる。
アリアは右手をそっと放す。
ヒュオッ!
白い矢は一直線にインプに向かい、見事に命中。
そのまま地面へと落下する。
「アリア、すごーい!」
「ありがとうなの」
確かに凄い。
魔法のような派手さが無い分、隠密攻撃にはピッタリだ。
これだけでもアリアは十分な戦力になる。
俺たちは塔の死角を移動して、洞窟の入り口にたどり着く。
例のインプは――見事に黒焦げである。
「さて、これから突入する訳だけれど、必要以外の戦闘は避けようと思う。あくまで目的は捕えられている人の救出だ。ただし、危険な時はためらわないでくれ」
「わかったよ」
「……了解」
「わかったの」
「よし、行くぞ!」
俺たちは洞窟へと足を踏み入れた。
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ピシッ! ピシャッ!!
「おら、働け! そこの奴、動きが鈍いぞ! 楽になりたけりゃあ言え。変わりはいくらでもいるんだからな!」
つるはしで洞窟を掘り進め、掘り当てた鉱石をまた何人かで運び出す。
皆、顔は痩せこけ疲れ切っており、まともな食事や休みなどが無いことが窺える。
ドサッ!
一人の男が土砂の運搬中に倒れる。
それを見た小太りの偉そうな男が近寄り鞭を入れる。
「何を倒れているのですか! 早く立ちなさい! お前もこの前の奴の様に死にたいのですか!」
ピシッ! ピシャッ!!
その時、一人の影が倒れた男を庇うように覆いかぶさる。
「やめてくれ! 弟は生まれつき体が弱いんだ! お願いだから少し休ませてくれ! あんたも同じ人間なら分かってくれるだろう!」
「……ほう、休みねぇ。ならば、貴方が弟の代わりに二倍働いてくれるとでも言うのですか? でしたら考えてあげなくもないですよ」
「ああ、働くとも! だから頼む」
「わかりました、良いでしょう。お前たち! あれを運ばせてやりなさい」
「「へい!!」」
何人かの男によって、トロッコに積まれた山盛りの鉱石が運ばれてくる。
そのトロッコにりロープを繋ぎ、男に背負わせる。
「約束は守ってくれるのだろうな」
「ええ、もちろん。約束ですので守りますとも」
男は不安気な表情を見せながらも、精一杯の力を振り絞り、鉱石を外へと運び出していった。
「……さて。おい、お前たち! この邪魔な男を始末してきなさい」
「えっ!? 休ませるんじゃ無いんですかい?」
その問いに、小太りの男はニヤリと笑う。
「私は考えてあげると言ったんですよ。ええ、考えましたとも。ですが残念な事に答えは変わりませんでした」
「なるほど、さすがピレーネさんです」
周りの強制労働者達は一連のやり取りを見てさらに絶望感を募らせる。
このままここで一生を終えるのか。
男たちは僅かな希望も見い出せなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ひどい! ひどいよ、カナタ!」
気配を消し、岩場の影に隠れて一連のやり取りを見ていたミウは憤慨している。
かくいう俺も、何度飛び出していきそうになったことか。
だが、人質を取られては不味いとの思いが、俺たちを踏みとどまらせていた。
飛び出したら一気に掃討しなければならない。
「……カナタ。こっちは準備OK」
ミウとミサキはすぐにでも魔法が発動できる体制だ。
アリアも後ろで大弓を構える。
「よし、今だ!」
俺の合図とともに、弓と魔法が一斉に飛びかう。
「うわっ! 何だ?」
「ぐえっ!」
それは容赦なく敵を貫き、無力化させていく。
「くっ! 何ですか!? 何が起こったのですか?」
一人残った偉そうな男はパニック状態だ。
俺はその目の前に立ち剣を振り上げる。
「ま、待ってください。私はただ脅されて……」
何が起こったのか分かった強制労働者たちが一斉に『嘘をつくな!』と責め立てる。
「周りの皆はああ言っているぞ」
「い、いや、誤解なんです。そうです。洗脳されていたんです。今、目が覚めました。助けて下さってありがとうございます!」
「俺は助けたつもりは無いな」
「そ、そんな……」
胸糞悪いが、とりあえず捕縛しておこう。
そう思ったその時、偉そうな男の胸からつるはしが生えた。
「俺はお前を許さない!」
先程重い荷物を抱えさせられた強制労働者だ。
恐らく事の顛末を聞いたのだろう。
偉そうな男はその場に倒れ、そのまま動かなくなった。
周りを見ると、他の強制労働者も無力化した男たちに向かいつるはしを振るっている。
「みなさん、待ってください!」
俺は大声で静止を呼びかける。
「いいや、助けてもらったあんたらには悪いが、これだけは譲れない。こいつらは俺たちを魔族に売りやがったんだ!」
見るに堪えない憎しみの連鎖に目をそらしたくなる。
そして数分後、鞭を振るっていた男たちは誰も生き残ってはいなかった。
「よし! 俺たちは自由だ!!」
「ああ! ここともおさらばだ!!」
異様な興奮状態による男たちを俺たちは全力で止めにかかる。
「待ってください! まだ助かったわけでは……」
しかし、俺の言葉は届かない。
皆、出口に向かって一斉に駆け出す。
「――仕方ない、行こう!」
俺たちは最後尾から彼らを追いかけた。
「ぐえっ!」
「ぎゃあ!」
地上の明かりが見え始めた丁度その時、出口の向こうから悲鳴が聞こえた。
俺たちは急ぎ出口へと向かう。
そこには――赤褐色の筋肉に黒い羽根を持った悪魔が、男たちの行く手を阻んでいた。
「みんな、気をつけろ!」
待ったなし!
俺たちはデーモンとの戦闘に突入した。
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