第66話 場外での延長戦
いよいよこれから準決勝だ。
相手は歴戦の魔法剣士、王都ではかなり有名人で、今まで優勝経験が無いのがおかしなくらい強いらしい。
今年優勝出来なかったら引退をすると宣言し、猛特訓の末、今回の大会に望んでいるとの事。
かといって、俺も手心を加える気はさらさら無い。
俺の力がどこまで通用するのか、全力でぶつかるだけだ。
「よし!」
瞑っていた目を開け、立ち上がる。
前回ダメージを受けた腕も治し体調は万全、これで負けたら俺の実力不足という事だ。
控室の扉を開け、会場へと向かう。
しかし、その行く手を遮る人影が一つ。
「……カナタ、手伝って。私一人では無理」
そう、その人影はミサキだった。
ミサキから一枚の手紙を受け取る。
そこには、懲りない連中の悪あがきとも言うべき行いがつらつらと書かれていた。
内容を要約すると――
『他の騎士仲間の命が欲しくば、一人で廃工場まで来い』
「ミサキ、この手紙はいつ届けられた?」
「……ついさっき。何も知らない子供が届けてくれた。……私があなたといる所を見られていたらしい」
そうか、変装して会場に入る時だな。
だが、そんな事はどうでもいい。
カリスの仲間の命、助けに行かなければなるまい。
「よし! 行こう」
大会は棄権になるが、ミウは許してくれるだろう。
「……私一人で何とか出来れば良かったけど――」
「いや、人質を取られているんだ、一人じゃ難しいよ。それにこのまま大会に出ている事が知られれば、騎士団の命が危ないしね」
機会があれば、今度はカナタとして出場しよう。
そんな事を考え、俺は会場を後にした。
以前、カナタたちが迷い込んださびれた町並み。
その街並みをさらに奥に進むと、この辺りでは珍しい、塀によって囲まれた土地が現れる。
その中心には、大きな煙突を構えた、長い一階建ての建物がある。
その煙突からは煙は出ておらず、建物の壁の塗装が所々剥げており、周りには錆びた器具が散乱、見るからに今は使われていない事が分かる。
本来ならば人っ子一人いない場所なのだが、今回は珍しく多くの人が集まっている。
その中の中心にいる男は、いやらしい笑みを浮かべ、只々待ち人を待っていた。
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俺は指定された廃工場に正面から入っていく。
そこには――予想通りの人物が待ち構えていた。
「くくくくっ、遅かったですねぇ。うっかり一人くらい殺してしまう所でしたよ」
「仮にも騎士団だろう。こんな事をして恥ずかしくないのか?」
無駄だとは思ったが、一応説得を試みる。
「くくくくっ。最後に勝てば良いのですよ。卑怯? 最高の褒め言葉じゃあないですか。追い詰められた者が悔しまぎれに発する言葉、最高ですよ。ゾクゾクします」
「大会での対戦は貴方の勝ち。通常ならば、私たちの騎士団は取り潰しになるでしょう。でも、勝った騎士団の方たちが一人でも居なくなったら? 証拠が無ければ何とでもなりますしね。最後には私の勝ちです」
勝ち誇ったように話し続けるヨーデルを見て、何とも言えない不快感が俺を襲う。
こんな男をのさばらせておいてはいけない。
俺は腰の剣に手をかける。
「おっと。人質がいることを忘れてはいないでしょうね。私の合図一つで皆殺しですよ。ゆめゆめその事を考えて行動してもらわないと――。これだから知能の低い人は困ります」
口角をつり上げ、ヨーデルはいやらしい笑みを浮かべる。
俺は剣の柄から手を放す。
「そう、それで良いのです。中々物分りが良くて助かります。そうでないとこちらもうっかり――なんて事があるかもしれませんからね」
俺に向かって何人かがじりじりと間合いを詰めてくる。
まだか……。
ドガァン!!
突如、建物から大きな爆発音が響く。
「何事です!」
男たちがその音に気を取られた隙を俺は見逃さない。
近づいて来ていた数人を瞬く間に斬り伏せる。
よし! いける!!
それに気付いたヨーデルが声を荒げる。
「なっ!? 人質が如何なってもいいのですか!?」
「人質はもう役に立たないよ」
ミサキが上手くやってくれているはずだ。
確認は出来ていないが、そこはミサキを信頼している。
こいつ等ごときに後れを取るミサキではない。
しばらくして建物から音が止む。
中から人影が一つ、ミサキだ!
ミサキは俺に向かって二本の指を立てる。
「……ぶぃ。ミッション成功」
もう遠慮をする事は無い。
俺は炎の矢を展開し、男たちに向かって放つ。
「ぎゃあ!」 「あちぃ!」
同時に剣も振るい、一人、二人と倒していく。
そしてとうとう残りはヨーデル一人となる。
「くっ! 以前見たときにはこのような実力は……」
「それをお前が知る必要はない。あの世で反省するんだな」
ヨーデルが決死の形相で斬りかかってくる。
しかし、追い詰められている余裕の無さか、大会の時ほどのキレが無い。
シュパッ!
俺の剣がヨーデルの右腕を落とす。
「ぎゃあっ! 痛い! 痛い!!」
ヨーデルは地面をのた打ち回る。
それを見て俺の気持ちが少し晴れていく。
利き腕を無くしてはもう騎士としての生活は無理だろう。
命まで取る必要はないか……。
そう思い、俺が後ろを向いた瞬間――
「死ね!」
ヨーデルが最後の気力を振り絞るかのような突きを放ってきた。
しかし、俺はダグラスさんに教わった残心を忘れてはいない。
突きをひねってかわした勢いのまま、円を描くように剣を振るう。
その場に崩れ落ちるヨーデル。
もうこれから彼の言葉を聞くものはいないだろう。
「……カナタ、お疲れさま」
ミサキから声がかかる。
いや、一応カリスの姿でいるんだけれど……
まあ、皆ダメージでそれどころでは無い様なので問題は無いが。
「……面白いのを捕まえた」
よく見るとミサキが縄を括り付けた何かを引きずっていた。
ん!? 誰だ!?
「無礼者! 私を誰だと思っている! 今すぐ縄を解け!!」
成金貴族といった風な服を着た男がわめきたてる。
どこかで見たような――
そうだ! 大会の時ヨーデルの応援をしていた貴族だ!
「……おそらく黒幕。一緒に突き出すのが良い」
「何を言っている! これはこいつらが勝手にやったこと、私は知らんぞ!」
「……うるさい」
ゴンッ!!
ミサキの弱めの魔法により、騒がしかった男は静かになる。
どうやら気絶したようだ。
「さて、とりあえず残りの連中も縛って――、そういえば何処に突き出したらいいんだろう?」
「……騎士団同士のいざこざ。本物のカリスに任せる」
うん! そうしよう。
俺たちは男たちをそのまま残し、ゲートで別荘へと飛んだ。
「そうか……そんな事が……。皆は無事なんだな?」
もう起き上れるくらい元気ななったカリスが、俺の目をまっすぐ見つめる。
「……ええ、命に別状はなかった。自力で逃げられたくらいだから」
俺の代わりにミサキが答える。
その言葉を聞き、カリスは安堵の表情を浮かべる。
「とにかく礼を言わせてくれ。ありがとう」
カリスは俺たちに向かって深く頭を下げた。
「いや、困ったときはお互い様だ。――ところで、連中の事なんだが……」
「それは任せてもらって大丈夫だ。責任をもって国で裁いてもらうさ」
――という事で、さっそくカリスを連れて工場後まで飛んだ。
カリスには転移魔法と説明してある。
まあ、異空間とは想像できないだろうから大丈夫だろう。
縄で縛っていた男たちを叩き起こし連行する。
途中で、カリスの仲間たちが応援を引き連れてやってきたので手伝ってもらう。
これにて一件落着――かな。
「カナタ、優勝しなかった……」
頭の上からミウが不満を口にする。
「いや……だって、これは仕方がないだろ。約束が守れなかったのは悪かったけど……」
確かにミウと約束したけど、騎士団の命もかかっていたわけで……。
いや、まだ謝ってなかった俺も悪いのか。
――などとあれこれ考えていると、
「うん、そうだね。言ってみただけ♪」
思わずこけそうになった。
ミウも人?が悪い。
いや、ミウは普通こんな場面でからかう様な事は言わないはずだ。
入れ知恵したのは誰だ?
「……カナタの困り顔、良い♥」
考えるまでもない、やはりミサキか。
ミウの情操教育上良くないので隔離するべきか。
半分本気で考えてしまう俺だった。
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